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第6章 激闘、田原坂
第7話
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土方歳三少佐と林忠崇大尉は、川村純義参軍の元を辞去した後、新選組こと第3海兵大隊の駐屯地に共に歩んで戻っていた。
川村参軍の下を辞去した後、土方少佐は黙然と考え込みつつ、歩み続けている。
林大尉は、どうにも話しかけづらかったが、色々と土方少佐から醸し出されている雰囲気に耐えきれなくなり、思い切って土方少佐に話しかけることにした。
「何か色々と思うところがあるようですが」
「分かるか」
土方少佐は、林大尉の問いに、思わず笑みを浮かべて応えた。
「私も戊辰戦争で実戦を経験した身です。
その経験からすると、土方少佐には、色々と思うところがあるように見えます。
でも、自分からは整理しきれずに言い出せない。
それなら、私から声をかけるしかないか、と思いました」
「実戦経験は伊達ではなかったようだな」
林大尉の言葉に、土方少佐は、考えつつ話し出した。
「建前を言うと、川村参軍の言うことは一見すると常識だが愚策だ。
何故、相手の得意な戦術に合わせて戦う必要がある。
陸軍はともかく海兵隊は火力重視で兵を鍛えてきた。
相手が斬り込み戦術を採る、大いに結構、それならこちらは銃撃や砲撃で相手を圧倒するまでだ。
これが本来は、海兵隊の基本戦術だ。
だから、俺は川村参軍の命令を渋った」
「確かにそうですね」
土方大尉の言葉に、林大尉は答えた。
実際に、海兵隊は本来は火力を重視している。
それを海兵隊には事実上志願せずに、屯田兵として生きてきたはずの土方少佐が理解している。
土方少佐の非凡さに、あらためて林大尉は驚嘆した。
「だが、現在の田原坂の戦況から考えると斬り込み戦術のための部隊は確かに必要だ。
それが何ともいえない感情を俺に抱かせるのだ。
何で相手の西郷軍の戦術に乗らねばならないのだ」
土方少佐は、更に語った。
「更に言うなら、それに応じたい、という思いが俺にもあるのだ。
年甲斐もないと言われるかもしれない。
かつての京都時代ならともかく、俺も40を過ぎたし、4人の子持ちだ。
それにもかかわらず、前線で剣を振るいたい。
林は俺を笑うか」
「笑いませんが、一言言わせてください」
土方少佐の弁舌に対し、林大尉も考えながら言った。
「そういう思いなら、この斬り込み隊に、土方少佐は先陣として参加しないでください」
「なぜだ」
「土方少佐が、自分に相応しい死に場所を求めて、先陣を切りそうに思えるからです。
どうか死なないでください。
お願いします」
林大尉は、真率の想いから言った。
「そうか」
土方少佐は、自分の言葉を想い起こして、あらためて思った。
確かに自分は、心の奥底で、武人に相応しい死に場所を求めていたのかもしれん。
「分かった、だが、それなら誰が斬り込み隊の先陣を切るのだ」
「私がやります、私では力不足ですか」
土方大尉の問いに、林大尉は答えた。
「いや。実力は充分だ。斬り込み隊は任せる」
土方少佐は、林の言葉を認めた後、更に考えた。
下手に元新選組の一員に、斬り込み隊の先陣、指揮を任せたら、元新選組の面々を余りにも、自分が贔屓しているように見られかねない。
それも考えあわせれば、林大尉が先陣を率いる、というのは副大隊長の職責から言っても妥当だった。
それに林大尉の剣の腕は、新選組内で最強を競っていた永倉新八や斎藤一が、一目置く実力でもある。
「それでは、取りあえず、長崎の海兵旅団司令部に刀を至急、送るように電報を打って、明日朝から斬り込み隊を、至急、編制しましょう」
「そうだな」
林大尉の言葉に、土方少佐は答えた後、ふと考えた。
明日から、色々と忙しくなりそうだな。
それにしても、和泉守兼定が自らの腰に有れば、林の言葉をはね返したのだが。
これも一つの時代の流れだな。
川村参軍の下を辞去した後、土方少佐は黙然と考え込みつつ、歩み続けている。
林大尉は、どうにも話しかけづらかったが、色々と土方少佐から醸し出されている雰囲気に耐えきれなくなり、思い切って土方少佐に話しかけることにした。
「何か色々と思うところがあるようですが」
「分かるか」
土方少佐は、林大尉の問いに、思わず笑みを浮かべて応えた。
「私も戊辰戦争で実戦を経験した身です。
その経験からすると、土方少佐には、色々と思うところがあるように見えます。
でも、自分からは整理しきれずに言い出せない。
それなら、私から声をかけるしかないか、と思いました」
「実戦経験は伊達ではなかったようだな」
林大尉の言葉に、土方少佐は、考えつつ話し出した。
「建前を言うと、川村参軍の言うことは一見すると常識だが愚策だ。
何故、相手の得意な戦術に合わせて戦う必要がある。
陸軍はともかく海兵隊は火力重視で兵を鍛えてきた。
相手が斬り込み戦術を採る、大いに結構、それならこちらは銃撃や砲撃で相手を圧倒するまでだ。
これが本来は、海兵隊の基本戦術だ。
だから、俺は川村参軍の命令を渋った」
「確かにそうですね」
土方大尉の言葉に、林大尉は答えた。
実際に、海兵隊は本来は火力を重視している。
それを海兵隊には事実上志願せずに、屯田兵として生きてきたはずの土方少佐が理解している。
土方少佐の非凡さに、あらためて林大尉は驚嘆した。
「だが、現在の田原坂の戦況から考えると斬り込み戦術のための部隊は確かに必要だ。
それが何ともいえない感情を俺に抱かせるのだ。
何で相手の西郷軍の戦術に乗らねばならないのだ」
土方少佐は、更に語った。
「更に言うなら、それに応じたい、という思いが俺にもあるのだ。
年甲斐もないと言われるかもしれない。
かつての京都時代ならともかく、俺も40を過ぎたし、4人の子持ちだ。
それにもかかわらず、前線で剣を振るいたい。
林は俺を笑うか」
「笑いませんが、一言言わせてください」
土方少佐の弁舌に対し、林大尉も考えながら言った。
「そういう思いなら、この斬り込み隊に、土方少佐は先陣として参加しないでください」
「なぜだ」
「土方少佐が、自分に相応しい死に場所を求めて、先陣を切りそうに思えるからです。
どうか死なないでください。
お願いします」
林大尉は、真率の想いから言った。
「そうか」
土方少佐は、自分の言葉を想い起こして、あらためて思った。
確かに自分は、心の奥底で、武人に相応しい死に場所を求めていたのかもしれん。
「分かった、だが、それなら誰が斬り込み隊の先陣を切るのだ」
「私がやります、私では力不足ですか」
土方大尉の問いに、林大尉は答えた。
「いや。実力は充分だ。斬り込み隊は任せる」
土方少佐は、林の言葉を認めた後、更に考えた。
下手に元新選組の一員に、斬り込み隊の先陣、指揮を任せたら、元新選組の面々を余りにも、自分が贔屓しているように見られかねない。
それも考えあわせれば、林大尉が先陣を率いる、というのは副大隊長の職責から言っても妥当だった。
それに林大尉の剣の腕は、新選組内で最強を競っていた永倉新八や斎藤一が、一目置く実力でもある。
「それでは、取りあえず、長崎の海兵旅団司令部に刀を至急、送るように電報を打って、明日朝から斬り込み隊を、至急、編制しましょう」
「そうだな」
林大尉の言葉に、土方少佐は答えた後、ふと考えた。
明日から、色々と忙しくなりそうだな。
それにしても、和泉守兼定が自らの腰に有れば、林の言葉をはね返したのだが。
これも一つの時代の流れだな。
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