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最終章 ― 片思いはもうたくさん…。マリーゴールドには二度とならない…―

最終話

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 珍しくリナがコンソメ・スープを作った。

 海外青年協力隊の一次試験の朝、どたばたと受験票や筆記用具の準備をする桂の為にと、リナが腕を振るったのだ。

 最も料理の苦手なリナのこと。胃に優しい料理といったら、自分のレパートリーの中ではコンソメ・スープしか思いつかなかったのだ。

「うん…すごい美味い」

 リナのスープを喜んで口にする桂をリナは母親のように優しく見守る。

「それじゃ…言ってくるからさ」

 鞄を持って、玄関口にたった桂にリナが「気をつけてね」と声を掛ける。見送りながら、リナが桂にちゃめっけタップリに微笑むと言った。

「ねぇ、かっちゃん。私、かっちゃんに魔法を掛けたのよ」

 リナの言っている意味が分からず、桂がえ…?と首を傾げた。フフッと楽しそうに笑いながら桂の両手を取ると左右に心持広げた。

「かっちゃん、目を瞑って」

 怪訝な表情をしながらも、桂は素直に瞳を閉じる。

「かっちゃんがさっき飲んだスープは魔法のスープです」

 リナが諭すような優しい声で告げる。

「今スープがかっちゃんに魔法をかけています。身体中にスープが染み込んで、かっちゃんの体も…心も温かくしていきます」

 リナの指先にギュッと力が込められたのを感じる。彼女の魔法は続いた。

「スープの温かさがかっちゃんの勇気になります…。そして…この玄関を一歩出たら…スープはかっちゃんを生まれ変わらせています。かっちゃんの心も身体も充実した力と勇気に満ち溢れています。」

 さあ、目を開けて。言ってリナは目を開けた桂にニッコリ笑いかける。

 リナの瞳とぶつかって、桂は感謝の色を篭めた瞳でニッコリと微笑んだ。

 リナが色んな意味で自分を励ましてくれているのだと、分かった…。亮の事を何も言わないリナ…それでも心配してくれている。

 リナの優しさに答えたい…切実に思った。

「がんばってね。この扉を出たら、かっちゃんは生まれ変わっているのよ、何も我慢せず、好きなように生きればいいの」

 リナは念を押すように言った。

「ああ、分かった。…ありがとう。リナ…」

 自分は亮の事から逃げるのかもしれない…強くなれない自分が嫌だった…。それでもこのチャンスを掴んで、立ち直ろうと思う。

 ― 勇気を持って…歩いて行こう…―

 一瞬だけ…見えない亮の気持を信じる事ができた…。

 亮が自分を愛してくれたかも…と思えた…。

 だから…もう立ち直ろう…。

 亮が好き…忘れる事なんかできない…。だから…忘れたりしない…。

 その代わり亮への想いを胸に、強く生きていく。時々かいま見た亮の優しさや誠実さと、リナがくれた勇気をエネルギーにして…。

…そしていつかは…いつかは…亮への気持に整理が出来たら…大恋愛をしてやるんだ…。

 桂は思ってうっすらと穏やかな笑みを浮かべた。

 …次は、絶対に片思いなんかしない…マリーゴールドになんか…ならない…。

 リナがくれた勇気を胸に生まれ変わるんだ。

「じゃ…行ってくる」

 桂はリナに力強く頷いて見せると、外に出た。

 この一歩が新しい自分と新しい未来に向かうんだ…。そう胸を期待で弾ませながら…。

 桂は…新たに出会う様々な人…そして…思い出すたびに胸を甘苦しく締め付ける…愛しい男に思いを馳せながら、しっかりした足取りで歩き出していた。



~Marigold~ 恋人ごっこはキスを禁じて ••••••完

 
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