【完結】疎まれ軍師は敵国の紅の獅子に愛されて死す

べあふら

文字の大きさ
30 / 43

守られる願い①

しおりを挟む
 フェリは、あてがわれたあの部屋には帰されなかった。

「あの……ここは?」
「私の私室だ」

 ジグムントと共に、通された場所は、城と同じ敷地内にあって、別棟に建てられた、独立した屋敷だった。

 ジグムントの私室、らしい。

 まず、これは部屋ではない。家だ、とか。
 何故、自分はジグムントの私室に一緒に来ているのか、とか。

 もう、先ほどからの怒涛の展開に、フェリにはどこをどう疑問に思えばいいのか、もはや分からなかった。

「当初は、ここに初めからフェリを住まわすつもりだったのだが」
「え?」
「ウテに止められてな。
 ここは、独立した建物ゆえ、『孤立させるおつもりですか、監禁でもなさりたいのですか』と強く言われて……まあ、当たらずとも、遠からず。そなたを望むあまり、己の願望が透けたようだ。
 だから、まずは、本館に部屋を用意した」
「そう、……ですか」

 フェリは、もう……とりあえず、全てを受け入れる方向で、構えることにする。

 いつもと同じように、フェリを抱き上げたジグムントは、広々とした寝台の上にフェリを降ろし、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。

「無事に……帰って来ることができ、本当に良かった」

 その言葉を聞いたとき、フェリはジグムントの鼓動が、いつもより早いことに気づいた。
 そして、僅かに震える身体は、彼が心から、安堵していることがわかる。

「ジグ様は……不安、だったのですか?」

 フェリは意外だった。ジグムントのことを、何事にも動じぬ男だと思っていたのだ。
 むしろ、フェリの方が、ジグムントと一緒だったからか、全く不安など感じなかったというのに。

「そなたは……私を、何だと思っておるのだ。
 唯一無二である愛しい者が、害されるかもわからぬのに。平然としておれるわけがあるまい」

 琥珀色の瞳が、何の迷いもなく、当たり前のことのように告げる。僅かに潤んだ瞳は、確かに不安と、安堵の色を湛えていた。

 どきり、とフェリの鼓動が跳ねた。

「ジグ様……その、ありがとうございました」

 フェリは、ずっと言わねばならぬと思っていた言葉を、やっと口にすることができた。

「礼には及ばぬ。私が赴かずとも、フェリならば成し遂げただろうからな」
「いえ……いえ。そんなことはありません」

 フェリは頭を振って、ジグムントの言葉を否定する。

「あの男に、私を殺せぬことは、わかっていました。
 だから、“白き人”の秘密を守るため、私はあの男に、害されるつもりで……一人で行けば、あの男をそう仕向けて、たとえ共に死ぬことになっても、あの男を、母の呪いによって亡き者にするつもりだったのです」

 フェリは、身体的にあの男に勝つ要素が皆無だ。どうにかして、口を塞ごうと思えば、そうする他なかった。

「あれほど、力を使うことを、忌み嫌い、決死の覚悟で逃げた父と母に……結局、私は、人を殺すことに、その血を使わせてしまった。
 それを、わかっていながら……私はその呪いを成そうとしてしまった。
 私は……私だけは、それをしてはいけなかったのにっ!」

 実際、ジグムントがあの男の手首を切り落さねば、フェリに刃が届く直前。その瞬間に、母の呪いが発動し、あの男は死んだだろう。

 母は、きっとそれを望んではいなかった。
 父も、そうならぬように、母を連れ、国を捨て、身を隠していたのだ。

 それなのに、フェリ自身がその想いを踏みにじるところだった。望まぬ願いを、成就させてしまう所だった。

 それを守ってくれたのは、“白き人”に自身が呪われ、母を殺され、その者たちを憎んでも当然の、ジグムントに他ならない。

 母の想いを、父の想いを守ってくれて……かつ、フェリの心を守ってくれたジグムントに、フェリは感謝してもしきれなかった。

「それは、違う。フェリ。
 そなたの父と母は、そなたを守るために、その血を使ったのだ。
 決して、あのような下らぬ男一人を、殺すためではない」

 ジグムントの言葉は、いつもぶれることなく、フェリに沁み込んでくる。それが、真実だと、フェリに確信をくれた。

「そして、その血は、そなたが受け継いでいる」

 自分は……自分に流れるこの血は、人を呪い殺す力だ。

「誇れよ、フェリ」

 この血を、誇っていいのだろうか。
 一滴たりとも、あの両親と混ざることのないかもしれぬ、この血を。人を呪うかもしれぬ、この血を。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。 そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。 恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。 交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。 《ワンコ系王子×幸薄美人》

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...