14 / 95
第三章 恋人ごっこをするなら、自覚しないと...
2
しおりを挟む
「なんで、こんなに早く帰ってきたの?」
リナは桂がベッドに入るとすぐにそう聞いてきた。
桂は毛布を胸まで引っ張り上げると、床に蒲団を敷いて寝ているリナの姿を見下ろすように身体を横に向けた。
「…んー…なんでかな…?」
煮え切らない、口調で答える。なぜこんなに早く帰って来たのか…自分でも分からなかった。
「早く目が覚めちゃってさ…。彼…まだ寝ていたし…。起こすのも悪いと思って…」
それを聞いてリナがビックリしたような顔を見せた。
「嘘…それじゃ、アイツに何も言わずに帰って来ちゃったの?」
うん…そう…桂が少し眠気をもよおしたような声音で答える。
リナがあぁーあと大仰な嘆息を上げる。
「なんだよ。お前…俺…いけない事でもしたかよ」
だって…とリナが少し桂を睨む。
「初デートでしょ。普通恋人と一緒に朝を迎えたいでしょ。彼…きっと怒っているわよ。一人置き去りにされて」
リナがなぜか桂を責めるような口調で言うのを聞いて、桂が苦笑いを浮かべた。
「お前…誰の味方してんだよ…」
違う…リナが心持声を荒げた。
「味方とか敵とかそう言う問題じゃない。自覚の事を言っているの。かっちゃんは彼の恋人でしょ。自覚を持たなきゃ。恋人らしく振舞わないと…」
「そう言うもんかな…?」
リナの言っている事が分かるような…分からないような…頼りない気分で桂は答えた。
今朝…行為の充足感に包まれて彼の胸の中で過ごした。彼の無防備に眠る顔を見て、愛しさばかりが募ってしまっていた。これ以上、そばにいるのが恐くなってしまっていたのだ。
片思いの相手と夢のようなデートをし、甘美な夜を過ごす。
有頂天になってしまっていた。
でも…恐かったのだ。
彼の事を知れば知るほど…彼に触れられれば触れられるほど…気持が彼に傾いていってしまう。
考えに耽る桂に、リナが優しい…でも諭すような口調で続けた。
「自覚しないと…かっちゃん…辛いでしょ。だから…今朝も帰って来ちゃったんでしょ。ね…だから…自覚しないと…」
「リナ…お前…。」
自分の胸の内を見透かしたリナの言葉に桂は驚いて、リナを見詰めた。
リナはニッコリ微笑むと、おやすみと言って布団の中にくるまり寝入ってしまう。取り残された桂は呆然としながら亮の事を考えていた。
そう…辛くなってしまったんだ。このまま…亮の要求するドライでライトな関係を続けていく自信が無くて…。
彼が愛しくなって…好きという気持を改めて確認してしまって…。
彼に愛してもらいたくて…。そう願ってしまいそうになる…自分が恐くなってしまった。
だから…逃げてきた。
桂はベッドの中で丸くなりながら、溜息を吐いた。
リナはすべて分かっている。俺が割り切れないだろうと言う事を…。
だから…。
夢を見るんだ…そう思って始めた…。始めた先にあるのが…こんな苦しさだったなんて…。
「自覚しないと…」
リナの言葉が頭の中で繰り返される。
「そう…自覚しないと。これは…ごっこなんだから…」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ほら…電話。
リナは悪戯っぽい笑みを浮かべて、桂にスマートフォンを差し出した。
ディスプレイに映る亮の名前を見て桂は逡巡する。やかましく鳴り響く着信音。
「かっちゃん。…早く出てあげないと…」
リナが優しく急かす。
桂の迷う気持などお見通しなのだ。
店に行く身支度をバッチリしたリナは、美容院に行くから、もう出るわ…まだ鳴り響くそれを呆けたように見つめる桂に、そう言い置いて部屋を出て行った。
しつこく鳴り続けるスマホに桂は渋々出る。亮とどんな話しをしたら良いのか…ぜんぜん分からなかった。
「俺だけど…」
凄く不機嫌そうな亮の声が桂の耳に聞こえくる。
「はい…おはようございます…」
亮の不機嫌そうな声に動揺した桂は、もう昼過ぎだと言うのにバカな挨拶をしてしまう。
すげぇ…怒っているかも…。
でも…なんで…?
俺が…勝手に…帰ったから…?
頭の中で亮の不機嫌の原因をあれこれ考えてみる。電話ごしでも充分彼の不機嫌さが伝わってきた。
「………」
亮の返事はない。
「…あ…あの…」
おどおどしながら桂が声を出す。
一応俺が謝った方がいいのかな…???
「…こいよ…」
亮が唸るようにその言葉を絞り出す。
「…え…?」
亮の言っている意味が分からず訊ね返す。
「だから…俺の部屋にこいよ」
明らかに苛ついた亮の声。
「…い…今…から…ですか…?」
なんで…どうして…?デートは…終わりだろ…?
食事もしたし…話もした…それに…セックスだって…ちゃんとした…?
今週のノルマは…終わりな筈じゃ…。
「そう…今から…俺の部屋にこいよ!帰れたんだから…一人で来れるだろ!」
亮はキレたようにそう言うと、桂の返事を待たず通話をブツッと切ってしまった。
リナは桂がベッドに入るとすぐにそう聞いてきた。
桂は毛布を胸まで引っ張り上げると、床に蒲団を敷いて寝ているリナの姿を見下ろすように身体を横に向けた。
「…んー…なんでかな…?」
煮え切らない、口調で答える。なぜこんなに早く帰って来たのか…自分でも分からなかった。
「早く目が覚めちゃってさ…。彼…まだ寝ていたし…。起こすのも悪いと思って…」
それを聞いてリナがビックリしたような顔を見せた。
「嘘…それじゃ、アイツに何も言わずに帰って来ちゃったの?」
うん…そう…桂が少し眠気をもよおしたような声音で答える。
リナがあぁーあと大仰な嘆息を上げる。
「なんだよ。お前…俺…いけない事でもしたかよ」
だって…とリナが少し桂を睨む。
「初デートでしょ。普通恋人と一緒に朝を迎えたいでしょ。彼…きっと怒っているわよ。一人置き去りにされて」
リナがなぜか桂を責めるような口調で言うのを聞いて、桂が苦笑いを浮かべた。
「お前…誰の味方してんだよ…」
違う…リナが心持声を荒げた。
「味方とか敵とかそう言う問題じゃない。自覚の事を言っているの。かっちゃんは彼の恋人でしょ。自覚を持たなきゃ。恋人らしく振舞わないと…」
「そう言うもんかな…?」
リナの言っている事が分かるような…分からないような…頼りない気分で桂は答えた。
今朝…行為の充足感に包まれて彼の胸の中で過ごした。彼の無防備に眠る顔を見て、愛しさばかりが募ってしまっていた。これ以上、そばにいるのが恐くなってしまっていたのだ。
片思いの相手と夢のようなデートをし、甘美な夜を過ごす。
有頂天になってしまっていた。
でも…恐かったのだ。
彼の事を知れば知るほど…彼に触れられれば触れられるほど…気持が彼に傾いていってしまう。
考えに耽る桂に、リナが優しい…でも諭すような口調で続けた。
「自覚しないと…かっちゃん…辛いでしょ。だから…今朝も帰って来ちゃったんでしょ。ね…だから…自覚しないと…」
「リナ…お前…。」
自分の胸の内を見透かしたリナの言葉に桂は驚いて、リナを見詰めた。
リナはニッコリ微笑むと、おやすみと言って布団の中にくるまり寝入ってしまう。取り残された桂は呆然としながら亮の事を考えていた。
そう…辛くなってしまったんだ。このまま…亮の要求するドライでライトな関係を続けていく自信が無くて…。
彼が愛しくなって…好きという気持を改めて確認してしまって…。
彼に愛してもらいたくて…。そう願ってしまいそうになる…自分が恐くなってしまった。
だから…逃げてきた。
桂はベッドの中で丸くなりながら、溜息を吐いた。
リナはすべて分かっている。俺が割り切れないだろうと言う事を…。
だから…。
夢を見るんだ…そう思って始めた…。始めた先にあるのが…こんな苦しさだったなんて…。
「自覚しないと…」
リナの言葉が頭の中で繰り返される。
「そう…自覚しないと。これは…ごっこなんだから…」
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ほら…電話。
リナは悪戯っぽい笑みを浮かべて、桂にスマートフォンを差し出した。
ディスプレイに映る亮の名前を見て桂は逡巡する。やかましく鳴り響く着信音。
「かっちゃん。…早く出てあげないと…」
リナが優しく急かす。
桂の迷う気持などお見通しなのだ。
店に行く身支度をバッチリしたリナは、美容院に行くから、もう出るわ…まだ鳴り響くそれを呆けたように見つめる桂に、そう言い置いて部屋を出て行った。
しつこく鳴り続けるスマホに桂は渋々出る。亮とどんな話しをしたら良いのか…ぜんぜん分からなかった。
「俺だけど…」
凄く不機嫌そうな亮の声が桂の耳に聞こえくる。
「はい…おはようございます…」
亮の不機嫌そうな声に動揺した桂は、もう昼過ぎだと言うのにバカな挨拶をしてしまう。
すげぇ…怒っているかも…。
でも…なんで…?
俺が…勝手に…帰ったから…?
頭の中で亮の不機嫌の原因をあれこれ考えてみる。電話ごしでも充分彼の不機嫌さが伝わってきた。
「………」
亮の返事はない。
「…あ…あの…」
おどおどしながら桂が声を出す。
一応俺が謝った方がいいのかな…???
「…こいよ…」
亮が唸るようにその言葉を絞り出す。
「…え…?」
亮の言っている意味が分からず訊ね返す。
「だから…俺の部屋にこいよ」
明らかに苛ついた亮の声。
「…い…今…から…ですか…?」
なんで…どうして…?デートは…終わりだろ…?
食事もしたし…話もした…それに…セックスだって…ちゃんとした…?
今週のノルマは…終わりな筈じゃ…。
「そう…今から…俺の部屋にこいよ!帰れたんだから…一人で来れるだろ!」
亮はキレたようにそう言うと、桂の返事を待たず通話をブツッと切ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる