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あと、二日

私の夜の夢

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 夢を見た。
 遠い過去の夢。
 誰かが喋っていた。
 その声に耳を傾けた。


     ※


■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■
運■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■命■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■を■■■■■■ 
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■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■信■■■■■■■■■■■
■■じ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■て■■■■
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■■■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■?

私が求めていた幸せな結末は。私にとったら最悪な結末だった。
■■■のために、それを求め続けていた。
だけど幸せになれる人は、誰もいなかった。


    ※


 そんな、よく分からない声が聞こえた夢だった。
 最後以外は、ほとんどが掠れて聞き取れなかった。
 だけど。それが、私の過去の記憶だというのは、なぜか理解していた。
 ……その根拠なんて、無かった。
 本能が察したのかもしれない。

 私は、いつの間にか目を覚ましていた。
 昨日は、いつの間にか眠っていたらしい。
 ムクリとベッドから体を起こし、目を擦る。
 同時に頭に思い浮かんだのはリリィの存在。
 横を見れば、その人はいない。
 ……そういえば、昨日はリリィと──。
 ハグとか。キスとか。
 しかも私は、リリィに好きっていう感情を抱いて……。
 だけど。覚醒しきっていない頭で考えているからか。
 それがさして恥ずかしいことの様には感じなかった。
 もちろん少しは恥ずかしい。そりゃそうだ。
 頭が回り始めたり、リリィの顔を見たりしたら、もっと加速はしそうだけど。

 まぁいいかと。私は、光差す窓の外を見やる。
 その光の具合に違和感を抱き、私は時計を確認した。
 時計が指していた時刻は──十二時半。
 もうお昼を回っていた。

「……めっちゃ寝てるじゃん、私」

 しかし慌てても仕方がない。
 私はリリィを探すべく、ベッドから完全に起き上がる。
 筋肉痛で少し痛む身体を動かして、部屋のドアノブに手をかける。
 開けた瞬間に、私の鼻を良い香りがくすぐってきた。

「……?」

 引き寄せられるように、私はその香りの元へと向かう。
 匂いの発生源は食堂だろうか。
 凄く美味しそうな匂い。
 なんだろう。
 遅かった足取りが、次第に速さを増していく。
 食堂に辿り着き映った光景に、私は思わず感激してしまった。

「え! 何これ!」

 抱えていた少量の眠気成分が一気に吹き飛んだ。
 そこにあるものに身も心も惹き寄せられる。

 テーブルの上には、それはそれは美味しそうな料理が並べられていた。
 そしてテーブルの真ん中に鎮座しているのは、どことなくしたり顔なリリィ。
 やっぱりちょっとだけ、その顔を見るのは恥ずかしかった。
 私の驚いた顔を見たリリィは、少し微笑み口を開いた。

「朝ご飯兼、お昼ご飯兼、昨日の晩御飯兼、昨日のお礼」
「まじか!」

 ちょう薄っぺらい返しをしてしまった。
 けれど、語彙力を失うほどに、そこにあるのは素敵な光景だった。
 街に一つ有るか無いかの高級料理店みたいな。そんな風貌である。
 昨日の夜も食べて無かったことを思い出し、思い出したかのようにお腹が悲鳴を上げる。
 思わずお腹を抑え、それを見たリリィは少し楽しそうに頷いていた。
 笑顔で恥ずかしいのを誤魔化しながら、私はリリィに問うてみた。

「これ全部、リリィ作?」
「うん」

「え、凄い! リリィ、料理の才能あったんだ!」
「……まぁね」

 リリィは鼻を掻く仕草をして、照れ臭そうにした。
 あれ? だけど、ちょっと疑問に思うことが一つ。

「そう言えば、料理の材料は? 見た感じ、お肉とかお野菜とか、色々と材料使っているっぽいけど。私の家、今、食糧の在庫切らしてた筈だし……」
「……言いにくいんだけど、ミリアのお金です」

「うーん。許す!」

 だって食費は元々、自分のお金からだし。
 厳密に言えば、自分のお金では無いけど。
 今は何よりも、リリィがこうして食事を振る舞ってくれることの方が嬉しい。
 ……なぜ、私の財布の置き場所が分かったのかは不明だが。
 適当にそこら辺を探し回ったのだろう。
 私の部屋の一番上の棚にしまっていただけだしね。

「ミリア、隣来て」
「あ、うん!」

 さささっと、リリィの隣に腰掛ける。
 ちょっと椅子の位置が近い気がするけど、気のせい?
 ……気のせいということにしておこう。
 気のせいじゃ無いだろうけどね!
 ……と言うか、距離が近い方が、私的にも嬉しい。

「じゃあ、頂いていい?」
「どうぞ」

 私は両手を合わせ「頂きます」と言うと、一番近くにあったサラダから手をつけた。
 ドレッシングまでかかっているけど、これも手作りだろうか。
 フォークで葉を刺し、それを口の中に運ぶ。
 シャキリとした気持ちの良い食感の後に広がる水々しさ。それに混ざる酸味。

「美味しい!」
「そう、よかった」

「え。でも、リリィこんなに作るの時間かかったでしょ?」
「うん。八時に起きて、すぐそこの市場まで買い物に行って。家帰って作った」

「凄い」
「……うん。ミリアに何か振る舞いたかったって思いもあったし」

「嬉しい。……あと、起きるの遅くてごめん。待った? ちょっとお肉とか冷めちゃったかな」
「ミリアが起きるのが十二時かなって予想して、それに合わせて作り始めたから、ちょっとだけ待ったかも」

「それは……えっと、ごめん」
「大丈夫。謝って欲しいわけじゃ無いから。……それにしてもさ」

 そこまで言って一旦止めると、リリィは私の顔を覗いてこう言ってきた。

「……今日のミリア、なんだかミリアらしくない」
「えっ! 私らしくないと言いますと⁉︎」

 聞くと、リリィはモジモジと恥ずかしそうに口にする。

「……昨日さ、キスしたじゃん。ミリアから」

 全力で顔を逸らす。
 顔のパーツのほとんどが温度を上げ始めるのが分かる。
 思った通りというか、恥ずかしさが加速している!
 あえてこの話題は出さないと決めていたのに!

「あ。うん。……その顔を逸らす感じ。……良かった。いつものミリアだ」
「なんだか馬鹿にされてる感じが心外なんですけど⁉︎」

「だって。私は朝に色々と整理する時間があって。……だけど、ミリアは今起きてきたワケじゃん。……少しくらいは恥ずかしがって欲しいって思っただけ」
「……そ、そうだね。……ま、まぁ、私も恥ずかしいのを隠してたというか。そんな感じなので……」

 …………。
 無言が訪れ、しばらく続く。
 色々と耐えきれず、沈黙を裂くように私は次の料理へと手を伸ばす。
 今度は肉料理。口に運び、咀嚼する。
 寝起きの胃には重い気がしたけど、味付けはあっさりで丁度良い。
 しかし薄くは感じない。嫉妬してしまうほどに、塩梅が完璧である。

「こ。これも美味しい!」
「……ん。良かった。手間かけた甲斐あった」

 嬉々としたリリィの声。
 思ったけど、最初に比べて随分と感情が見えてきた気がする。
 向こうも心を開いてくれているってことだよね。
 だったら、最大限まで心を開いて欲しいな。

「…………」

 私は思考する。
 その方法を模索する。
 私たちの残り時間は少ない。
 睡眠時間でそれを無駄にしてしまったけど。
 正直、睡眠で時間が削られるのはしょうがないと思う。
 だから。今から、楽しい思い出作りをして、取り戻したい。
 家にいても特に楽しいことは無さそうだし……。
 あ、そうだ。

 私はフォークを置き、手をポンと叩いた。
 サラダに集中していたリリィの顔が、私を向いた。
 その顔に、私の顔を合わせる。

「この後、街の観光しない? この街、広いワケじゃ無いけど、昔に比べて結構色んなものができているんだよ! 思い出を作りたいなって!」
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