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Vol.1『ファムファタ女と名探偵』
ハードボイルド電話する
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俺は目を伏せ、由紀奈にPCの画面を消すよう言った。マウスを幾度かクリックする音がし、microSDを抜く気配を感じた。もういいよと声を掛けられ、目を開ける。問題のブツは、キーボードの前に置かれていた。二人揃ってそれを見つめ、しばし、黙る。
俺があの写真を見たのは一瞬のことだったが、それでも脳みそには焼きついてしまっていた。まあ、意識の大半は彰子の白い体に持ってかれてはいたのだが(自然の摂理だ)、探偵としての俺はふと、ある事に気づいた。そして立ち上がる。
「淳ちゃん?」
探偵机の上に出しっぱなしだったいつかの資料を手に取り、確認してみる。やっぱりだ。
「これだ」
加工済みブラ画像のページを由紀奈に突き出す。
「この写真、それと同じ時に撮ったものなんじゃないか?」
「あ」
「すまないがもう一度見てみてくれ。俺は見ない」
「……わかった」
由紀奈は再びPCにmicroSDを挿した。何ともつらそうにモニターを見つめるその顔の、眉根がさらに寄った。
「――うん。間違いないね。あの時もらったのと同じのがある」
「あれは兵頭の寝室だ」
昨日のあの既視感の正体は、これだった。Bの面なんぞじゃなく、兵頭の寝室に対して覚えたものだった。
「彰子さん、前の前の彼って言ってなかったっけ」
「そうだったな……まあ、ともかくだ」
「本当の目的はこれだったってことだよね」
「ああ、おそらくな」
「なんでこの一枚だけ持ってたのかな」
「ん……」
再び沈黙した。やがて由紀奈が口を開いた。
「あーあ、何て言ったらいーんだろ! あーでも見ちゃいましたとかそもそも言えないよね。わー、彰子さんにあたしどんな顔したらいーんだろ。悪いことしちゃった……」
「……大丈夫だ、任せろ」
「ひゅい?」
俺はスマホを出し、彰子の番号をコールした。呼び出し音の二つと鳴り終わらぬうちに、彼女は出た。
『ハイ! 探偵さん。お元気してる?』
「ああ、まあ、お陰様でな」
『電話だとずいぶん無愛想なのね。なんだか違う人みたい』
彰子の明るいトーンが胸に刺さった。
「……例の件だが、手に入れたぞ、あれ」
『本当に!?』
「ああ」
『仕事が早いのね。びっくりしちゃった』
「渡そうと思うんだが……どうする?」
『んーごめん、今日はちょっと動けないの。明日なら――』
「金曜だ」
『え?』
「明後日、金曜。あそこで歌うんだろ? 俺がそっちに行く。それでいいか?」
『ええ、うん、いいけど。私が歌うのは九時からよ?』
「なら、その前に行く」
『……うん。待ってる』
そうして電話は切れた。
「そーですかー、あたしハブかれたかー」
「不服か?」
「んーん、そんなことないよ、実際あたし困ってたし」
「すまんな。会いたかっただろ?」
「それはあるけどー。まーいーよ、次の機会だ! それでいーよ!」
「あるといいな」
「なにーその言い方ちょっと不吉なんだけど! なんか他に無いのなんか!」
由紀奈はいつもの調子に戻ったろうか。努めてそうしているように見えたのは、俺の勝手な解釈か。煙草に火を点けた。
彰子があの表情の下にどんな感情を抱いて俺に依頼をしてきたのか。依頼に隠された意図よりもそっちのほうが、この俺には問題だった。どうにか報いてやりたいようなそんな気持ちが、どういう訳か湧いて出て、すっかり俺を飲み込んじまった。電話口での俺のトーンはどうにも低いままで、そんな自分に苛立ちを覚えた。
木曜。例のmicroSDは昨日のまま、由紀奈の机の上に放置されていた。いつもなら、「絶対に見るなよ」と俺に釘を刺して、どこかに厳重に封印しそうなものだが、そうしないのは、俺がひとりで中身を見ようとすることは決して無いと理解しているのだろう。今日は他に用事があると言って、事務所には来なかった。俺は報告書に少し手をつけた。
俺があの写真を見たのは一瞬のことだったが、それでも脳みそには焼きついてしまっていた。まあ、意識の大半は彰子の白い体に持ってかれてはいたのだが(自然の摂理だ)、探偵としての俺はふと、ある事に気づいた。そして立ち上がる。
「淳ちゃん?」
探偵机の上に出しっぱなしだったいつかの資料を手に取り、確認してみる。やっぱりだ。
「これだ」
加工済みブラ画像のページを由紀奈に突き出す。
「この写真、それと同じ時に撮ったものなんじゃないか?」
「あ」
「すまないがもう一度見てみてくれ。俺は見ない」
「……わかった」
由紀奈は再びPCにmicroSDを挿した。何ともつらそうにモニターを見つめるその顔の、眉根がさらに寄った。
「――うん。間違いないね。あの時もらったのと同じのがある」
「あれは兵頭の寝室だ」
昨日のあの既視感の正体は、これだった。Bの面なんぞじゃなく、兵頭の寝室に対して覚えたものだった。
「彰子さん、前の前の彼って言ってなかったっけ」
「そうだったな……まあ、ともかくだ」
「本当の目的はこれだったってことだよね」
「ああ、おそらくな」
「なんでこの一枚だけ持ってたのかな」
「ん……」
再び沈黙した。やがて由紀奈が口を開いた。
「あーあ、何て言ったらいーんだろ! あーでも見ちゃいましたとかそもそも言えないよね。わー、彰子さんにあたしどんな顔したらいーんだろ。悪いことしちゃった……」
「……大丈夫だ、任せろ」
「ひゅい?」
俺はスマホを出し、彰子の番号をコールした。呼び出し音の二つと鳴り終わらぬうちに、彼女は出た。
『ハイ! 探偵さん。お元気してる?』
「ああ、まあ、お陰様でな」
『電話だとずいぶん無愛想なのね。なんだか違う人みたい』
彰子の明るいトーンが胸に刺さった。
「……例の件だが、手に入れたぞ、あれ」
『本当に!?』
「ああ」
『仕事が早いのね。びっくりしちゃった』
「渡そうと思うんだが……どうする?」
『んーごめん、今日はちょっと動けないの。明日なら――』
「金曜だ」
『え?』
「明後日、金曜。あそこで歌うんだろ? 俺がそっちに行く。それでいいか?」
『ええ、うん、いいけど。私が歌うのは九時からよ?』
「なら、その前に行く」
『……うん。待ってる』
そうして電話は切れた。
「そーですかー、あたしハブかれたかー」
「不服か?」
「んーん、そんなことないよ、実際あたし困ってたし」
「すまんな。会いたかっただろ?」
「それはあるけどー。まーいーよ、次の機会だ! それでいーよ!」
「あるといいな」
「なにーその言い方ちょっと不吉なんだけど! なんか他に無いのなんか!」
由紀奈はいつもの調子に戻ったろうか。努めてそうしているように見えたのは、俺の勝手な解釈か。煙草に火を点けた。
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