魔法適正Fランクの落ちこぼれ魔法使い、Sランクの魔力蓄積量とスキル《魔力操作》で最強です!

沢谷 暖日

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第2章 アレクシス王国、王都

第13話 叫び声の先に

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 私たちは肩を震わせ、開いた目を互いに見回す。

「御者さん! 今、魔物の声が!」

 ドロシーが一足先に口を開く。
 御者のお姉さんは「魔物か」と溜息混じりに呟くと、

「ちょっと馬車、止めるよ。なに、馬車にいれば安全だよ。様子見をしてから再発進しよう」
「待ってください! 今、人の声もしませんでしたか?」

 思わず口を開く。
 多分、聞き間違いじゃないはずだ。
 しかし御者は首を傾げていた。ドロシーでさえも少し曖昧な反応をする。

「確かに言われれば聞こえた気もするけど……」
「ちょっと私、様子を見てくる」

 考えるよりも先に、身体が動いていた。
 誰かの命が危険に晒されているのなら、助けたい。
 つい最近までの私なら動くことすらもしなかっただろうけど。
 ただ、昨日の恥ずかしいアレのお陰で、多少なりとも自信がついた。
 森にいる程度の魔物であれば、どうにか対処できるんじゃないかと思う。

「え、待って。クロエが危なくなっちゃうよ」
「そうだけど。……もし、本当に襲われているのならって思って」
「なら私もいくよ! 私もクロエの力になりたいから」
「やった。ドロシーがいるなら百人力だね!」

 と言って、私たちは馬車を飛び降りる。
 そして互いに目を見合わせて『よし』と首を縦に振った。
 そんな私たちの様子を見た御者のお姉さんは、ハッとしたように声を飛ばす。

「おい待て。確かにこの森には大した魔物はいないが、私たちの仕事は客人を無事に目的地に送り届けることだ。心配な気持ちは大いに分かるが、ここは私たち御者の仕事だ」
「そ、それは分かりますけど! けど! 救える命は早めに救った方が良いんですよ!」

 と。そんなことを言い残し、私たちは魔物の咆哮が聞こえた方角へと駆け出した。
 背後から「待て!」というお姉さんの声に混じり、他の御者の声もする。
 でも。私の言っていることは間違いじゃないだろう。
 一瞬の遅れで救えなくなる命なんて、この世にごまんとあるはずだ。

「お、昨日のクロエが戻ってきた?」
「待って、別にカッコつけてないからね!? というか逆にドロシーは、なんだかアレだね。カッコ悪い? いや、逆に可愛いかな?」
「もしかして、私の服装のこと?」

 そう。隣を走るドロシーは未だにパジャマ姿だった。
 ちなみに靴は私の予備の花柄が入ったやつである。

「うん。やっぱり可愛いと思う!」
「そう? でもなんか、褒められてる気がしないような……」
「褒めてるよ! ……って、ちょっと待って」

 私は話の腰を折るように、少しばかり足の動きを止めた。
 目の前に、直近に薙ぎ倒されたであろう木が転がっていたのだ。
 それは更に森の奥の方へ、獣道のように続いていた。

 しかし少し、不可解な点があった。
 獣道が、まるでこの場所から発生していることである。
 まぁだけど、そんなこと気にしたところでか。問題は、この獣道の大きさである。
 この跡はツノ兎のような小さな魔物が付けられる代物ではない。
 つまり。想定よりも強い魔物がこの先にいるかもしれない、ということだ。
 だからと言って、ここで引き返すわけにもいかない。

「ドロシー、念の為すぐ魔法が放てるようにしてて? 私の魔法、不安定だから」
「分かった! 見つけ次第、すぐに放つよ」

 ドロシーの言葉に頷いて、私たちは獣道を駆けた。
 右へ曲がり、そして左、また左、次に右へ曲がる。
 逃げ惑ったのだろうということが簡単に窺えた。
 そして──。

 ──ガアアアアアアアア!!

 咆哮が近い。
 ビリビリと僅かに鼓膜が震える。
 右へ曲がり、真っ直ぐと駆け──見つけた。

「いたよ、ドロシー!」

 奥の方に、黒い剛毛が目立つ魔物の後ろ姿が見えた。
 そして幼い少女の姿が、魔物の正面に僅かに写る。
 やはり叫び声は聞き間違いでは無かった。
 それにどうやら、まだ大事には至っていないらしい。
 だが、少女は腰を抜かしたのか、地面にぺたんと尻餅を付けていた。
 そんな少女に、魔物が大きな右腕を空へと振り上げる──その瞬間。
 魔物の背中へと、ドロシーが魔法を放った。

「『アイスランス』!」

 放たれた氷の槍は、迷いなく魔物にめがけて飛んでいった。
 魔物の皮膚を突き刺したそれは、しかし貫通するにまでは至らない。
 それでも。注意をこちらに向けることには成功した。

「ガアアアア!!」

 苛立ちのような叫び。
 魔物は刺さった槍を引っこ抜くと、私たちを向いた。
 背後の少女は、ハッとしたように一本の木の裏へと身を潜める。

「ギィィィ……。ギィィィ……」

 魔物は口端から荒い息を噴き出し、私たちを睨み付けて──って、え?

「────」

 私は魔物の容貌に、思わず絶句した。
 その魔物が想定していたよりも恐ろしく、おぞましいだとか、そんな理由では無くて。
 ただ、よく似ていたのである。

 ──私が五年前に森で遭遇した、あの魔物に。
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