ハードボイルド探偵・篤藩次郎(淳ちゃん)

黒猫

文字の大きさ
20 / 63
Vol.1『ファムファタ女と名探偵』

ハードボイルド電話する

しおりを挟む
 俺は目を伏せ、由紀奈にPCの画面を消すよう言った。マウスを幾度かクリックする音がし、microSDを抜く気配を感じた。もういいよと声を掛けられ、目を開ける。問題のブツは、キーボードの前に置かれていた。二人揃ってそれを見つめ、しばし、黙る。
 俺があの写真を見たのは一瞬のことだったが、それでも脳みそには焼きついてしまっていた。まあ、意識の大半は彰子の白い体に持ってかれてはいたのだが(自然の摂理だ)、探偵としての俺はふと、ある事に気づいた。そして立ち上がる。
「淳ちゃん?」
 探偵机の上に出しっぱなしだったいつかの資料を手に取り、確認してみる。やっぱりだ。
「これだ」
 加工済みブラ画像のページを由紀奈に突き出す。
「この写真、それと同じ時に撮ったものなんじゃないか?」
「あ」
「すまないがもう一度見てみてくれ。俺は見ない」
「……わかった」
 由紀奈は再びPCにmicroSDを挿した。何ともつらそうにモニターを見つめるその顔の、眉根がさらに寄った。
「――うん。間違いないね。あの時もらったのと同じのがある」
「あれは兵頭の寝室だ」
 昨日のあの既視感の正体は、これだった。Bのツラなんぞじゃなく、兵頭の寝室に対して覚えたものだった。
「彰子さん、前の前の彼って言ってなかったっけ」
「そうだったな……まあ、ともかくだ」
「本当の目的はこれだったってことだよね」
「ああ、おそらくな」
「なんでこの一枚だけ持ってたのかな」
「ん……」
 再び沈黙した。やがて由紀奈が口を開いた。
「あーあ、何て言ったらいーんだろ! あーでも見ちゃいましたとかそもそも言えないよね。わー、彰子さんにあたしどんな顔したらいーんだろ。悪いことしちゃった……」
「……大丈夫だ、任せろ」
「ひゅい?」
 俺はスマホを出し、彰子の番号をコールした。呼び出し音の二つと鳴り終わらぬうちに、彼女は出た。
『ハイ! 探偵さん。お元気してる?』
「ああ、まあ、お陰様でな」
『電話だとずいぶん無愛想なのね。なんだか違う人みたい』
 彰子の明るいトーンが胸に刺さった。
「……例の件だが、手に入れたぞ、あれ」
『本当に!?』
「ああ」
『仕事が早いのね。びっくりしちゃった』
「渡そうと思うんだが……どうする?」
『んーごめん、今日はちょっと動けないの。明日なら――』
「金曜だ」
『え?』
「明後日、金曜。あそこで歌うんだろ? 俺がそっちに行く。それでいいか?」
『ええ、うん、いいけど。私が歌うのは九時からよ?』
「なら、その前に行く」
『……うん。待ってる』
 そうして電話は切れた。
「そーですかー、あたしハブかれたかー」
「不服か?」
「んーん、そんなことないよ、実際あたし困ってたし」
「すまんな。会いたかっただろ?」
「それはあるけどー。まーいーよ、次の機会だ! それでいーよ!」
「あるといいな」
「なにーその言い方ちょっと不吉なんだけど! なんか他に無いのなんか!」
 由紀奈はいつもの調子に戻ったろうか。努めてそうしているように見えたのは、俺の勝手な解釈か。煙草に火を点けた。
 彰子があの表情の下にどんな感情を抱いて俺に依頼をしてきたのか。依頼に隠された意図よりもそっちのほうが、この俺には問題だった。どうにか報いてやりたいようなそんな気持ちが、どういう訳か湧いて出て、すっかり俺を飲み込んじまった。電話口での俺のトーンはどうにも低いままで、そんな自分に苛立ちを覚えた。


 木曜。例のmicroSDは昨日のまま、由紀奈の机の上に放置されていた。いつもなら、「絶対に見るなよ」と俺に釘を刺して、どこかに厳重に封印しそうなものだが、そうしないのは、俺がひとりで中身を見ようとすることは決して無いと理解しているのだろう。今日は他に用事があると言って、事務所には来なかった。俺は報告書に少し手をつけた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...