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Vol.2『裸のボディガード』
ボディガード虚を衝かれる
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とまあ、七日という期間の短さも跳ね返し、見事、勝利をもぎ取った俺だったが、自分のしでかした事への罪悪感も無くはなかった。いそいそと服を着てワークスペース(事務所)へ戻った俺に、優希絵は明日からさっそく来るようにと言い、オリエント香気をひとすじ残して去っていった。あとの由紀奈と幹彦はというと、呆れた様子を隠さない。居心地が悪い。底の抜けた孤独を覚えた。そうだ、この悪い空気を入れ換えよう。探偵机脇の窓を開け、ラッキーストライクに火を点けた。こいつだけは、俺を裏切らない。
「寒いっつーの。ベランダ出ろよ」
そういえばずっと何も食ってなかった。空腹で吸うたばこがうまい訳が無い。俺はすぐに火を消してしまった。すまんな、裏切ったのは俺のほうだ。松屋に行くのが先決だった。
「師匠って、いつもこんな感じなの?」
愛弟子がほざいた。
「そーだよ」
「こんな感じとはどんな感じだ」
「どんな感じって、そんな感じだよ。淳ちゃんししょーはこんな感じ。わかったー?」
「ふふっ。そうなんだね。……じゃあ、僕ももう帰るね。師匠、今夜も走る?」
「ああもちろんだ」
合格したからといって、俺は決して慢心しない。もう少し、脇腹の肉をシェイプしたいと思っていた。
「――というか、お前はここに何をしに来たんだ?」
「そりゃあもちろん、結果を見に、だよ。よかったね、師匠! じゃあ、また夜にね!」
呆れ顔も見せてはいたが、帰り際の幹彦は満足げだった。
「ふーん、そういう関係でしたかーなるほどなるほど」
「何がなるほどなんだ?」
「淳ちゃん、あーいう美少年が好きなんだねー」
「馬鹿言え。俺にそんな趣味は無い。ただのジョギング仲間だ」
「よかったじゃん友達できて」
「人をさみしい人間みたいに言うんじゃない!」
……ふと、幹彦はどうなのだろう、という考えが頭をよぎった。あの人懐っこさは、孤独の裏返しだったりはしないか?
「まーでも、綺麗な子だったよねー。かわいかった」
「やっぱりそう思うか。だがな、男はあそこからどんどん汚くなっていくんだぞ。俺だって昔はかなりの――」
「知るかっての」
「現実は厳しいのさ」
「べつにー。あたし面食いじゃねーし」
「なら俺にもチャンスがあるか。だが悪いな由紀奈、俺は彰子ちゃんひとすじだ」
「ほざいてろー」
「あの……宜しいでしょうか……?」
「だ、誰だ!」
俺は驚いた。いきなり五十絡みのオッサンの声がしたからだ。見ると、いつの間にか事務所入り口に、小柄な五十絡みのオッサンが佇んでいた。ドアの開く音なぞしてないが?
「芳賀と申します……」
「あー淳ちゃんこの人ね、椒センパイの家の執事さん」
「由紀奈、知ってるのか」
「さっきからずっといたじゃん。学校から一緒だった」
「まったく気づかなかった」
探偵ともあろうこの俺が、なんたることだ。忍者か何かなのか?
「忍者は伊賀と甲賀でございますね……」
思考まで読まれた。只者じゃあない。
「優希絵はもう帰ったんじゃないのか?」
「お嬢様はお車にてお帰りになられましたので……」
「なんか話があるんだよねー、芳賀さん?」
「左様でございます……」
優希絵の椒家の執事だという芳賀は、見てくれはただのしょぼい地味なちっこいオッサンだ。いかにも執事といったシニアな服装が板に付いて見えるが、正直あまり似合ってない。ひょっとすると、真の姿は別にあるのかもしれない。
「芳賀さん、ねえ……」
「優希絵お嬢様が、お世話になります……」
「帰りはどうするんだ?」
「そこかよ」
「私は、歩いて参ります……」
「そーなの」
「寒いっつーの。ベランダ出ろよ」
そういえばずっと何も食ってなかった。空腹で吸うたばこがうまい訳が無い。俺はすぐに火を消してしまった。すまんな、裏切ったのは俺のほうだ。松屋に行くのが先決だった。
「師匠って、いつもこんな感じなの?」
愛弟子がほざいた。
「そーだよ」
「こんな感じとはどんな感じだ」
「どんな感じって、そんな感じだよ。淳ちゃんししょーはこんな感じ。わかったー?」
「ふふっ。そうなんだね。……じゃあ、僕ももう帰るね。師匠、今夜も走る?」
「ああもちろんだ」
合格したからといって、俺は決して慢心しない。もう少し、脇腹の肉をシェイプしたいと思っていた。
「――というか、お前はここに何をしに来たんだ?」
「そりゃあもちろん、結果を見に、だよ。よかったね、師匠! じゃあ、また夜にね!」
呆れ顔も見せてはいたが、帰り際の幹彦は満足げだった。
「ふーん、そういう関係でしたかーなるほどなるほど」
「何がなるほどなんだ?」
「淳ちゃん、あーいう美少年が好きなんだねー」
「馬鹿言え。俺にそんな趣味は無い。ただのジョギング仲間だ」
「よかったじゃん友達できて」
「人をさみしい人間みたいに言うんじゃない!」
……ふと、幹彦はどうなのだろう、という考えが頭をよぎった。あの人懐っこさは、孤独の裏返しだったりはしないか?
「まーでも、綺麗な子だったよねー。かわいかった」
「やっぱりそう思うか。だがな、男はあそこからどんどん汚くなっていくんだぞ。俺だって昔はかなりの――」
「知るかっての」
「現実は厳しいのさ」
「べつにー。あたし面食いじゃねーし」
「なら俺にもチャンスがあるか。だが悪いな由紀奈、俺は彰子ちゃんひとすじだ」
「ほざいてろー」
「あの……宜しいでしょうか……?」
「だ、誰だ!」
俺は驚いた。いきなり五十絡みのオッサンの声がしたからだ。見ると、いつの間にか事務所入り口に、小柄な五十絡みのオッサンが佇んでいた。ドアの開く音なぞしてないが?
「芳賀と申します……」
「あー淳ちゃんこの人ね、椒センパイの家の執事さん」
「由紀奈、知ってるのか」
「さっきからずっといたじゃん。学校から一緒だった」
「まったく気づかなかった」
探偵ともあろうこの俺が、なんたることだ。忍者か何かなのか?
「忍者は伊賀と甲賀でございますね……」
思考まで読まれた。只者じゃあない。
「優希絵はもう帰ったんじゃないのか?」
「お嬢様はお車にてお帰りになられましたので……」
「なんか話があるんだよねー、芳賀さん?」
「左様でございます……」
優希絵の椒家の執事だという芳賀は、見てくれはただのしょぼい地味なちっこいオッサンだ。いかにも執事といったシニアな服装が板に付いて見えるが、正直あまり似合ってない。ひょっとすると、真の姿は別にあるのかもしれない。
「芳賀さん、ねえ……」
「優希絵お嬢様が、お世話になります……」
「帰りはどうするんだ?」
「そこかよ」
「私は、歩いて参ります……」
「そーなの」
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