魔法適正Fランクの落ちこぼれ魔法使い、Sランクの魔力蓄積量とスキル《魔力操作》で最強です!

沢谷 暖日

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第2章 アレクシス王国、王都

第14話 あの日の魔物

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 疑心は一瞬で確信へと変わった。
 間違いなく、この魔物は、五年前に遭遇したあの魔物。
 こいつの恐ろしさは身をもって知っている。
 御者の人らの助けは、まだ来る気配は無い。
 これはひょっとしてピンチなんじゃ?

「クロエ! どうにか時間稼ぎできる!? 私、氷の魔力を集めるから!」

 ドロシーの叫びに、私の意識は現実に引き戻される。

「わ、分かった! 任せて!」

 今の私に何ができる。どうすればいい。考えろ。考えろ、私。
 奥の木には少女が身を隠しているはずだ。なら、危ないこともできない。
 私に今できることは──魔法。魔法、しかない。
 少女を危険に晒さないのは──闇属性だろう。
 そうと決まれば例の如く、両手に魔力を注いでゆく。

「ギイイィィィ……」

 魔物は睨み付け、威嚇をしているようだ。
 私が魔力を注いでいることには気付いていない。
 だが。私と違いドロシーは周囲の魔力を集めている。
 その魔力の流れに、魔物は気付いているはずだ。
 まずは──そうだ、私たちの姿を隠すことから始めよう。

「『ダークミスト』」

 魔法を放つ。
 魔物に向け、ではなく足元の地面に向け。
 そもそも魔物との距離は七メートルほどだ。
 魔法適正 Fランクの魔法じゃ、届かせることは困難だろう。

「……よし」

 狙い通りだ。
 放った黒いもやは周囲に広がり、私たちの姿を覆い隠す。
 しかし同時に、魔物の姿も捉えられなくなる。
 でも、今はこうするしか無い。

「ドロシー。とりあえず死角に」
「うん」
「あと、魔物の討伐っていうのはあまり重視しなくていい、よね?」
「うん、女の子を優先、だよね」

 早口で言葉を交わし、私たちは右方向の木の裏のへ身を潜める。
 そのタイミングで魔物が「ガアアアア!!」と鼓膜を震わすほど咆哮をあげ──。
 瞬間、爪の振る音。次いで、旋風が巻き起こり私たちの横を通り抜ける。
 黒いもやは一瞬で消滅し、地面は抉り取られ、後方の木は薙ぎ倒された。
 私たちの姿は暴かれなかったが、しかしそんなことを考える余裕もない。
 今のはヤバい。それだけしか理解が追いつかなかった。

「あ…………」

 漏れた声に、思わず口を覆う。
 手に当たる呼吸が段々と荒くなっていた。
 だってそこにいるのは、私が想定していたよりも何倍もヤバい魔物である。
 デタラメに暴れられでもすれば無事に済まないことを、私はやっと理解した。

「ド、ドロシー」
「……逃げる? いや、それだと──」
「……うん。だよね。……だから、どうしようか」
「クロエ、震えてるよ? 大丈夫?」

 言われなくても分かっていた。
 身体どころか、声すらも分かりやすく震えている。
 けれどそれは、ドロシーも同じだった。
 だから、どうにかするしかない。どれだけ怖くても。

「ドロシーは今、氷の魔力を集めてるんだったよね?」
「うん。もう放てるとは思うけど。どうする?」
「じゃあ、まだ魔力を溜めてて欲しい。合図するからその時に放てる?」
「分かった。クロエはどうするの? 危ないことだけはしないでね?」
「ありがと。大丈夫」

 私はドロシーから魔物に目を映す。
 風属性で怯ませられるような魔物とは到底思えない。
 いや、どうだろう。私の魔法は時間をかければ強大なものになり得る。
 時間稼ぎになる程度の魔法なら放てるかもしれない。
 今ドロシーは氷の魔力を集めている。ならば、私が魔物の体勢を崩したところに、ドロシーが氷魔法を放ち、その間に私が少女を助ける。この流れはどうだろうか。
 考える時間も無い。これでいこう。

「…………」

 風の魔力を両手に注ぐ。
 できる限り多くを。

「ドロシー。もうすぐ」

 魔物は首を回している。
 いつまでも魔力を注いでいるわけにもいかない。

「分かった」

 私は深呼吸を一つして、魔物の隙を突くように──!

「『エアーインパクト』!」

 木の裏を飛び出し、魔法を放つ。
 巻き起こった鋭い風に、魔物は唸り声をあげた。
 動揺した魔物の隙を逃さず、私は少女がいる奥の木へ向かう。
 そして──。

「ドロシー!」
「うん!」

 その頷きから一拍後。

「『アイスランス』!」

 ドロシーの声と共に、私の背後を冷気が駆ける。

「ガァッ!?」

 魔物の虚を突かれたような低い声。
 全ての情報を整理する前に、私は少女の元へ辿り着く。
 さて、ここからどうするか。と、新たな思考に切り替えようとした矢先。
 私は目の前の光景に、眉をひそめた。

「え……?」

 少女の姿が、どこにも見当たらなかったのだ。
 確かに、この場所に逃げ込んでいたはずなのに。
 なのに、そこには動いた様子も、形跡も無い。
 ただ。黒い石一つのみが、ポツンと置かれていて。
 これは──魔石、だろうか?
 いや、今はそんなことより──!

「クロエ!」

 ドロシーの震えた叫び声。咄嗟にその方を向く。
 そして同時に、魔物の姿が目に映った。
 しかし、その光景は意を反するもので、私は息を呑む。
 魔物には、一つも傷が無かったのだ。

 理解が追い付かない。

「クロエ危ない!」

 気付けばもう、大きな影が私を覆っていた。
 爪が掲げられ、五年前のあの日を想起しながら、今度こそ死ぬ。と本能的に察す。
 でも──ちょうどその時だった。

「『ストーンブラスト』」

 上空からの声。そして、雨のように魔物に降り注ぐ、無数の岩。

「ガアアァァァァァ!」

 魔物の厚い装甲から血が噴き出す。
 断末魔の末、魔物は私の視界から消え去った。
 ほんの一瞬だった。
 一体何が起こった? 誰かが助けてくれた?
 しかし声の主は少なくとも、ドロシーでも御者の人でも、もちろん私の声でもない。
 ただ、私はどこかで、その声を聞いたことがあったような気がした。

「……たす、かった?」

 刹那、くらりと視界が揺らぎ、私はその場にドサッと倒れ込む。
 駆け寄ってきたドロシーが私の身体を揺らす。が、景色は次第に遠ざかる。
 私に呼びかける声も、感触も、全て。

「────」

 誰かが来た。
 私を助けた人だろうか。
 わからなかった。

 ただ。金色に輝く髪が、消えゆく視界に揺れていた
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