29 / 63
Vol.2『裸のボディガード』
ボディガードと女学院
しおりを挟む
突如として現れた訳じゃなく、ずっと事務所にいたという謎の執事、芳賀。由紀奈いわく、彼は俺に話があるということだったが……なんだろう? 訊いてみるか。
「篤様には明日より、優希絵お嬢様の通われている野方女学院高校へお出で頂くこととなりましたが……」
「ノガジョ!」
これは驚いた。野方女学院と言えば、そこら中に名の通ったお嬢様学校じゃないか。まあ、優希絵はあの通りのテンプレお嬢だったからそっちは問題無いが――
「なんだよ」
こいつだこいつ。この遠慮無しに俺を鋭く睨んでくる口の悪い由紀奈も、まさかそんな学校に通ってるとは。まじかよ。今の今まで知らなかった。
「悪いかよ」
これ以上驚いていては由紀奈の機嫌を損なう。ここはひとまず、芳賀の話を聞くことにしよう。
「そこで私から、ひとつ篤様にお願いしたい事がございまして……」
「何だ」
「ヌードデッサンのモデルと一緒に、優希絵お嬢様の護衛を引き受けてはいただけませんでしょうか? もちろん、費用はいくらでもお出しいたします……」
いくらでも、だと?
「よしわかった、やろう」
俺は引き受けた。
「もっと詳しく聞いてから返事しろって。まーいっか。いくらでもって言うんだし。で、芳賀さん、護衛ってのはなんで? センパイって、なんか狙われてんの?」
俺がこんなふうにちょっとばかり適当ぶっこいても、放っとけば由紀奈が勝手に話を進めてくれる。つくづく、有能な助手だ。というか、俺は腹が減った。
「それがですね……」
芳賀は語り始めた。
彼の言うところによると、優希絵は実は巨大財閥である椒コンツェルンのド中心、椒家ご本家のご令嬢であり、そんな大企業の大社長の娘で大会長の孫とくれば、まあ、その日常は危険と隣り合わせだ。これまでにも幾度となく、身代金目的の誘拐やら拉致やら、あるいは逆玉狙いに言い寄る男だの何だのと、様々な危機に遭ってきたらしい。
……言い寄るとか、あんな小娘にだぞ? ううむ、そういうのがいてもおかしくない世界なんだろうな、要は金だ。いかがなものか。俺は金なんかよりむしろ、愛が欲しい。愛を求めてやまない孤独のハードボイルドだ。さあ、どっちが格好いい? もちろん後者、この俺だ。おっと、話が逸れたな。
とまあ、そんなハードな境遇に生まれた彼女だが、それでも無事ここまで健やかに成長し、野方女学院において、美術部の部長まで務めるようになった。しかも、もう間もなく行われる生徒会選挙にて、生徒会長に立候補しているという。対抗馬もいなくは無いが、どうやら圧倒的に有力、当選確実と目されているらしい。持って生まれた器のでかさ、なんだろうな。ブラのカップは小さいが。
「陽の当たる存在、と言って差し支えないお方かと存じます。しかし、それゆえに、日射しを遮られたと不平を洩らす翳り者というのもやはり、湧いて出てくるものでございます……」
妬み、僻み、嫉み、か。その輝きが眩いほど、影も濃くなる。人の世の常だ。
「加えてこの歳末でございます、よからぬ事を企む輩が、いつ現れてもおかしくはありません。日中は学院の警備がありますが、放課してのちは、人の出入りも多くなります。かといって、お嬢様の課外活動をお止めする権利は、私どもにはございません。美術部の活動は、お嬢様にとって非常に思い入れの強いものでもありますので、なおさらのことでございます……」
「優希絵はそんなに美術が好きなのか」
「左様です……これまで、ひと通りの習い事はなされておいでなのですが、とりわけ美術に、まだ小さい頃から強くご関心を示されまして……近頃では、中でも男性像などにご執心で……」
「ぶっ。なーんだ、美術部としての依頼とか言ってたけど結局、センパイの個人的な趣味なんじゃん?」
「まあそう言うな。俺がそのモデルをやれば、彼女の護衛も同時に務まる。しかも、女子高に正々堂々と侵入できる大義名分のおまけつきだ。そういうことだろう、芳賀さん。よく考えたもんだな?」
「え、ええ……」
「考えたのは私よ」
「だ、誰だ!」
突然、別の男の声が割り込んできた。
「……って、なんだ、ママか」
今日はずいぶんたくさん人が来る。バー『イプセン』のママ(マスター)が、したり顔をして事務所の入口に立っていた。
「篤様には明日より、優希絵お嬢様の通われている野方女学院高校へお出で頂くこととなりましたが……」
「ノガジョ!」
これは驚いた。野方女学院と言えば、そこら中に名の通ったお嬢様学校じゃないか。まあ、優希絵はあの通りのテンプレお嬢だったからそっちは問題無いが――
「なんだよ」
こいつだこいつ。この遠慮無しに俺を鋭く睨んでくる口の悪い由紀奈も、まさかそんな学校に通ってるとは。まじかよ。今の今まで知らなかった。
「悪いかよ」
これ以上驚いていては由紀奈の機嫌を損なう。ここはひとまず、芳賀の話を聞くことにしよう。
「そこで私から、ひとつ篤様にお願いしたい事がございまして……」
「何だ」
「ヌードデッサンのモデルと一緒に、優希絵お嬢様の護衛を引き受けてはいただけませんでしょうか? もちろん、費用はいくらでもお出しいたします……」
いくらでも、だと?
「よしわかった、やろう」
俺は引き受けた。
「もっと詳しく聞いてから返事しろって。まーいっか。いくらでもって言うんだし。で、芳賀さん、護衛ってのはなんで? センパイって、なんか狙われてんの?」
俺がこんなふうにちょっとばかり適当ぶっこいても、放っとけば由紀奈が勝手に話を進めてくれる。つくづく、有能な助手だ。というか、俺は腹が減った。
「それがですね……」
芳賀は語り始めた。
彼の言うところによると、優希絵は実は巨大財閥である椒コンツェルンのド中心、椒家ご本家のご令嬢であり、そんな大企業の大社長の娘で大会長の孫とくれば、まあ、その日常は危険と隣り合わせだ。これまでにも幾度となく、身代金目的の誘拐やら拉致やら、あるいは逆玉狙いに言い寄る男だの何だのと、様々な危機に遭ってきたらしい。
……言い寄るとか、あんな小娘にだぞ? ううむ、そういうのがいてもおかしくない世界なんだろうな、要は金だ。いかがなものか。俺は金なんかよりむしろ、愛が欲しい。愛を求めてやまない孤独のハードボイルドだ。さあ、どっちが格好いい? もちろん後者、この俺だ。おっと、話が逸れたな。
とまあ、そんなハードな境遇に生まれた彼女だが、それでも無事ここまで健やかに成長し、野方女学院において、美術部の部長まで務めるようになった。しかも、もう間もなく行われる生徒会選挙にて、生徒会長に立候補しているという。対抗馬もいなくは無いが、どうやら圧倒的に有力、当選確実と目されているらしい。持って生まれた器のでかさ、なんだろうな。ブラのカップは小さいが。
「陽の当たる存在、と言って差し支えないお方かと存じます。しかし、それゆえに、日射しを遮られたと不平を洩らす翳り者というのもやはり、湧いて出てくるものでございます……」
妬み、僻み、嫉み、か。その輝きが眩いほど、影も濃くなる。人の世の常だ。
「加えてこの歳末でございます、よからぬ事を企む輩が、いつ現れてもおかしくはありません。日中は学院の警備がありますが、放課してのちは、人の出入りも多くなります。かといって、お嬢様の課外活動をお止めする権利は、私どもにはございません。美術部の活動は、お嬢様にとって非常に思い入れの強いものでもありますので、なおさらのことでございます……」
「優希絵はそんなに美術が好きなのか」
「左様です……これまで、ひと通りの習い事はなされておいでなのですが、とりわけ美術に、まだ小さい頃から強くご関心を示されまして……近頃では、中でも男性像などにご執心で……」
「ぶっ。なーんだ、美術部としての依頼とか言ってたけど結局、センパイの個人的な趣味なんじゃん?」
「まあそう言うな。俺がそのモデルをやれば、彼女の護衛も同時に務まる。しかも、女子高に正々堂々と侵入できる大義名分のおまけつきだ。そういうことだろう、芳賀さん。よく考えたもんだな?」
「え、ええ……」
「考えたのは私よ」
「だ、誰だ!」
突然、別の男の声が割り込んできた。
「……って、なんだ、ママか」
今日はずいぶんたくさん人が来る。バー『イプセン』のママ(マスター)が、したり顔をして事務所の入口に立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる