英雄は星空の瞳に優しく囚われ英雄になる ~訳アリの年下魔術師を溺愛したら英雄になった俺の話~

べあふら

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2.5 セフィリオの恋と愛 (セフィリオ視点)

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「私に一通りのマナーをならったお陰で、貴族からの依頼も気を遣わなくなった、とお礼を言われたわよ。
 お礼を言われて、悪い気はしないけれど。
 アレクセイの対応は、初めから大きな問題は無かったのよね」

「アレクは元々、言動も柔らかいし、何より対応が丁寧で、きちんとしてるからね」

 あれは根っからマメというか、自然とそう振舞っているというか。

「アレクセイは何をさせてもそつなくこなすし……何というか、勘がいいのよね。
 発言もだけれど、行動もこちらがそれを望んだタイミングで、適切に先回りされるというのかしら」

 勘がいい、か。

 アレクの勘は、普通の人のそれとはまったく違う知覚に基づくものだ。

 これは、僕とアレク本人しか知らないことだけど。

 アレクは、常人を超越した知覚能力を有していて、それによる未来予測を無意識下に行っている。
 普通の人から見れば、それは予知と言えるレベルだと思う。

 さらに、その予測への対応能力も、一般よりも優れているのだ。
 出来ることをして、出来ないことは受け入れる。だから、アレクは恐れないし、周りから見ると、その姿が彼の余裕としてうつる。


「あの容姿で、あんな風にされたらね。貴族令嬢なんて瞬殺だわ」

 そう言って、ころころと笑った。

 そういうレイチェルのことを、アレクは「全力で手合わせしたら瞬殺されるな」、と、常々笑いながら言っている。
 ちなみにレイチェルは、元々れっきとした伯爵令嬢だ。今も伯爵夫人である。


「従僕として連れるとき、彼がこれまで関わったことのある貴族を少し調べたけれど……貴族の中には彼のファンも多いわ。
 自分の領に欲しいと思う貴族は一人や二人では無いもの」

「そうだろうね」

 貴族令嬢じゃなくても、アレクが老若男女を虜にしてきているのを、僕は知っている。


 実際に、冒険者をしていて、領の護衛や騎士として召し上げられるものも多い。
 アレクの次に多く、【スタンピード】の討伐に8回参加した冒険者は、有力貴族に召し上げられて、冒険者を辞めたはずだ。

 この話をしたときの、アレクの無反応っぷりがすごかった。

 僕には、『へー……なんで冒険者辞めたんだろうな?まあ、俺には関係ないけど』、というアレクの心の声が、確かに聞こえた。

 アレクだって、待遇の良い誘いは数多あったはずだ。
 そして、そのすべてをさらり、と断ってきたのだろう。

 アレクがレイチェルの従僕をやると聞いたときは、正直驚いた。
 二人の気が余程合ったのか、とも思ったけれど。

 きっとあれも………僕のことがあったから。


「アレクはすごく強いのに、当たり前のように優しいからね」

「そうなのよね。
 皆、アレクセイのことを、礼儀正しい好青年、と口をそろえていうわ。
【スタンピード】の被害をアレクセイに救われた領の貴族は、一度は彼を屋敷に招待している。招待しても、概ねやんわりきっぱり断られているようだけど。
 力や権力で強硬な手段を取ったところは、あっさり振られているしね」

「優しいから、脅せばどうにか出来ると、勘違いして侮る人もいるだろうね」

 アレクは常に、自分の直感と意志に従っている。

 それは、決して自信家だとか、楽天的だとか、何でも許容するということでは無い。

 彼特有の感覚によって、確かな道を選んでいくのだ。

 その姿は本当に清々しい。


「アレクにとっては、【スタンピード】の討伐は、あくまで魔獣を討伐した、というだけに過ぎないみたい。
 関心があるのは、直接的な死者や損害だけだよ」

 その領の領主が感謝している、と言われてもきっと全然興味が無いのだろう。

 けれど、かといって人を無下に扱うわけでは無い。
 礼を失さなければ、アレクは丁寧に……本人にとっては普通のことのようだけど、対応してくれる。

「そこがまた、好感が持てるのよ。
 今や、皆のアレクセイ・ヒューバード、というのが共通認識で、そうすることが最も利があって、抜け駆けや独占はしない、という暗黙の了解があるようよ」

 ああ、なるほど。そういう感じなのか。

 僕は社交には出ないから、こういう情報には疎い。

「アレクセイは、本当に魅力的よね。
 今後、【スタンピード】の討伐を続ければ、世間はもっと放っておかなくなるわ」

「そうだろうね。
 でも、アレクは大丈夫だよ。
 何がどうなっても、何をされても、アレクはアレクでいられるから」

 アレクの意志は常に彼自身にある。
 だからこそ彼は信頼足り得るのだ。


 問題があるとすれば、むしろ僕の方だ。


 僕に対する、生活の保証と警護という名の監視には、もう一つ、重要な意味がある。

 僕が母から受け継いだ、北の守り人に由来する力は、非常に強い力で、脅威なのだ。
 その力は、既存の魔術とは比べようもない。

 僕は今、魔力をちゃんとコントロールできているのだけど。
 僕が感情を極端に乱すと、僕の扱う膨大な魔力は暴走する。
 僕の魔力が暴走したら、被害は……どうなるかな。

 おそらく、ちょっとした暴走で、街一つくらいは余裕で飲み込むだろう。

 だから、僕は軟禁されながら、常に腫れものを扱うように接されてきた。


 僕がこの力を使い、国や自分たちに報復するのではないかと、恐れている人々が国の中枢にいる。
 彼らにも、これまでの僕や母たちに対する処遇を省みれば、恨まれても当然だという認識はあるらしい。

 北の守り人が滅ぼされた今、僕に対抗する術も彼らには無い。


 王宮から出されて、かつ動向を監視され、繋がれてきたのは、僕に対する恐怖が根底にあるのだ。

 もっとも。
 僕は彼らが勝手に抱いている根拠のある憂いには、全く興味が無い。

 だから、僕の手で彼らを憂いから解放してあげるつもりは、全く無い。

 飽きるまで、勝手に恐怖を抱き続ければいいと思う。


「僕がアレクと共にいることを許されたのは、彼が、僕を止めることが出来る人だから、でしょう」

 僕の言葉に、レイチェルは目を見開いた。

「……セフィリオ」

 アレクはこれまでの行いから、その実力と、正義を違えない人物として国にすら認められている。

 国王や、この国の中枢で僕を恐れている人々は、『アレクの能力をもってすれば、僕を制することが出来る』、そう、判断したのだ。

 だからこそ、アレクが護衛につくことで、僕は監視から解放された。

 アレクはきっと、そんな事情は知らない。
 きっと、純粋に僕のことを想ってくれているだけだ。


「アレクみたいな人は……本来、僕になんて、関わらない方がいいに決まってる」

 アレクは、何者からも自由であるべき人だ。
 僕を介して、国の思惑に縛られることなど、あってはならない。


 僕の力は強大であるが故に、危ういことは、誰から言われるまでも無く、僕自身が一番良く分かっている。


 僕の魔術の師であるレイチェルも、それを理解している。

 レイチェルでは、何かあった時、たとえ彼女の命を懸けたとしても、僕を止めることが出来ないことも知っている。

 僕自身も、抑止力の無いこの力を抱え、恐怖していることを知っている。

 アレクは僕を制することができる。
 それは正しい。

 だって。

「僕は何があっても、この力でアレクを傷つけることは、できないもの」

 彼が綺麗だと言ってくれた、この力で、彼を傷つけることなど絶対に出来ない。

 これは、今までに無かった、アレクがもたらしてくれた、内在的な強い抑止力なのだ。


「だから、僕は大丈夫だよ」

「………そう。そうなのね」

「そうだよ。だから、安心して」

 アレクにその気があろうと無かろうと、彼は、僕と僕の世界を守ってくれている。

 僕は、アレクに支えられて、守られている。
 僕の中にある、一歩間違えば、すべてを破壊しかねない力からも。
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