ネトゲの旦那は私のアバターにしか興味がない!

彼岸花

文字の大きさ
7 / 48

7 二次元美少女に勝てるわけないよね

しおりを挟む
「こ、この状況は……」

 映画館に着き席に座った私は、隣を見て困惑した。何故かと言うと、仲睦まじいカップルがいたからだ。
 これだけ席があるのに、なんでこうなったの?
 しかも、思わず目を覆いたくなるようなイチャイチャっぷりだ。
 手を絡ませて、お互いに目を逸らさずに見つめ合っている。
 映画の内容的に、きっとオタクカップルなんだろうけど……。
 遥斗のほうを見ると、全く気にする素振りもなくリラックスした様子で座っている。
 え、気まずくないの? 気まずいのは私だけ? いや、よく考えたら三次元の恋愛に関心がない人だから気にするはずないか……。
 でも……いいなぁ。正直、羨ましい。私も手を繋いでもらいたいな……。
 そんなことを思いながら、ちらりと隣にいる遥斗を見る。
 それにしても、まつ毛長いし髪さらさらだな……横顔も格好いい。

「何だ? さっきから、人の顔をジロジロと見て……」

 私の視線に気付いた遥斗がこちらを向いた。
 ……しまった。思わず見惚れてしまった。ちらっと見るだけのつもりだったのに。

「あ、えっと……目の色、珍しいなぁと思って」

 慌てて誤魔化したけど、彼の目は本当に珍しい色をしている。
 こういうのをヘーゼル色っていうんだっけ。緑と茶色のグラデーションが綺麗だ。

「あぁ……よく言われるな。母親がロシア人のハーフなせいだと思うが」

 あ、やっぱりクォーターだったんだ。というかこの人、二次元をこよなく愛してるけど、自分が二次元から飛び出してきたような容姿なんだよね……まあ、自覚はないのだろうけども。
 そして、映画が始まったけど隣にいる遥斗が気になりすぎて、まともに観れなかった。


◇ ◇ ◇


「劇場版はアトレイアが大活躍だったな!」
「え……そ、そうですね!」

 貴方に見惚れてて、正直あまり内容が頭に入ってこなかったなんて言えない……絶対言えない。

「敵国のスパイ容疑をかけられた主人公に、アトレイアが『今さら疑うものか! 私はお前を信じる!!』と叫んだシーンは痺れましたよ!」
「流石だな……見所がわかってる!」

 適当に覚えているシーンをあげてみたら、褒められてしまった。
 ハイテンションになってアトレイアの魅力を語り始めた彼を見て、複雑な気分になる私。

「本当に好きなんですね、アトレイアのこと」
「……やっぱり、二次元を本気で好きになるのはおかしいと思うか?」

 突然、道端で立ち止まった遥斗は何時になく真剣な様子で私に尋ねた。
 あれ? 急にこんなことを聞くなんて、どうしたんだろう。

「……正直、最初は引きましたけど。今は、そんな人もいるよねって思ってますよ」
「そうか……。幼稚園の頃、『ガードマスターざくろ』というアニメを偶然見たんだ。それが、全ての始まりだった」
「えっ……」

 ……なんか、いきなり過去を語り始めた。しかも、幼稚園!? その頃から既に二次コンを発症していたなんて。
 想像以上に深刻な、彼と二次元美少女の歴史に私は動揺を隠せなかった。
 だけど、ここは平静を装わないと……。

「そ、そのアニメ、私も昔見てましたよ! ヒロインのざくろのコスチュームが毎回、可愛くて好きだったなぁ」

 彼の言う『ガードマスターざくろ』とは、十年以上前にやっていた女児向けの変身ヒロイン・アクションアニメだ。
 異色の『盾使い防御系ヒロイン』という話題性もあったせいか、当時は周りの子供みんなが見ていた。
 ヒロインのざくろが駆けつけたときにモブが言う「メイン盾きた! これで勝つる!」って台詞をよく真似していた記憶がある。

「知ってたか。しかし……今思うとあれだけ激しい動きをしているのに、あのスカートは鉄壁すぎるな」
「夕方放送の女児向けアニメに、何期待してるんですか!? お茶の間が凍りますよ!? しかも、ヒロインがロリなのに!」

 ……ふと思った。この人、今もロリキャラは守備範囲なのかな。
 聞きたいけど、怖くて聞けない。よし、やめておこう。それで目覚められても困るし……。

「まあ……それで、ヒロインのざくろに一目惚れしたんだ。それから先は……もう二次元キャラしか好きになれなくなってた。自分でも、なんでこうなったのかわからんが……」

 そう言って、遥斗は目を伏せた。何か思う所があったのかも知れない。
 でも、ちょっと待って。その歳で二次元に目覚めたってことは、今まで二次元しか好きになったことないのでは……?
 そんな相手を振り向かせるなんて無理ですよ、シオンさん! せっかく応援してくれたのに……。

「あの、でも……私、好きなキャラのこと語ってるときの遥斗くん、好きですよ。……あ、別に変な意味じゃなくて! 生き生きと話す姿って、なんかいいなって思って」
「……そんなことを言ったのは、お前が初めてだ。やっぱり、変わってるな」

 私が変わってる? ……違うよ。貴方のことが好きだから、貴方の好きなものを否定することができないんだよ。
 二次元に勝てないなんて、悔しいよ。自分の作ったアバターに負けるなんて、悲しいよ。なんで私を見てくれないのって言いたいよ。
 でも、貴方の好きなものを否定したら、貴方自身を否定してしまうことになる気がするんだ。
 ……全部、素直に言えたらいいのにね。
 でも、伝えたら今の関係すら壊れてしまうかも知れない。だから、今の私にはまだ言えない。

「……そうですね、変わってるのかも知れないです」

 私はそう返すと、空元気で笑ってみせた。

「しかし……ロリキャラか。それもいいかも知れんな」
「あのー……。人がせっかく、そっち方向に目覚めないように話題を避けてたのに、なんで自ら変態の道を突き進もうとするんですかね……」
「今度、サブキャラで一人作ってみてくれないか?」
「嫌ですよ! それはもう、他の人に頼んで下さい!」

 私はそう叫ぶと腕を組み、怒りを露わにした。

「冗談だ。嫁は一人で十分だからな。それに、俺は……」

 遥斗は、怒っている私の顔を覗き込む。

「……?」
「今の嫁一筋だ。乗り換えようとも思わん」

 そう言って、遥斗は屈託のない顔で微笑んだ。
 ……やめて。リアルでそれを言われると、まるで私自身が言われたかように錯覚してしまうから。
 わかってる。その言葉は私に向けられたものじゃない。『ユリア』に向けられたものだ。
 それなのに、胸の高鳴りが止まらなかった。

「夏陽。今日は、付き合ってくれてありがとう。これからも、よろしく頼む」

 複雑な心境の私に、彼は片手を差し出した。

「なんですか、この手」
「見てわからないか? 握手だ」

 私は、渋々自分の手を差し出す……ふりをした。嬉しい気持ちを、決して悟られないように。
 例えそれが友好の意味しかないとしても、その手に触れられるだけで十分だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~

紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。 ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。 邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。 「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」 そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...