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Vol.2『裸のボディガード』
ボディガード、順調です
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二十三区でも外れのほうに来れば、たまにこんな、周りに取り残されたような打ち捨てられた建物に出くわすことがある。この古びた工場も、明らかにただの廃墟でしかない。さっさと取り壊してしまえば、立地的に考えて他にいくらでも利用価値があるだろうに。そうならないのは、土地の権利を悪い奴らが押さえているからだ。そうして、悪い事をするためのいい拠点となる。無論、権利者を直接はたいても、そうやすやすとは埃を出さない。そしていざとなったら知らんぷりだ。とんだ犯罪の貯水池だ。
由紀奈をさらった悪い奴らが何人組なのか。それは把握したい。さっそくサーモグラフィを、ここかと見つけた通用口に向けてみた。無駄だと思うだろ? だが、見張りが立ってるかくらいはわかるんだ。やはりいやがる。壁の向こうに、ひとり。ミスターブルーと名付けよう。俺も壁に背中をつけて、ドアノブに手を掛けた。
ここでひと呼吸置く。考えを巡らす。奴らもまた、ここに到着したばかりだ。うまいこと、優希絵を誘拐できたと思い込んでることだろう。由紀奈なんだがな。きっと気が弛んでるに違いない。次のステップ――脅迫に移る前に、一杯やろうとするはずだ。となると、下っ端が買い出しに駆り出されることになる。そら、違うもう一人の気配が現れ、近づいてきた。
「お前は何がいい?」
「男梅チューハイ」
見張りのブルーにパシリが訊ねるのが聴こえた。パシリはブラウンと呼ぼう。そしてドアノブが回る。俺はそれを手のひらに感じ、すぐさま重心をうんぬんした。ドアが開き、ミスターブラウンが顔を出した。始めまして、だ。
「やあ」
「!?」
ボゴォ。
俺は左の拳を突き出し、ブラウンのアホ面のアホ顎をブチ抜いてやった。受け身も取れず、床に背中と頭で着地した。やや小柄な雑魚だった。もう動けないだろう。まず一匹。ちょろいもんだ。
お次はブルーだ。パイプ椅子に座ってやがった。ブッ倒れるブラウンに驚き、そして立ち上がろうとするが――
ゲシッ。
左足を軸にターンし、そのまま蹴り込んだ。首を。顎ごと。若干小太りな体が、パイプ椅子から飛び立った。倒れた椅子の二メートル先に、ミスターブルーは左肩から着地し、転がった。そのままうつ伏せになってのびて、動かない。よし、二匹目。いい調子だ。
さすがに派手な音が立ったから、他の奴らに気づかれたろう。俺は身をかがめ、手近にあった何かのコンテナの陰に隠れた。すぐ横でミスターブラウンがのびてる。その手元に紙切れが落ちていた。パシリのメモ書きか。ビールやら焼き鳥やらに混じって、目についた品目があった。
・ペットボトル紅茶(フォション)
・スーパーカップ(超バニラ)
これは明らかに由紀奈の分だ。しかもこの細かい指定、本人のリクエストを聞き入れたということか。あるいは、聞き入れさせられたか。よし、由紀奈はまだ無事だ。
ここで辺りを見回してみると、工場の内部はコンクリの床に、あちこち鉄骨がむき出しの二階建ての構造だった。一階には他に人影は見当たらない。二階に向けて、サーモグラフしてみる。人らしき塊が四つ五つ見えた。うちひとつは由紀奈だ。
と、その塊のうちのひとつが移動し始め、それにリンクして足音が響いた。二階の床は、鉄らしい。そして足音の主は、狭い鉄骨階段を降りてくる。俺はその死角に立ち、そいつ――ミスターブロンドと呼ぼう――に奇襲をかけた。背後から首を絞めて落としてやった。とても静かな出来事だった。これで三匹目だ。床にブン投げた。殺してはいないからな?
足音を忍ばせつつ足早に、俺は階段を上がった。地下足袋はこういう時にぴったりなんだ。二階は半分ほどが一階からの吹き抜けで、もう半分の空間は、簡素なパネルで部屋らしく仕切られていた。簡素なドアも、あちこちにいくつか付いてた。外観にそぐわず、意外と新しい造りだ。こっそり改装したのだろう。一番大きな区画が事務所といったところか。
と、傍らのドアが開いて、中から一人出てこようとした。ので、顔が見えるやすぐさま殴り倒し、中に押し戻した。そこはどうやらトイレのようだった。おっと、名前を付けるのを忘れてた。ミスターピンクだな。
さあ、これであとは事務所の中だ。サーモグラフィは三つの塊を表示した。ここまで来たらもう間違いない。一つは由紀奈で、倒すべき残りは二匹だ。
由紀奈をさらった悪い奴らが何人組なのか。それは把握したい。さっそくサーモグラフィを、ここかと見つけた通用口に向けてみた。無駄だと思うだろ? だが、見張りが立ってるかくらいはわかるんだ。やはりいやがる。壁の向こうに、ひとり。ミスターブルーと名付けよう。俺も壁に背中をつけて、ドアノブに手を掛けた。
ここでひと呼吸置く。考えを巡らす。奴らもまた、ここに到着したばかりだ。うまいこと、優希絵を誘拐できたと思い込んでることだろう。由紀奈なんだがな。きっと気が弛んでるに違いない。次のステップ――脅迫に移る前に、一杯やろうとするはずだ。となると、下っ端が買い出しに駆り出されることになる。そら、違うもう一人の気配が現れ、近づいてきた。
「お前は何がいい?」
「男梅チューハイ」
見張りのブルーにパシリが訊ねるのが聴こえた。パシリはブラウンと呼ぼう。そしてドアノブが回る。俺はそれを手のひらに感じ、すぐさま重心をうんぬんした。ドアが開き、ミスターブラウンが顔を出した。始めまして、だ。
「やあ」
「!?」
ボゴォ。
俺は左の拳を突き出し、ブラウンのアホ面のアホ顎をブチ抜いてやった。受け身も取れず、床に背中と頭で着地した。やや小柄な雑魚だった。もう動けないだろう。まず一匹。ちょろいもんだ。
お次はブルーだ。パイプ椅子に座ってやがった。ブッ倒れるブラウンに驚き、そして立ち上がろうとするが――
ゲシッ。
左足を軸にターンし、そのまま蹴り込んだ。首を。顎ごと。若干小太りな体が、パイプ椅子から飛び立った。倒れた椅子の二メートル先に、ミスターブルーは左肩から着地し、転がった。そのままうつ伏せになってのびて、動かない。よし、二匹目。いい調子だ。
さすがに派手な音が立ったから、他の奴らに気づかれたろう。俺は身をかがめ、手近にあった何かのコンテナの陰に隠れた。すぐ横でミスターブラウンがのびてる。その手元に紙切れが落ちていた。パシリのメモ書きか。ビールやら焼き鳥やらに混じって、目についた品目があった。
・ペットボトル紅茶(フォション)
・スーパーカップ(超バニラ)
これは明らかに由紀奈の分だ。しかもこの細かい指定、本人のリクエストを聞き入れたということか。あるいは、聞き入れさせられたか。よし、由紀奈はまだ無事だ。
ここで辺りを見回してみると、工場の内部はコンクリの床に、あちこち鉄骨がむき出しの二階建ての構造だった。一階には他に人影は見当たらない。二階に向けて、サーモグラフしてみる。人らしき塊が四つ五つ見えた。うちひとつは由紀奈だ。
と、その塊のうちのひとつが移動し始め、それにリンクして足音が響いた。二階の床は、鉄らしい。そして足音の主は、狭い鉄骨階段を降りてくる。俺はその死角に立ち、そいつ――ミスターブロンドと呼ぼう――に奇襲をかけた。背後から首を絞めて落としてやった。とても静かな出来事だった。これで三匹目だ。床にブン投げた。殺してはいないからな?
足音を忍ばせつつ足早に、俺は階段を上がった。地下足袋はこういう時にぴったりなんだ。二階は半分ほどが一階からの吹き抜けで、もう半分の空間は、簡素なパネルで部屋らしく仕切られていた。簡素なドアも、あちこちにいくつか付いてた。外観にそぐわず、意外と新しい造りだ。こっそり改装したのだろう。一番大きな区画が事務所といったところか。
と、傍らのドアが開いて、中から一人出てこようとした。ので、顔が見えるやすぐさま殴り倒し、中に押し戻した。そこはどうやらトイレのようだった。おっと、名前を付けるのを忘れてた。ミスターピンクだな。
さあ、これであとは事務所の中だ。サーモグラフィは三つの塊を表示した。ここまで来たらもう間違いない。一つは由紀奈で、倒すべき残りは二匹だ。
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