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守られる願い①
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フェリは、あてがわれたあの部屋には帰されなかった。
「あの……ここは?」
「私の私室だ」
ジグムントと共に、通された場所は、城と同じ敷地内にあって、別棟に建てられた、独立した屋敷だった。
ジグムントの私室、らしい。
まず、これは部屋ではない。家だ、とか。
何故、自分はジグムントの私室に一緒に来ているのか、とか。
もう、先ほどからの怒涛の展開に、フェリにはどこをどう疑問に思えばいいのか、もはや分からなかった。
「当初は、ここに初めからフェリを住まわすつもりだったのだが」
「え?」
「ウテに止められてな。
ここは、独立した建物ゆえ、『孤立させるおつもりですか、監禁でもなさりたいのですか』と強く言われて……まあ、当たらずとも、遠からず。そなたを望むあまり、己の願望が透けたようだ。
だから、まずは、本館に部屋を用意した」
「そう、……ですか」
フェリは、もう……とりあえず、全てを受け入れる方向で、構えることにする。
いつもと同じように、フェリを抱き上げたジグムントは、広々とした寝台の上にフェリを降ろし、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「無事に……帰って来ることができ、本当に良かった」
その言葉を聞いたとき、フェリはジグムントの鼓動が、いつもより早いことに気づいた。
そして、僅かに震える身体は、彼が心から、安堵していることがわかる。
「ジグ様は……不安、だったのですか?」
フェリは意外だった。ジグムントのことを、何事にも動じぬ男だと思っていたのだ。
むしろ、フェリの方が、ジグムントと一緒だったからか、全く不安など感じなかったというのに。
「そなたは……私を、何だと思っておるのだ。
唯一無二である愛しい者が、害されるかもわからぬのに。平然としておれるわけがあるまい」
琥珀色の瞳が、何の迷いもなく、当たり前のことのように告げる。僅かに潤んだ瞳は、確かに不安と、安堵の色を湛えていた。
どきり、とフェリの鼓動が跳ねた。
「ジグ様……その、ありがとうございました」
フェリは、ずっと言わねばならぬと思っていた言葉を、やっと口にすることができた。
「礼には及ばぬ。私が赴かずとも、フェリならば成し遂げただろうからな」
「いえ……いえ。そんなことはありません」
フェリは頭を振って、ジグムントの言葉を否定する。
「あの男に、私を殺せぬことは、わかっていました。
だから、“白き人”の秘密を守るため、私はあの男に、害されるつもりで……一人で行けば、あの男をそう仕向けて、たとえ共に死ぬことになっても、あの男を、母の呪いによって亡き者にするつもりだったのです」
フェリは、身体的にあの男に勝つ要素が皆無だ。どうにかして、口を塞ごうと思えば、そうする他なかった。
「あれほど、力を使うことを、忌み嫌い、決死の覚悟で逃げた父と母に……結局、私は、人を殺すことに、その血を使わせてしまった。
それを、わかっていながら……私はその呪いを成そうとしてしまった。
私は……私だけは、それをしてはいけなかったのにっ!」
実際、ジグムントがあの男の手首を切り落さねば、フェリに刃が届く直前。その瞬間に、母の呪いが発動し、あの男は死んだだろう。
母は、きっとそれを望んではいなかった。
父も、そうならぬように、母を連れ、国を捨て、身を隠していたのだ。
それなのに、フェリ自身がその想いを踏みにじるところだった。望まぬ願いを、成就させてしまう所だった。
それを守ってくれたのは、“白き人”に自身が呪われ、母を殺され、その者たちを憎んでも当然の、ジグムントに他ならない。
母の想いを、父の想いを守ってくれて……かつ、フェリの心を守ってくれたジグムントに、フェリは感謝してもしきれなかった。
「それは、違う。フェリ。
そなたの父と母は、そなたを守るために、その血を使ったのだ。
決して、あのような下らぬ男一人を、殺すためではない」
ジグムントの言葉は、いつもぶれることなく、フェリに沁み込んでくる。それが、真実だと、フェリに確信をくれた。
「そして、その血は、そなたが受け継いでいる」
自分は……自分に流れるこの血は、人を呪い殺す力だ。
「誇れよ、フェリ」
この血を、誇っていいのだろうか。
一滴たりとも、あの両親と混ざることのないかもしれぬ、この血を。人を呪うかもしれぬ、この血を。
「あの……ここは?」
「私の私室だ」
ジグムントと共に、通された場所は、城と同じ敷地内にあって、別棟に建てられた、独立した屋敷だった。
ジグムントの私室、らしい。
まず、これは部屋ではない。家だ、とか。
何故、自分はジグムントの私室に一緒に来ているのか、とか。
もう、先ほどからの怒涛の展開に、フェリにはどこをどう疑問に思えばいいのか、もはや分からなかった。
「当初は、ここに初めからフェリを住まわすつもりだったのだが」
「え?」
「ウテに止められてな。
ここは、独立した建物ゆえ、『孤立させるおつもりですか、監禁でもなさりたいのですか』と強く言われて……まあ、当たらずとも、遠からず。そなたを望むあまり、己の願望が透けたようだ。
だから、まずは、本館に部屋を用意した」
「そう、……ですか」
フェリは、もう……とりあえず、全てを受け入れる方向で、構えることにする。
いつもと同じように、フェリを抱き上げたジグムントは、広々とした寝台の上にフェリを降ろし、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「無事に……帰って来ることができ、本当に良かった」
その言葉を聞いたとき、フェリはジグムントの鼓動が、いつもより早いことに気づいた。
そして、僅かに震える身体は、彼が心から、安堵していることがわかる。
「ジグ様は……不安、だったのですか?」
フェリは意外だった。ジグムントのことを、何事にも動じぬ男だと思っていたのだ。
むしろ、フェリの方が、ジグムントと一緒だったからか、全く不安など感じなかったというのに。
「そなたは……私を、何だと思っておるのだ。
唯一無二である愛しい者が、害されるかもわからぬのに。平然としておれるわけがあるまい」
琥珀色の瞳が、何の迷いもなく、当たり前のことのように告げる。僅かに潤んだ瞳は、確かに不安と、安堵の色を湛えていた。
どきり、とフェリの鼓動が跳ねた。
「ジグ様……その、ありがとうございました」
フェリは、ずっと言わねばならぬと思っていた言葉を、やっと口にすることができた。
「礼には及ばぬ。私が赴かずとも、フェリならば成し遂げただろうからな」
「いえ……いえ。そんなことはありません」
フェリは頭を振って、ジグムントの言葉を否定する。
「あの男に、私を殺せぬことは、わかっていました。
だから、“白き人”の秘密を守るため、私はあの男に、害されるつもりで……一人で行けば、あの男をそう仕向けて、たとえ共に死ぬことになっても、あの男を、母の呪いによって亡き者にするつもりだったのです」
フェリは、身体的にあの男に勝つ要素が皆無だ。どうにかして、口を塞ごうと思えば、そうする他なかった。
「あれほど、力を使うことを、忌み嫌い、決死の覚悟で逃げた父と母に……結局、私は、人を殺すことに、その血を使わせてしまった。
それを、わかっていながら……私はその呪いを成そうとしてしまった。
私は……私だけは、それをしてはいけなかったのにっ!」
実際、ジグムントがあの男の手首を切り落さねば、フェリに刃が届く直前。その瞬間に、母の呪いが発動し、あの男は死んだだろう。
母は、きっとそれを望んではいなかった。
父も、そうならぬように、母を連れ、国を捨て、身を隠していたのだ。
それなのに、フェリ自身がその想いを踏みにじるところだった。望まぬ願いを、成就させてしまう所だった。
それを守ってくれたのは、“白き人”に自身が呪われ、母を殺され、その者たちを憎んでも当然の、ジグムントに他ならない。
母の想いを、父の想いを守ってくれて……かつ、フェリの心を守ってくれたジグムントに、フェリは感謝してもしきれなかった。
「それは、違う。フェリ。
そなたの父と母は、そなたを守るために、その血を使ったのだ。
決して、あのような下らぬ男一人を、殺すためではない」
ジグムントの言葉は、いつもぶれることなく、フェリに沁み込んでくる。それが、真実だと、フェリに確信をくれた。
「そして、その血は、そなたが受け継いでいる」
自分は……自分に流れるこの血は、人を呪い殺す力だ。
「誇れよ、フェリ」
この血を、誇っていいのだろうか。
一滴たりとも、あの両親と混ざることのないかもしれぬ、この血を。人を呪うかもしれぬ、この血を。
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