英雄は星空の瞳に優しく囚われ英雄になる ~訳アリの年下魔術師を溺愛したら英雄になった俺の話~

べあふら

文字の大きさ
40 / 84
2.5 セフィリオの恋と愛 (セフィリオ視点)

しおりを挟む
僕は毎日、同じ時間に同じ手順で屋敷の魔素計の観測室で、魔素濃度をチェックしている。

 計器の故障や、魔素濃度の数値に異常があった際が問題なので、いつも決まった時間に、決まった方法で評価をすることが重要なのだ。


 ………と、えらそうなことを言ったのだけど。

 今日、僕はいつもより遅く目を覚ました。
 簡単に言わなくても、寝坊だ。


 魔素計のチェックは継続して紙に転写されているので、計測が出来ていないことは無いのだけど……前述のような理由でもって、好ましいことでは無い。


 前日の寝不足と、久しぶりの外出、さらにその後の睦み合いで、僕はぐっすりと朝まで一度も起きることなく、眠ってしまった。

 というか昨晩、いつ眠ったのか記憶にない。
 いつ眠ったどころか、途中から記憶が無い。

 僕はちゃんと清拭されて、さらに夜着をきちんと着ていて、ベッドも気持ち良く整えられている。

 僕が眠ってしまった後、アレクが整えてくれた以外、考えられない。
 それ以外なら大問題だ。

 いや、そうであっても大問題だ。
 自分の晒したであろう醜態を思うと、恥ずかしくもあり、情けなくもあり。

 けれど、同時に嬉しくもあり。


 そして、アレクはいつも通りに起床したらしい。

 というのも、アレクの机の下に置いてある、剣の手入れをする道具、これが少し動かされた形跡があって、今日既に使ったことを示している。

 さらに、いつものように芳しい匂い食欲をそそる香りが屋敷中に漂っている。
 その香りにお腹がぐうと音を立てた。

 ああ、そう言えば昨日は帰宅後すぐにベッドに直行したから、夕食を食べていないな。


 ………僕、もうすでにダメになっているんじゃないかな。



 魔素計の観測器を一通り確認して、居間へと降りる。

 いつものように、いつものアレクがいて、朝から全開でアレクな彼は、やはり爽やかに微笑んで、「おはよう」と言った。

 むしろ、いつもよりも、甘さが増しているような気すらする。
 ……昨夜は、僕、迷惑をかけたような気がするけど……どういうことだろう。


 食事の配膳も済んでいて、もう僕が席に着くばかりだ。
 きっと、僕の活動し出す気配を感じて、タイミングよく食事の準備をしてくれたのだろう。

 僕が食卓に近づくと、さっと椅子をひいてくれて、僕はそのまま席に着いた。

 アレクは、「体調は、大丈夫か?」と後ろから頬に口づけつつ、僕に尋ねる。

「うん。大丈夫だよ」

 僕も、アレクほどでは無いにしても、魔力が多いせいか、身体は丈夫な方だ。

 今日の朝食はスープと、パンと、昨日森で採った果物が並んでいた。

 温かな湯気と共に香る、琥珀色の澄んだスープをすくうと、昨日のキノコが入っていた。口に含むと、キノコの香りが口いっぱいに広がって、しゃきしゃきと心地いい歯ごたえがする。

 スープの塩気も丁度良く、身体がぽかぽか温まってくる。
 今日の料理もとても美味しい。


 アレクって、出来過ぎじゃないかな。
 というか、僕ダメ過ぎなのかも。


「僕………アレクの役に、立てるのかな」

 不安とも呼べない、もやもやとした思いが浮かんでくる。

 僕の言葉に、アレクはきょとん、と目を丸くして千切ったパンを片手に固まった。

 次の瞬間には、破顔して、

「セフィリオはおかしなことを、言うんだな」

 と、くすくすと笑った。

「役に立つとか、立たないとか、別にどうでもいい。
 セフィリオがいるだけで、俺はいいんだから」

 そんなことを言う。

「………でも」
「そもそも、セフィリオや……レイチェルさんもそうだけど、自分で家のことする身分じゃないだろ?
 俺がいなかったら、別の誰かにしてもらうのが当然なんだから、気にする必要ない」

 ……そうなのかな。
 いや、そんなことないよね。

「それとこれとは、違うんじゃないかな。
 僕だって、アレクのために何かしたい」

 喜ばせたいし、楽しい気持ちにしてあげたい。
 アレクが、僕にしてくれるみたいに。


「うーん………俺が、家のこと……というかセフィリオのことをするのは、別にセフィリオのため、ていうよりもさ。
 単純に、他の奴にセフィリオの世話をさせたくない、てだけなんだよな」

 アレクの言うことは、やっぱり迷いも、何も無くて。

「身の回りのことだって、食事だって、他の奴にやらせるくらいなら、俺が全部したい」

 と、きっぱりと僕に言って、

「ただそれだけだよ」

 と付け加えた。

 ただそれだけ、って……。

「だから、むしろ、嫌だったら言って欲しい。
 全部やめろ、って言われたら無理だけど、セフィリオがして欲しくないことは、したくない。
 セフィリオは、俺がすること、何でも受け入れてくれるから……つい、もっともっと、てなってしまう」

 そんなの。こっちの台詞だ。

 アレクこそ、僕のすること、受け入れて過ぎだよ。

「僕は、アレクにしてもらって、嫌なことなんて無いよ」

 といって、ふと、昨日の昼間のことを思い出す。

「でも昨日の、アレはダメ」

 一つ、あった。
 昨日の、昼の。あの、訳の分からない、こわいやつ。

「アレ……………ああ、アレか」

 アレクは少し考えて、表情を緩めて呟いた。
 昨日の光景を思い出しているらしい。

「アレは、ダメ」
「絶対に?」
「うん」
「本当に?」
「………う…ん」

 食い下がられて、本当に嫌なのか、自信が無くなってくる。
 あの時は、絶対に嫌だと思ったけど……。

「夜の方が、よっぽどすごいこと、してないか?」

 重ねて、言われてしまうと。
 確かに、そのような気がしてきて。

「じゃあ、時と場合による、ということで」
「う……うん」
「こわくしないなら、いいんだろ?」

 そう、なのかな?

 自分の判断があっているのか自信は無いものの、アレクが何だかとても嬉しそうにしていたから、僕はいいかな、なんて思ってしまった。



 朝食を食べ終えると、一緒に食器を下げて、片付ける。

 アレクがお茶を淹れてくれて、香ってくる芳香でシュミナの花のお茶だと分かる。
 二人でお茶を飲みながら、僕は口を開いた。

「あのね」
「あのさ」

 と、アレクの声と重なった。

「セフィリオ、先にいいぞ」

 促されて、

「もうすぐ、【スタンピード】が起こるのを、アレクは分かってるんじゃない?
 ここから南にある、先日、魔素計を設置しに行った冒険者ギルドの管轄内で」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

専属【ガイド】になりませんか?!〜異世界で溺愛されました

sora
BL
会社員の佐久間 秋都(さくま あきと)は、気がつくと異世界憑依転生していた。名前はアルフィ。その世界には【エスパー】という能力を持った者たちが魔物と戦い、世界を守っていた。エスパーを癒し助けるのが【ガイド】。アルフィにもガイド能力が…!?

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...