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Ⅰ.主食編
24.俺は、その日迷い竜を拾った①
しおりを挟む気づいたときには、道端が俺の住処だった。
名はヴァレリウス。両親は知らない。孤児だから姓はない。
生き残るためなら、何だってした。
奪わなければ、奪われる。食べ物だって、寝床だって、身体だって、命だって。
そうやって、何人も死んでいった。今日は、明日は自分かもしれない。
あの路上で、人知れず野垂れ死んでしまえば良かったのに。そう、その後何度も思うことになると、あの頃の俺は知らなかった。
ただ、生きることに必死だった。
10歳の頃。
そもそも、誕生日がわからない俺は、正確な年齢がわからないけど。
空腹に耐えかねて、つまらない盗みをした。それがきっかけで、数人のつるんでいた連中と一緒に自警団に捕らえられ、詰め所で処遇を待っていた。
そして、そこの現れた馬鹿みたいに人の良い爺さんに、孤児院に保護された。
爺さんは元は裕福だったようだが、今や孤児院の運営でその財を失ってしまったという人物だった。貴族位すら売ったと言うのだから、筋金入りだ。
次から次へと詐欺のカモになる。あの騙されやすさは、もはや天賦の才能だろう。
こんなしょうもない俺にも読み書きを教えてくれて、路上よりも遥かにマシな、衣食住を与えてくれた。単純に、感謝している。
ある日、神殿の奴らが孤児たちの竜気の属性を調べに来た。神殿は竜気を扱える子供を漁っていた。
そして、俺が竜気のどの属性に対しても全く適性が無いことがわかった。確か、12歳かそこらだったと思う。
無属性なんて記録にない稀有なことだったらしく、その場が騒然としたことを今も良く覚えている。
「竜に見放された子」だなんて、おかしな二つ名を勝手につけられた。
偉そうな神官どもの言動にムカついたのが、一番印象に残ってる。孤児というだけで見下されていた視線に、一層蔑みが加わった。
俺自身は、昨日までの俺と何も変わっていないっていうのに。
何かしらの属性があれば、その属性と反発し他の属性は使えないらしい。けれど、初めからすべての属性に親和性が無ければどうなるのか。
様々な検証の結果、俺は無理矢理に全ての属性を扱うことができた。
俺はそのまま、神官になった。これは命令であって、俺に選択肢なんてない。神殿が、神官が、舌なめずりするのが見えた。
神官は神殿という組織の中でも、竜気術を使える者のみが許される名称だ。地位と、それなりの身分と、給金が保証される。
悪いことばかりじゃない。そう、自分に言い聞かせた。
200年前の予言。
『200年後、黒き竜が迷いこの世の危機が訪れる。異界の者が現れて、澱み溢れ混沌に落ちる世を、竜と共に救済する』
予言は、神殿の……神官どもの最強の免罪符だ。
竜や竜石にまつわる利権を独占し、私利私欲に走る己の蛮行を正当化するための万能の盾であり、他者を虐げ、個人の尊厳を傷つける最強の剣でもある。
何でもない俺なんて、逆らう手立てもない。
俺の役目は、主に竜気によって狂暴化した動物の討伐や、竜石の採掘だった。
俺は、色々と都合が良かった。構成として足りない部分を、都合よく補うことができる。雑用も押し付けられて、休む間もなく、俺は討伐に、採掘に向かい、励んだ。
毎日毎日、どいつもこいつも、竜、竜、竜……うんざりする。
竜も竜気も、その存在を意味するっていう竜石も……崇め奉られたそれらが、それに関わる全部が、俺を蝕んでいくのに。
それなのに、竜の何を有難がれと言うのか。
竜気は、竜の力だ。その全ての属性を使うなんてことが、人の心身にとって平気なわけが無い。
さらに言えば、俺は竜気術を使う際に発生するという“澱み”を蓄積する体質のようだった。
そして、己の発生させた“澱み”だけならいざ知らず、一定範囲にある“澱み”も一緒に引き受けてしまう。
これは誰にも話したことのない事実だった。話せばきっと、もっとひどい扱いを受けるに決まっている。
だから、俺はその事実をただひたすらに隠した。
竜石を使う度に、身体が悲鳴をあげる。“澱み”が溜まり、頭痛に吐き気がして、全身が軋み、内臓が捻れるような苦痛が襲った。
俺は鎮痛剤の煙草とすぐに仲良くなって、その後もずっと一番の相棒だった。
こんな力、使わなくとも、俺は生きていけるのに。
この力を使うが故に、俺は心身ともに蝕まれていく。
疎ましくて仕方がなかった。
そんな日々が積み重なって、10年がじりじりと過ぎた。
忘れもしない、今から1年半前。
いつもと同じように、鎮痛剤の煙草を吸って、重い頭と、軋む身体を抱え、強制参加の朝の礼拝をこなしていた時だった。
神殿の祭壇。赤銅竜、青銀竜、黄金竜の像が祀られたその中央に、突如として、眩い光と共に一人の奇妙な服装をした少年が現れた。
その瞬間、そこにいるすべての者が、あの予言を想起した。
『200年後、黒き竜が迷いこの世の危機が訪れる。異界の者が現れて、澱み溢れ混沌に落ちる世を、竜と共に救済する』
知らぬ者はいない。信じているかは別として。
そんな予言が、まさに、実現した瞬間だった。
少年は、ユーリ・カンバヤシと名乗った。
18歳だという。伝承通りの黒髪に黒い瞳の容姿で、年齢よりも幼く見えた。
そして、彼はこの世の定理に当てはまらない、竜気の全ての属性に適性を持っていた。
「俺なんかでお役に立てるのならば嬉しいです。頑張ります」
突然の事態に戸惑いながらもそう気丈に言う彼は、人を引き寄せ魅了する何かを持っていた。
彼は「竜に愛された子」と呼ばれ、竜がこの世にもたらした救世主、竜の神子と尊ばれた。
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