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第六章 あいつはどんどん俺を蝕んでいく…甘い毒なんだ…
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しおりを挟む「…ありがとう…」
桂はおずおずと亮の横顔を窺がいながら、礼を言う。
亮はハンドルの上で腕を組んでその上に顎を乗せていた。桂を見もせず、前方の闇を擬視している。
何も言わない亮に諦めて桂はドアに手を掛けた。
もういたたまれなかった…。
やるせなかった…。
亮の考えている事が分からなくて…いつだって分からないのだが…混乱してしまう。
俺はどうしたら…良いんだ…。
「部屋に、あげてくれないのか…?」
ドアを開けて降りようとした桂の背中に静かな亮の声が被さってきた。亮の言葉の意味が分からず、桂は助手席に腰を戻すと亮を見た。
相変わらず亮はフロントを見つめている。闇と同じように静かな沈黙が車内に満ちた。
意地になる事は無いと思う。許してしまえば、もっと楽になれたかもしれない…。
キスだって…鍵だってそうだ。
それでも…と桂は表情の見えない亮を悲しく見つめながら思った。
―これは…俺のけじめだから—
のめり込まない…その決心はあっさりと崩れてしまっていた。だから今は…せめて全てが終わったときに、失う物が少ないようにしよう…そう思っていた…。
健志のモノ…健志のタメ…そんなのは、逃げる言い訳にしかすぎないのは分かっていた。
桂はゆっくりと頭を振ると、冷静な口調で告げた。
「駄目だ…。俺の部屋は山本の居る場所じゃないよ…」
亮がパッと顔を上げる。
今度こそ怒っていた。激しい怒りを瞳にギラギラと光らせ桂を鋭く睨みつける。
次の瞬間、激情そのままにドカッとハンドルを両の拳で叩き付けていた。車内に鈍い振動が響く。亮は桂を睨みながら言葉を吐出した。
「キスはしない!鍵は要らない!部屋には入るな!桂…一体俺はお前の何なんだよ!」
桂は視線を足下に落とした。答える言葉が見つからなかった…。
全ては「ごっこ」の中で自分を少しだけ守る為だった。
彼に自分の想いを全て伝えてしまう唇…
彼の部屋に当然のように入れる幸せ…
彼が自分の側に居る幸せ…
そして…自分の部屋に亮の存在を感じる幸せ…
そのどれもが欲しくて…そして失いたくない…失うぐらいなら…最初から…いらない…。
そんな幸せは知らなくて…いいんだ…。
桂は涙ぐみながら、たった一言絞り出した。恐らくその答えを亮は気に入らないだろうと思いながら…。
「ごめん…」
桂の言葉を聞いて亮が微かに身じろいだ。
「もういい…。降りろよ…。帰れ!」
亮の激しい言葉に桂は、車から飛び出した。震える手で助手席の扉を閉める。
亮はエンジンを掛けると、もう何も言わず、夜の闇の中へ走り去っていってしまう。
遠くに消えていく彼の車のテールランプを見つめながら、桂は一筋だけ涙を零した。
―俺はお前の何なんだよ!-
亮の言葉が頭の中で木霊する。
「そんなの俺が…聞きたいよ…。俺は…何なんだよ…お前にとって俺は…何なのか…教えろよ」
答えなんて返ってこないのに桂は闇に向かって問いつづける。
「俺にとって…お前は………。残酷な事…言うなよ…」
そこまで言って桂は激しく嗚咽を漏らしていた…。
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