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8ページ目 不確かだからこそ
中編③
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遠野も笹倉の例えに、お前、巧いなと関心しながら話を継いだ。
「で、ここからが俺の出番だ。亜由美は圭介の冷酷な対応に、文字通り逆上してな。アポなしで社長室に乗り込んできた。ヒステリーと芳弘の罵詈雑言を止めるのに、たっぷり2時間は掛かったぞ。」
その時のことを思い出したのだろう、はぁーーと、長い溜息を零した。
よっぽど酷かったのか、ブツブツと遠野は、まだ近藤に何やら文句を言っていた。近藤が煩いと切り捨てる。
まるで、売れないお笑いタレントのコントのようで、クスっと笑いを浮かべながら、圭介は、先ほどから脳内を渦巻いていた疑問を口にした。
「社長と奥様・・・ってどういう関係なんですか・・・?」
「おい、奥様って言うな。圭介」
近藤の注意を遠野も圭介も無視をする。この際、圭介にとっては奥様と呼ぼうが、「亜由美さん」だろうが、関係なかった。とにかく話の続きが知りたい。
「あいつは、俺の従妹だ」
「え?えっーーーーーーーーー?従妹っ?!!!」
残念なことにな、と冗談めかした遠野の言葉は圭介の耳に入っていなかった。
「従妹なんですか?じゃ、親戚!?」
「いかにも」
冷酒を飲みながら、遠野は肩を竦めて答えると続けた。
「俺の親父の弟の娘だ。」
「じゃ、近藤さんとの結婚はそれがご縁ですか?」
笹倉がボソリと「吉崎って天然だな」と近藤に囁くと近藤は仏頂面のまま頷いている。
圭介の質問に、近藤は渋い表情をし、笹倉は嬉しげに笑い、そして遠野は「いや」と否定した。
「それは、本当に偶然だ。俺は大学3年から、ワシントンに留学していたから、芳弘が、叔父の勤めている銀行に入行したことを知らなかった。それに亜由美みたいな従姉妹がいることを、芳弘に話したこともなかったんだ。」
「そうそう、しかも、こいつ結構な秘密主義者だから、結婚話が進んでいたことを誰にも教えなかったんだ。なんにしても、あのころの芳弘はありえない奴だったからな」
笹倉は当時を思い出しているのか、やや厳めしい顔つきで付け足した。
近藤はと見れば、彼らの話を遮ることも反論もせず、憮然とした表情のまま鮨を摘んでいる。
その態度から、遠野と笹倉の話が正しいのだろうということが圭介にも理解できた。
関係ないとは言ってみたものの、銀行時代の近藤には会いたくない気がした。どうやら、大分、破壊的な人格だったらしい・・・・・。
「で、婚約披露パーティーの席で、俺は近藤とばったり再会したわけだ。亜由美側の親族としてな。」
「社長は、事前に知らされていなかったんですか?」
恐る恐る、圭介は疑問をぶつけてみた。親族なら相手の名前ぐらい事前に知っているはずだろう、大体。
その問いに、遠野も、そしてなぜか笹倉も顔を顰めた。
「ああ、俺は直前までワシントンにいた。しかも起業のプランを練ってたころで、日本の雑事は一切興味がなかったんだ。それに、俺はそもそも、亜由美が苦手なんだ。なにしろあの通りの姫扱いで育った我侭放題の娘だからな。会えば下僕扱いされるから、なるべく避けていたんだ」
「俺も、遠野から声を掛けられて、当時、シカゴに居て、秘書室の伊藤 直と一緒に起業のための商品を探してたから知らなかった」
へぇ、となんだか分からない感嘆の声を圭介が上げると、あからさまに近藤が嫌そうな顔をした。見れば、ヤケクソになったように、冷酒をガブガブ呷っている。
「で、俺はシステムの浜田から、芳弘が結婚するらしいと聞いてな。慌てて帰国するために遠野に連絡をしたら、こいつはこいつで親戚が結婚するらしいから、芳弘のには出席できないって言って」
当時の様子を思い出して、笹倉と遠野はクスクス笑いを零した。
今度は遠野が喋る。
「帰国は笹倉と伊藤と一緒にしたんだ。成田でじゃぁなって別れて、それぞれの会場をへ向かった。そしたら、な?」
遠野が、笹倉に続きを促した。
「そうそう、会場の、あのウェルカム看板?だっけ?の前でタキシード姿の遠野と鉢合わせしたわけ。驚いて、お前何してんの?って聞いたら、こいつが「俺の会場ここだよっ」て指さすわけさ。そしたら、その先が芳弘の会場で。」
あの時は、ビックリしたよなーと、お互いげらげら笑いながら話を締めくくる。
「すごい、偶然・・・ですね・・・」
すごいなんてもんじゃない、凄すぎる。一体こんなことが本当に起こるなんて。
ありえない偶然に、圭介が惚けたように口をあんぐりと開けた。
それに、また二人が「だろー、今でも俺達の中じゃ語り草だ」と得意げに答えた途端、これでもかというくらい冷え切った近藤の声が部屋に響いた。
「お前ら・・・そろそろ、いい加減にしたらどうだ・・・・・・」
「で、ここからが俺の出番だ。亜由美は圭介の冷酷な対応に、文字通り逆上してな。アポなしで社長室に乗り込んできた。ヒステリーと芳弘の罵詈雑言を止めるのに、たっぷり2時間は掛かったぞ。」
その時のことを思い出したのだろう、はぁーーと、長い溜息を零した。
よっぽど酷かったのか、ブツブツと遠野は、まだ近藤に何やら文句を言っていた。近藤が煩いと切り捨てる。
まるで、売れないお笑いタレントのコントのようで、クスっと笑いを浮かべながら、圭介は、先ほどから脳内を渦巻いていた疑問を口にした。
「社長と奥様・・・ってどういう関係なんですか・・・?」
「おい、奥様って言うな。圭介」
近藤の注意を遠野も圭介も無視をする。この際、圭介にとっては奥様と呼ぼうが、「亜由美さん」だろうが、関係なかった。とにかく話の続きが知りたい。
「あいつは、俺の従妹だ」
「え?えっーーーーーーーーー?従妹っ?!!!」
残念なことにな、と冗談めかした遠野の言葉は圭介の耳に入っていなかった。
「従妹なんですか?じゃ、親戚!?」
「いかにも」
冷酒を飲みながら、遠野は肩を竦めて答えると続けた。
「俺の親父の弟の娘だ。」
「じゃ、近藤さんとの結婚はそれがご縁ですか?」
笹倉がボソリと「吉崎って天然だな」と近藤に囁くと近藤は仏頂面のまま頷いている。
圭介の質問に、近藤は渋い表情をし、笹倉は嬉しげに笑い、そして遠野は「いや」と否定した。
「それは、本当に偶然だ。俺は大学3年から、ワシントンに留学していたから、芳弘が、叔父の勤めている銀行に入行したことを知らなかった。それに亜由美みたいな従姉妹がいることを、芳弘に話したこともなかったんだ。」
「そうそう、しかも、こいつ結構な秘密主義者だから、結婚話が進んでいたことを誰にも教えなかったんだ。なんにしても、あのころの芳弘はありえない奴だったからな」
笹倉は当時を思い出しているのか、やや厳めしい顔つきで付け足した。
近藤はと見れば、彼らの話を遮ることも反論もせず、憮然とした表情のまま鮨を摘んでいる。
その態度から、遠野と笹倉の話が正しいのだろうということが圭介にも理解できた。
関係ないとは言ってみたものの、銀行時代の近藤には会いたくない気がした。どうやら、大分、破壊的な人格だったらしい・・・・・。
「で、婚約披露パーティーの席で、俺は近藤とばったり再会したわけだ。亜由美側の親族としてな。」
「社長は、事前に知らされていなかったんですか?」
恐る恐る、圭介は疑問をぶつけてみた。親族なら相手の名前ぐらい事前に知っているはずだろう、大体。
その問いに、遠野も、そしてなぜか笹倉も顔を顰めた。
「ああ、俺は直前までワシントンにいた。しかも起業のプランを練ってたころで、日本の雑事は一切興味がなかったんだ。それに、俺はそもそも、亜由美が苦手なんだ。なにしろあの通りの姫扱いで育った我侭放題の娘だからな。会えば下僕扱いされるから、なるべく避けていたんだ」
「俺も、遠野から声を掛けられて、当時、シカゴに居て、秘書室の伊藤 直と一緒に起業のための商品を探してたから知らなかった」
へぇ、となんだか分からない感嘆の声を圭介が上げると、あからさまに近藤が嫌そうな顔をした。見れば、ヤケクソになったように、冷酒をガブガブ呷っている。
「で、俺はシステムの浜田から、芳弘が結婚するらしいと聞いてな。慌てて帰国するために遠野に連絡をしたら、こいつはこいつで親戚が結婚するらしいから、芳弘のには出席できないって言って」
当時の様子を思い出して、笹倉と遠野はクスクス笑いを零した。
今度は遠野が喋る。
「帰国は笹倉と伊藤と一緒にしたんだ。成田でじゃぁなって別れて、それぞれの会場をへ向かった。そしたら、な?」
遠野が、笹倉に続きを促した。
「そうそう、会場の、あのウェルカム看板?だっけ?の前でタキシード姿の遠野と鉢合わせしたわけ。驚いて、お前何してんの?って聞いたら、こいつが「俺の会場ここだよっ」て指さすわけさ。そしたら、その先が芳弘の会場で。」
あの時は、ビックリしたよなーと、お互いげらげら笑いながら話を締めくくる。
「すごい、偶然・・・ですね・・・」
すごいなんてもんじゃない、凄すぎる。一体こんなことが本当に起こるなんて。
ありえない偶然に、圭介が惚けたように口をあんぐりと開けた。
それに、また二人が「だろー、今でも俺達の中じゃ語り草だ」と得意げに答えた途端、これでもかというくらい冷え切った近藤の声が部屋に響いた。
「お前ら・・・そろそろ、いい加減にしたらどうだ・・・・・・」
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