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おそらく

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目覚めると案の定、二日酔いになっていた。汽車に乗り遅れないよう、足早に駅へ向かった。

「じゃあな賢ちゃん、またいつでもおいで。ワシらはいつでも大歓迎じゃぞ」

「ご武運を祈ってるわよ。頑張ってらっしゃい」

「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとうございました。行って参ります」

おじいちゃんに持って帰れと言われたお酒とお米が入った重たい鞄を背負い、電車に乗り込んだ。席に着くと窓を開けた。

「どうか、長生きを」

「おう」

おじいちゃんとおばあちゃんが見えなくなるまで、窓から顔を出し、手を振っていた。おそらく最後の別れだ。最後のひとときまで目に焼き付けていた。やがて小さくなり、姿が見えなくなった後、外の景色をぼんやりと眺めていた。

窓の外からは潮の匂いと石炭の混じった匂いが入り込み、粉塵が頬にまとわりついた。これらにさえ寂しく、愛おしく感じていた。俺は感じる全てのものと別れを告げるかのように意識を傾けていた。

「兄ちゃん前線へ戻るんか?」

およそ三十分ほど汽車に揺られた頃、俺の左前に座っていた高価なものを身にまとい、皮のハットを被った老人に声をかけられた。

「はい。戻る前に祖父と祖母に会いに来てたんです」

「そうかそうか、あの街も寂しくなったのお。若者がめっきりおらんくなってしもた。お二人とも元気だったか?」

「元気でした。これで安心して前線へ戻れます」

「そうかあ。ご武運を祈ってるぞ、ほれっ」

駅に降りる間際、俺の手のひらに飴玉を置いていってくれた。俺はそれを口に放り込み幼い頃ならすぐに噛んでいたであろう飴玉を、噛むことはせず、口の中で溶けるまでその存在を感じていた。

そして、分解しきっていないアルコールのせいか眠気に襲われ、一眠りしている間に駅に着き、車掌に軽く肩を叩かれ目を覚ました。

二日酔いには外の風が心地よく、どこまでも歩いて行けそうだった。何度通ったかわからない駅から家へ帰るこの道を後、何回通ることができるだろうか。この景色、この匂い、この感覚、全てを身体に染み込ませながら歩いていると家に着いた。

「ただいま」

「お帰り。二人とも元気にしてたか?」

「お元気でした。おじいちゃんは相変わらず酒飲みで、何本も瓶が空いていましたよ。おばあちゃんは相変わらず優しかったです」

「そうかあ、安心したわ。向こうは何かと揃っていて羨ましいわ。てか賢治、臭うぞ」

「俺も山ほど飲まされたんです。これどうぞ、おじいちゃんに持って帰るよう言われたお酒です。聞くところによると高い代物らしいですね」

「おう、ええお酒じゃないか。さっそく今晩飲むぞ」

父はそう言うと母にお酒を見せ二人で飲む約束をしていた。

俺は二日酔いとともに畳の上に寝転び、少しでも早くアルコールが分解されるように願っていた。





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