ネトゲの旦那は私のアバターにしか興味がない!

彼岸花

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10 嫉妬って辛いよね

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 私たちが行くことになった場所は『ロッシュの森』というダンジョンだった。
 ルディアスとリノが組んでいた頃によく行っていたダンジョンらしい。
 私、よく考えたらここに来たの初めてだなぁ……。

 ダンジョンに着いた私は、辺りを見渡してみた。
 なんか怖そうな見た目のモンスターが徘徊してるけど、背の高い木々が生い茂る綺麗な森だった。
 というか……あのモンスターたちと戦うのは、絶対私にはまだ早い。ものすごい場違い感が……。
 少し離れた所にいるキノコみたいな見た目のモンスターを凝視していたら、目が合った。
 その途端、モンスターはこちらに向かって突進してきた。うわ、タゲられた!
 私があたふたしていると、それに気付いたルディアスが剣を振り下ろし、モンスターの頭部をバッサリと切り落とした。
 キノコ型モンスターの傘が取れて絶命してる……。
 キノコだし特別グロくはないけど、気分的になんか嫌だな……。

「ユリア、大丈夫か?」

 ルディアスが私の方に振り返って、そう言った。
 ……やっぱり、剣持って戦ってる時のルディアスは一段と格好いいなぁ。

「う、うん……」
「援護するから大丈夫だと思うが、辛かったら言えよ」
「……ありがとう」

 そう、これ……これなんですよ。こうやって、ルディアスが時々見せる優しさにどんどん落ちていくんですよ。
 王子プレイしてる時より、まさかこっちのほうがキュンと来るなんて。きっと、本人は自覚ないんだろうな……。

 とりあえず、奥に進む私たち。
 前衛のルディアスがバッサバサと敵をなぎ倒していくから、私はほとんど何もせずに来てしまった。
 一応、私も剣士だから前衛なのに、これでいいのかな……。

「ルディ! 今、回復するわ! ……ヒールライト!」

 リノは透かさず、敵の攻撃を受けたルディアスに回復魔法をかけた。
 続いて、彼にサポート系の魔法を次々とかけていく。その後、私にもかけてくれた。

「ありがとう、リノ」
「いいえ、気にしないで。それにしても……この感じ、何だか懐かしいわね。貴方の相方だった頃を思い出すわ」
「ああ、そうだな」
「あの頃のルディったら、無理して敵の群れに突っ込んでいくから、回復が追いつかなくて大変だったのよ?」
「そういえば、そんな頃もあったか」
「あったわよ! 私の苦労も知らないで、強行突破しようとするんだもの。今は、少し慎重になったみたいだけどね」
「リノなら、ついて来られると信じてたからな」

 突然、二人の過去の話が繰り広げられる。
 一度関係は拗れたみたいだけど、昔は仲が良かったんだろうなっていうのが伝わってきた。
 ……でも。なんだろう、この感じ。すごく胸が苦しい。リノは『私が知らない頃のルディアス』を知ってるんだ。
 しかも、息ピッタリだよね。リノは、ルディアスがどういう戦い方をするのかとかも全部知り尽くしてて、どうやったら上手くサポートできるかもわかってる。
 はっきり言って、この会話を聞くのはきつい……嫉妬してしまう。
 ──ねえ、ルディアス。私の目の前で、楽しそうにリノと会話しないでよ。

「ユリア、どうした?」

 何もわかっていないルディアスは、俯いて立ち止まっている私の顔を不思議そうに覗き込んだ。

「……あ、ごめんなさい。何でもないので、気にしなくていいですよ」

 本当は全然何でもなくなかったけど、その場は無理をして笑ってみせた。
 私はもやもやとした気分を引き摺ったまま二人について行き、ダンジョンの深部へ進んだ。


◇ ◇ ◇


 私たちは、ボスがいる森の最深部に到着した。
 派手なエフェクトとともに出現したボスモンスターは、巨大なストーンゴーレムと──ゴーレムの肩にちょこんと乗っている美少女だった。
 ボス情報を確認すると『森の魔女エリス&ストーンゴーレム』と書いてある。
 どうやら、魔女エリスがこのストーンゴーレムを操ってるという設定らしい。
 エリスは、長い金髪にとんがり帽子を被り、ゴスロリ風の服を着た可愛らしい魔女っ子だった。
 人型モンスターだけど、尖った耳と赤い瞳が魔族っぽい。

「ゴーレムは大きくて怖いけど、上に乗ってる女の子は随分と可愛いですね」
「ええ。このダンジョンのボス『森の魔女エリス』は、男性プレイヤーからの人気が高いのよ。そのせいか、BRO公式サイトのファンアートや、外部のイラスト投稿SNSにはエリスのイラストが溢れ返っているわ」
「そうだったんですか。詳しいですね、リノさん」
「一応、古参プレイヤーだからそういうことも知ってるのよ」

 あまりその辺は詳しく見てなかったので、知らなかった。
 そんなに人気キャラだったのね。公式ファンアートも、今度チェックしておこうかなぁ。
 ……ん? 美少女……? ふと嫌な予感がして、ルディアスの方に視線を移した。

「さ……さっさと……た、倒さないとな!」

 ルディアスはそう言いながらも、なんだか頬がほんのり赤く染まってるし、剣を持つ手も震えている。
 彼の視線の先には……案の定、こちらに不敵な笑みを向けて挑発しているボスキャラのエリスが。
 ……やっぱり、ゴーレムじゃなくてそっち見てたか!!

「ちょっと! 大丈夫なんですか!? めっちゃ、手震えてますよ!?」
「な、何のことだ? 俺は至って冷静だぞ。べ、別に、エリスが好みのキャラだから倒し辛いとかそういうことでは……」
「自分から白状してるじゃないですか!!」

 ああ、駄目だこの人……ユリア一筋とか言ってる側からこれですよ……。
 でもまあ、プレイヤーキャラに浮気してるわけじゃないし一応、セーフ(?)なんだろうか……。

 そして、本当にすっごくどうでもいいけど、彼の好みの傾向が段々わかってきた気がする。
 ユリアみたいな凛々しさと可愛さを兼ね備えたキャラ、エリスみたいな生意気系キャラ、そしてリノみたいなクールビューティー系お姉さまキャラ。
 共通点から察するに……たぶん、ちょっと気が強そうな見た目のキャラが好きなのではないかと。
 一体何でこんな考察してるんだろう、私……。本当に、こんなのわかってどうするんだって話だよ。

「ルディったら、昔から女性型のモンスター倒すときは躊躇するのよね。いくら好きなキャラだとしても、ちょっと行き過ぎよねー」

 そう言って、苦笑するリノ。
 いや……行き過ぎというか、この人にとってはこれが通常運転なんですよ。
 もっと言えば、本気で好きなんですよ……二次元キャラを。
 それを知らずにルディアスに告白しちゃったから玉砕したんですよ、リノさん。
 ……とは流石に言えないので、何も知らないふりをして私も苦笑した。
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