【完結】疎まれ軍師は敵国の紅の獅子に愛されて死す

べあふら

文字の大きさ
2 / 43

フェリ・デール②

しおりを挟む
フェリ・デールは、ムンデ国の南端、グランカリス帝国との国境近くに育った。
 父、母の三人で、人里から離れた山中を転々としながら、ほぼ自給自足の暮らしだった。

 母は、異国の女性で、ムンデ国の民とその容姿はかけ離れていた。
 そして、フェリの醜い容姿は、母とそっくりだった。青白い肌も、白けた藁のような色の髪も、不気味に光る黄色い瞳も。

 肌も髪も瞳も濃い色調のムンデ国では異質だった。

 ムンデ国は独自の伝統を色濃く残す、排他的な風潮の根強い国だ。人目につかない生活を送るのは、母を、そして自分を守る意味もあったのだと思う。

 隠れ住むような生活は豊かとは言えなかったが、フェリにとっては当時が最も幸せな時間だったと言える。

 その貧しいながらも穏やかな日々は、突然に奪われた。

 フェリが8歳の時。
 ムンデ国の使いと名乗る者が家に突然現れた。浅黒い肌と、筋骨隆々とした大きな体。そして、手にする巨大なサーベル。
 その風体は、ムンデ国の戦士。彼らは戦闘と殺戮を何よりも好む好戦的な集団だ。

 フェリはその場で容赦ない暴行を受け、抵抗する間もなく縛り上げられた。人質だった。

 母を無残に殺され、父が拷問を受ける様を見せつけられ、泣き叫ぶフェリに、無情な嘲笑が浴びせられる。

 父と母の最期の抵抗が、フェリに逃げる好機をくれた。

 走って、走って、走った。
 そのまま逃げれるとは思っていない。自分は、体格も小さく、力も弱い。

 フェリは、子供だ。でも、子供だから、できることもある。

 フェリの大きさでやっと通れる、川沿いの断崖を這うように進む。
 ムンデ国の戦士たちは、その怪力で断崖を破壊しながら、フェリに追いつかないように、けれど追い詰める距離を保って、追いかけてくる。

 彼らは逃げ惑う獲物を追い詰め、狩ることを楽しむ、質の悪い狩人だ。

 断崖を抜けると、道が開ける。そこに広がるのはフェリの身のためほどもある草原だ。
 フェリは迷うことなく、そこに飛び込んだ。

 それで隠れたつもりか、と。げらげらと下品な笑い声が、草を薙ぎ払う音と共に、近づいてくる。
 でも、この草原が隠しているのは、フェリではない。

 男の悲鳴が、森の中にこだました。あちらこちらから。

 この草原が隠しているのは、落とし穴と、獣用の罠。そして、この草原自体が、イラという毒草だ。

 獲物ばかりに気をとられ、誘い込まれたことにも気づかない。ここは、フェリの領域だ。

 予想しない反撃に、男たちの怒号が襲い掛かる。

 もっと……もっと、こっちへ来い。

 ボン、と乾いた爆発音とともに、また悲鳴が上がる。

 地中に埋めた爆薬を、戦士が踏んだ。そして、また、爆発音が断続的に響く。

 フェリの体重では、爆破されない仕掛けになっている。
 人を殺す程の威力はない。ただし、戦えない程度の傷を負う。足を吹き飛ばされた男は、苦痛にもがき、のたうち回っている。

 そして、最終的には……フェリは、捕まった。

 わかっている。逃げられるなんて、思っていない。でも、ただで殺されるのが、嫌だった。

 フェリは捕まった後、ひとしきり憂さ晴らしの暴行を受けた。
 そして、朦朧とする意識の中で、母を切り付け、父を嬲った男が言った。

「お前のせいで、8人ほどの戦士が使い物にならなくなった。
 まだ、子供だろうに。中々、面白いことをする。気に入った。ついて来い。
 今日からお前は俺の物だ」

 こうして、両親のかたきが、フェリの主人となった。

 父は、かつてムンデ国の軍師をしていたらしい。突然に、姿をくらましたのだという。

 父は、その際に、国にとって重要な何かを持ちだしたらしい。それを追って、長年捜索を続けていた、とフェリの新しい主は言った。

 これまで逃げおおせたのは、父の才覚によるものだろう。フェリの父は、柔和な笑顔の裏で、いつも何かを考えている、測り知れない人だった。

 結局、『父の持ちだした何か』は何だったのだろうか。フェリにはそれが見つかったのかすら、教えられなかった。



 次期首長を目指す男の欲は、わかりやすかった。
 権力、富、そして、強さ。時に余興としての戦闘があれば、尚よし。

 フェリが、そのいずれかを満たしている内は、殺されない。
 不気味で醜いと罵られる容姿は、外套と布で覆い隠し、極力見せないように努めた。

 父はフェリにあらゆることを教えてくれた。
 読み書きと、計算。そして、地理に歴史。毒薬や爆薬の生成と、使用法。天候の読み方から、戦法まで。

 それを受け継いだことが、フェリの財産だった。それらが、フェリを生かしてくれた。

 残念ながら、ムンド国の戦士が得意とする戦闘の能力は、持ち合わせなかったけれど。

 だからといって、負けるつもりはない。フェリにはフェリの戦い方がある。決して折れない強かさが、フェリの最大の武器だった。



 そんな日々を続け、フェリが17歳になった頃。
 隣国グランカリス帝国内の情勢が慌ただしくなった。グランカリス帝国は、言わずと知れた大陸の覇者だ。
 ムンデ国では、この混乱に乗じ、グランカリス帝国に一矢報いる機運が高まった。

 二国の国境付近の渓谷は、ムンデ国を上流として、唯一グランカリス帝国に対し、脅威となりうる地形となっている。
 国力の差を考慮すれば、無謀としか言えないムンデ国の意思に対し、フェリはその渓谷において、グランカリス軍を迎え撃つ作戦を提案した。

 フェリが行った事といえば、渓谷へとグランカリス軍を誘導し、そこに留め置いたこと。結果、大雨による土石流と共に、多くのグランカリス兵が濁流に飲み込まれた。

 グランカリスの兵を退けた作戦は、フェリの主人のものとされ、その功績もそのまま主のものとなった。

 これは、いつものことであった。

 あの渓谷の一戦から1年程経った頃、主人は、グランカリス帝国を襲撃し、再び戦果を得ようと目論んだ。
 グランカリス兵を幾ばくか後退させたことに、ありもしない幻想を抱いたのだ。

 フェリには勝機など微塵も無いことが、わかっていた。戦いを前に、愚行へと走る主に、戦いは避けるよう進言した。たとえ、腰抜けと、臆病者と罵られようと、弱者の逃走だと、蔑まれようと。

 最終的には、いつものように暴行を受け、反逆者として拘束、牢に繋がれた。そうこうしている間に、ムンデ国は大敗を喫し、ムンデ国は実質、グランカリスの占領下に置かれることとなった。

 多くの戦士が死に、戦場となった国土は荒れた。

 そして、フェリが牢から出た時。

 ムンデ国の敗戦に伴う責は、全てフェリに転嫁されていた。
 フェリが牢の中で、必死に作戦の中止を訴え、鞭で打たれている間に、国に甚大な被害をもたらした大罪人となっていた。

 そして、グランカリス帝国から、フェリ・デールの身柄を、引き渡せと要求があったのだ。

「せめて、最後くらいはムンデの役に立つがいい。貴様の命は、散ってこそ価値がある」

 それが、10年近く仕えた主人にかけられた、最後の言葉だった。

 自国にすら捨てられる、何の価値もない自分を欲する、グランカリス帝国の意図が読めない。

 けれど、明らかなのは、ムンデ国ここにいても、どうせこのまま私刑にされるということだ。

 自由の無い日々であったけれど、死ぬ場所くらいは、選べるらしい。

 そうして、フェリの単身、グランカリス帝国へと移送され、身柄を引き渡された。

 フェリ・デールは、死ぬためにグランカリス帝国にやって来たのだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処理中です...