土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第6章 激闘、田原坂

第9話

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 闇の中、奇襲効果を重視して、抜刀隊は中央隊、右翼隊、左翼隊三部隊に分かれて、横平山の頂を目指していた。
 全く、と中央隊の先鋒を進んでいる抜刀隊隊長の林忠崇大尉は、歩みながら考えていた。
 どう考えても、作戦を凝り過ぎているのではないか。

 抜刀隊の編制が急に行われた結果、部隊の編制だけでも、抜刀隊は精一杯な有様だった。
 だから、横平山奪取の作戦立案に、抜刀隊は結果的に全く関われなかった。
 新選組が田原坂の前面にたどり着いてから、それなりの時間は経っているが、現地の地理については不案内極まりない有様である。
(それに加え、まともな地図が無く大雑把な絵図面で作戦計画は指示された)
 こんな状況なのに、抜刀隊に夜襲を掛けろ、という山県参軍の命令は、林大尉に至極上品に言わせれば、仏で聞かされた、パンが無ければケーキを云々レベルの命令だった。

 実際、山頂近くの西郷軍陣地の近くに林大尉がたどり着いた時には、後続のはずの中央隊の半分がはぐれており、林大尉直卒の第1小隊しかいない有様だった。
 更に、本来の計画では、左右からほぼ同時に攻撃を掛けるはずの右翼隊、左翼隊の気配もない。

 だが、じっと待つ間を西郷軍は与えてくれなかった。
 西郷軍の歩哨が、自分たちの気配に気づき、誰何を始めたのだ。
 いきなり、銃撃をしなかったのは、田原坂正面で西郷軍の夜襲が行われており、その夜襲部隊が道に迷って横平山に来たかと誤解したからだろう。
 しかし、このような状況では、単独で攻撃するしかない。
 林大尉は無言で刀を抜くと、後続の部下49名に対し、身振りで突撃を指示した。

「敵襲だ」
 林大尉らの突撃を見た西郷軍の歩哨が叫んだ。
 林大尉は一刀のもと、その歩哨を斬り伏せたが。
 その叫び声を聞いて、横平山にいた西郷軍の兵が続々と起きだして、応戦してきた。
 ざっと林大尉が見たところ、その数は自分達の約4倍以上の200名余りだ。
 更に麓の西郷軍からも、横平山の守備隊救援のために、駆け付けようとする気配がしだした。

「ままよ、ここで斬り死にして、あの世から、山県参軍に無言の抗議をしてやる」
 林大尉は叫んだ。
 奇襲の利が多少あるとはいえ、4倍以上の敵に自分達が勝てると考える程、林大尉は無謀ではない、
 更に西郷軍には、麓から援軍が駆け付けようとしているのだ。

 林大尉は、絶望的な決意を固めて、刀を振るった。
 断じて行えば鬼神も之を避けるという。
 林大尉の奮戦を見た部下達も、懸命に戦った。

 横平山の各所で、どちらの兵かは分からない悲鳴が上がり、剣戟の音も各所で上がる。
 林大尉は、手持ちの刀が刃こぼれしたのに気づいて捨て、倒れていた西郷軍の兵の刀を奪い取って、更に西郷軍を斬り回った。
 部下達、いや、敵の西郷軍の兵までも似たような行動をしている。
 そして、3本いや4本目の刀を、林大尉が手にした時だった。

「遅れてすみません。左翼隊、加勢します」
 斎藤一の声が挙がった。
 中央隊の激闘によって挙がった音を聞きつけた左翼隊が駆け付けてきたのだ。
 更に右翼隊が、遅れていた中央隊の残部がようやく山頂の攻撃に参加した。
 闇の中の戦闘ということから、三方から包囲されたと誤解したのだろう、横平山の西郷軍は徐々に退却していき、明け方には、横平山は最終的に抜刀隊が占領することに成功した。
 だが。

 林大尉の率いた抜刀隊第1小隊の被害は甚大だった。
 林大尉の49名の部下のうち12名が戦死、36名が負傷し、無傷で済んだのは1名だけだった。
 にもかかわらず、林大尉は奇跡的に無傷だった。
 一方、西郷軍の被害も大きく、死者や重傷を負って退却できず捕虜になる者などが出て、結果的に100名近くがこの日の横平山の戦いでは失われた。
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