土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第6章 激闘、田原坂

第15話

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「古屋佐久左衛門少佐が戦死されただと」
 その一報を受けた土方歳三は絶句した。
 傍にいた林忠崇も愕然としている。

 勿論、戦場で戦死者が出ることは2人共に分かってはいる。
 その一方で、古屋少佐は、2人と共に戊辰戦争を経験した歴戦の兵だった。
 だから、古屋少佐が戦死するとは、2人にはとても信じられなかったのである。
 土方と林にとって、大きな衝撃を古屋少佐の戦死はもたらした。

 土方は思わず追憶していた。
 かつて、ブリュネ少佐と共に古屋少佐に対して降伏を勧めた際、古屋少佐は切腹しようとした。
 あの時は何とか一命を取り留めて、古屋少佐は降伏に応じてくれたが、遂に戦場に散られたか。

 しかし、伝令がもたらした情報は海兵隊にとって重大な問題を引き起こした。
 具体的に言うと、第1海兵大隊を率いるのに、相応しい指揮官がいないのである。
 何しろ西南戦争勃発直前、4個海兵中隊、1個砲兵中隊への拡充が3年計画でようやく成ったばかりだったのだ。

 台湾出兵以前となると、2個海兵中隊と1個砲兵中隊、後は各分隊単位で配置という有様だったのを、乗艦勤務を基本的に廃止等することで、何とかこれだけの部隊を建設していた。
 それが、西南戦争勃発に伴い、急きょ4個大隊を編制して動かすことになった。
 小隊長をこれまで務めていた者が、中隊長を新たに務めているというのが、海兵隊の実態だったのだ。

 これは現場レベルの判断を超えている。
 土方少佐は、川村純義参軍と山県有朋参軍に、古屋少佐が戦死したということを急報し、長崎にいる大鳥圭介旅団長にもその旨を電信で連絡した。
 指揮官不在の部隊を最前線に置くわけにもいかないし、更に大損害を被っていることもあり、山県参軍は、海兵隊を後方に一度下げることにした。

 大鳥旅団長は土方少佐の報告を受けて愕然とした。
 先日、長崎から八代へ向かい、八代から熊本城救援を図る背面軍にようやく弾薬補充が整った第2海兵大隊を参加させることになり、滝川充太郎少佐が率いて出発したばかりである。
 志願兵が大量に集まったこともあり、予備役兵の再招集も合わせれば、兵の補充は何とかならないこともない。
 しかし、指揮官は急には補充できない。
 大鳥旅団長は荒井郁之助海兵局長とも急きょ、第1海兵大隊長の後任人事について電信で相談した。

 林大尉は受け取った辞令に思わず困惑した。
「これはどういうことなのでしょう」

 土方少佐は林大尉に届いた辞令を覗き込んでいった。
「海兵局も中々考えたな」
「意味が分かりませんが」
「林は自分のこととなると頭の巡りが悪くなるな」
 流石に林大尉が気を悪くしたのに気づき、土方少佐は言葉をあらためた。

「大鳥旅団長が第1海兵大隊長を兼務するが、大鳥旅団長は現地にいない。
 だから、林大尉を第3海兵大隊副大隊長から、第1海兵大隊副大隊長に転勤させ、第1海兵大隊の指揮を、実際には任せるということさ」
「何でそんな面倒なことに」

「大鳥は実戦の指揮に自信が無いからな。
 かといって、第1海兵大隊長を実際に務められる人材は払底している。
 本多幸七郎少佐を、第4海兵大隊から第1海兵大隊に転属すると、実戦経験皆無の北白川宮殿下が、第4海兵大隊長を務めることになるし、滝川少佐に至っては既に前線に赴いた後だ。
 だから、実績のある林大尉に、第1海兵大隊を実質は任せるのが最上、という判断を荒井海兵局長は下したのさ」
「そういうことですか。土方少佐に、まだまだ指導してもらえると私は思ったのですが」

「林大尉がいなくなるのは俺も残念だが、仕方あるまい」
「それでは第1海兵大隊副大隊長として赴きます」
 林大尉は土方少佐に敬礼した。
「林大尉の今後の奮闘を期待する」
 土方少佐も答礼した。
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