38 / 63
Vol.2『裸のボディガード』
ボディガードの突入準備
しおりを挟む
前回の依頼人だった柏木彰子。謎の多い女だったが、俺は見事、依頼を果たしてみせた。だが二人の間には、果たせないままでいた思いがあった。また会うことになるとは望外すぎる僥倖だったが、いかんせん、タイミングが悪すぎる。
「なんだ、彰子か」
「つれない言いぐさ! 感動の再会じゃないの!」
「よりによってこんな時にな。間が悪い」
本当だったら熱烈大歓迎なのは間違いない。
「あの……柏木警部?」
「お知り合いですか?」
「あなたたちは下がってて。あのね、この人は特別なの」
「「は、はいい!」」
彰子は警官二人を軽くあしらった。
「偉いもんだな」
「もっと驚いてくれてもいいんじゃなくて?」
「何をだ」
「……そっか、バレてたってことね。私が警察の人間だって」
「まあな。俺は何でも知ってるんだ」
「そんなこと言って……まだ見てもいないくせに……」
そう言いながら、いつかのごとく急激に距離を詰めてきた。俺の右胸に頬を寄せ、左肩に指を這わせる。毛糸洗いに自信が持てそうな香りが流れた。
「し、師匠!」
「弟子の前だ。控えてくれないか」
「私ね、空気が読めないみたいなの」
「知っている」
俺は背を向けた。こっちは忙しいんだ。由紀奈がここに連れ込まれてから、まだ五分は経ってないはずだ。まったく、彰子め、何だって一刻を争うこんな時に。幹彦は顔を真っ赤にして俺にしがみついてきた。
「新しい彼女かしら?」
「これがデートに見えるか。弟子だと言っている」
「どうしたの、探偵さん……何だか怖い」
「由紀奈がさらわれた。この中にいる。ついさっきだ。ほら見ろ、そこのロールズはまだ温かい」
俺の探偵スマホをサーモグラフィモードにして、彰子に見せてやった。これはもちろん、由紀奈の手による改造だ。
「由紀奈ちゃんだったの! ごめんなさい、探偵さん。遠目だとそこまでわかんなかったの。なるほどね、すごく必死な訳がわかったわ」
「誰が必死だ」
「妬けちゃうわあ」
「茶化すんじゃない」
「本気なのに」
「今はそういう時間じゃない」
「安心して、探偵さん。さっきそのロールズロイスが来て由紀奈ちゃんを建屋に連れ込んだ時点で、機動隊を出動させたから」
「何だ、彰子、お前はここに張ってたのか」
どや顔でサーモグラフィを見せて、俺はまるで馬鹿じゃないか。
「突入するのに大義名分が必要だったの。感謝するわ」
「ふざけるな。機動隊はいつ来るんだ」
「怒らないで。もう間もなく。もう五分もしたら」
「遅い。俺は行くぞ」
リュックの中に入れてあった地下足袋を履いて、あとはこの身ひとつ、俺の準備は万端だった。
「師匠!」
「幹彦、お前はここで待ってろ。すぐ戻る。由紀奈を連れてな」
「うん……」
「幹……彦? 女の子じゃないの?」
「そうだった、幹彦、お前は本当は何と言うんだ」
「あ、みき……美貴だよ。僕の本当の名前は、立原美貴」
気づけば、わざと潰して出していたんだろう美少年ボイスはとっくにやめて、素の十五歳の少女らしい声になっていた。
「いい名だ。よし行ってくる」
「うん、気をつけてね、師匠」
「彰子!」
「なあに? 探偵さん」
「少しの間だが、幹彦を頼む」
「え、ええ。いいけど」
「美貴だってのに!」
どっちだっていい。どっちにしたって、俺の一番弟子だ。
そうして俺は、彰子の呼んだ機動隊の到着を待たずに、単身、由紀奈をさらった謎の敵アジトに乗り込んでいった。こういうのはむしろ、一人のほうが動きやすいんだ。俺はな。
「なんだ、彰子か」
「つれない言いぐさ! 感動の再会じゃないの!」
「よりによってこんな時にな。間が悪い」
本当だったら熱烈大歓迎なのは間違いない。
「あの……柏木警部?」
「お知り合いですか?」
「あなたたちは下がってて。あのね、この人は特別なの」
「「は、はいい!」」
彰子は警官二人を軽くあしらった。
「偉いもんだな」
「もっと驚いてくれてもいいんじゃなくて?」
「何をだ」
「……そっか、バレてたってことね。私が警察の人間だって」
「まあな。俺は何でも知ってるんだ」
「そんなこと言って……まだ見てもいないくせに……」
そう言いながら、いつかのごとく急激に距離を詰めてきた。俺の右胸に頬を寄せ、左肩に指を這わせる。毛糸洗いに自信が持てそうな香りが流れた。
「し、師匠!」
「弟子の前だ。控えてくれないか」
「私ね、空気が読めないみたいなの」
「知っている」
俺は背を向けた。こっちは忙しいんだ。由紀奈がここに連れ込まれてから、まだ五分は経ってないはずだ。まったく、彰子め、何だって一刻を争うこんな時に。幹彦は顔を真っ赤にして俺にしがみついてきた。
「新しい彼女かしら?」
「これがデートに見えるか。弟子だと言っている」
「どうしたの、探偵さん……何だか怖い」
「由紀奈がさらわれた。この中にいる。ついさっきだ。ほら見ろ、そこのロールズはまだ温かい」
俺の探偵スマホをサーモグラフィモードにして、彰子に見せてやった。これはもちろん、由紀奈の手による改造だ。
「由紀奈ちゃんだったの! ごめんなさい、探偵さん。遠目だとそこまでわかんなかったの。なるほどね、すごく必死な訳がわかったわ」
「誰が必死だ」
「妬けちゃうわあ」
「茶化すんじゃない」
「本気なのに」
「今はそういう時間じゃない」
「安心して、探偵さん。さっきそのロールズロイスが来て由紀奈ちゃんを建屋に連れ込んだ時点で、機動隊を出動させたから」
「何だ、彰子、お前はここに張ってたのか」
どや顔でサーモグラフィを見せて、俺はまるで馬鹿じゃないか。
「突入するのに大義名分が必要だったの。感謝するわ」
「ふざけるな。機動隊はいつ来るんだ」
「怒らないで。もう間もなく。もう五分もしたら」
「遅い。俺は行くぞ」
リュックの中に入れてあった地下足袋を履いて、あとはこの身ひとつ、俺の準備は万端だった。
「師匠!」
「幹彦、お前はここで待ってろ。すぐ戻る。由紀奈を連れてな」
「うん……」
「幹……彦? 女の子じゃないの?」
「そうだった、幹彦、お前は本当は何と言うんだ」
「あ、みき……美貴だよ。僕の本当の名前は、立原美貴」
気づけば、わざと潰して出していたんだろう美少年ボイスはとっくにやめて、素の十五歳の少女らしい声になっていた。
「いい名だ。よし行ってくる」
「うん、気をつけてね、師匠」
「彰子!」
「なあに? 探偵さん」
「少しの間だが、幹彦を頼む」
「え、ええ。いいけど」
「美貴だってのに!」
どっちだっていい。どっちにしたって、俺の一番弟子だ。
そうして俺は、彰子の呼んだ機動隊の到着を待たずに、単身、由紀奈をさらった謎の敵アジトに乗り込んでいった。こういうのはむしろ、一人のほうが動きやすいんだ。俺はな。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる