土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第7章 背面軍の奮闘と熊本城完全解囲

第3話

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「ここ、甲佐を死地と定めたい」
 莞爾とした顔をして、西郷軍の永山弥一郎は、周囲の者に言った。
 背面軍の西郷軍に対する攻勢は、ますます強まる一方だった。

 永山は、西南戦争前から鹿児島に住んでいたとはいえ、必ずしも私学校党と同一歩調をとってきたとはいえず、一線を画す立場ではあった。
 しかし、西郷軍の挙兵に際して、周囲の説得により、三番大隊長として指揮を執ることになったのだった。

 熊本城攻囲が始まって以降、政府軍が海岸線からの反攻を行うことを警戒して、永山以下の三番大隊は備えていたが、永山らにしてみれば、予想外の八代からの政府軍による背面軍の上陸反攻を受けたことにより、今や腹背から、西郷軍は攻撃を受ける事態に陥っていた。
 永山はその責任を痛感し、ある意味、死処を求める心境にあった。

「それはいけません」
「まだ、鹿児島からの別動隊により、八代を落とせる可能性があります。
 そうすれば背面軍は袋の鼠で、我々が背面軍を包囲殲滅できます」
 永山の周囲の者は、口々に主張した。

「分かった。
 だが、甲佐を抜かれるわけにはいかん。
 それだけは分かってくれ」
 周囲の説得を受け、永山はそう語ったが。

 結果的に、滝川充太郎の心配は杞憂に終わった。
 八代港という橋頭堡を確保した背面軍には、政府から続々と増援が送られ、八代港を守備する部隊を配置しつつ、熊本城救援に向かうことが可能になりつつあった。
 この増援を受けた背面軍の攻勢により、3月26日には遂に小川が陥落、4月1日には宇土が突破され、緑川沿いに川尻への突入を阻止する最後の防衛線を、西郷軍は構築する戦況になり、熊本城からは、背面軍が挙げる狼煙の煙が分かる状況となった。

 だが、背面軍にとって、必ずしも万事順調とはいかなかった。
 鹿児島からの西郷軍の別動隊が、八代奪還に駆けつけたことにより、八代港防衛のために、熊本城救援のための兵力を、背面軍は割かざるを得なくなったのだ。
 このために、緑川の戦線の戦況は、背面軍圧倒的優勢だったのが、一転して、背面軍やや優勢という戦況で、一時は落ち着いてしまう程だった。

 それでも、背面軍の方が、有利であることは間違いない。
 じりじりと背面軍は、西郷軍に攻撃を加え、緑川の戦線は次第に揺らぎ始めた。
 永山は、懸命に西郷軍を督励して、政府軍の攻勢を凌ぎ、鹿児島からの救援作戦の成功を祈ったが、自らも負傷するに及び、一時、後方に退いた。
 その間に、甲佐は背面軍の攻勢に遂に失陥してしまい、御船で西郷軍は、背面軍の攻勢を迎え撃つ戦況となった。

「最早、ここまでか」
 永山はつぶやいていた。
 4月12日、御船は、背面軍に属した第2海兵大隊によって攻囲され、陥落寸前の状況となっていた。
 永山は、自刃することにより、自分なりの敗戦の責任を執ることにした。
 逃げられる限りの部下を逃がした後、永山は1人、買い取った民家に立て籠もり、自刃の準備に取り掛かったが、その目に映るものがあった。

「あれは」
 永山は目を疑った。
 白旗を持った軍使が、1人で自分のいる民家に近づいてくるのだ。
 軍使は大声で呼ばわった。
「西郷軍の名のある指揮官の1人とお見受けする。
 投降されよ、断って自刃するというのなら、私が介錯しよう」

「温情、心より感謝する。
 我が名は、永山弥一郎である。
 介錯をお願いしたい」
 永山は大声で答えた。

「それでは」
 軍使は民家に入ってきた。
 軍使の肩章を見て、永山は驚愕した。
 海兵隊少佐ということは。

「滝川充太郎である。
 私、自ら介錯をしたい」
「これは最期の良い心づくしを頂いた。
 私の最期を見届けられたい」
 永山は感涙した。

「では、御免」
 永山は見事に自刃し、滝川は介錯した。
 ここに御船は遂に陥落した。
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