【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

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Ⅱ.体に優しいお野菜編

18.俺は、白い竜を餌付けしている③

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『あとねぇ……じゃーんっ!』
「なんだ?」
『ほらほらぁ、ここんとこだよー』

 はぁ、またこいつは何を……頭つき出して、触れってことか?
 
 促されるままに、頭に触れて耳の方へと撫でれば、そこにあったはずの硬い突起物がないことに気づく。

「ああ……なるほど」
『じゃじゃーん!角も隠してみましたー!』
「おー……これなら、まるっきり犬だ」
『でしょ?でしょ?まるっきり犬でしょ!えへへ』

 まるっきり犬に擬態する竜。いいのか。もういいけど。

『えへへ。すごい?すごい?』

 キラキラと期待の眼差しが、俺を見上げる。

 普段は、人の言動なんて見向きもしないくせに。
 俺には、自分のやったことの評価をいちいち聞いてくるのな。

「すごいな。ルゥ」
『わーい。ヴァルに褒められちゃった!』

 俺のためか、俺の作る飯のためか知らないが……ルルドは俺の何かしらを、行動の動機にする。
 で、俺は、そんなルルドの行動をいちいち可愛い奴だな、なんて思っちまってる。

「お前、誰にでも犬みたいに腹見せてんじゃねぇだろうな?」

 自分で言って、ふと人型で同じ体勢を想像して……その壮絶な危うい姿に、俺はぐっと喉が詰まった。

『ええーっ!そんなことしないよ!ヴァルってば、僕のことなんだと思ってんの!?』
「え、………駄犬……いや、駄竜?」
『駄竜はともかく、誰にでもお腹見せるなんて!心外なんだけど!僕、そんな尻軽じゃないからっ!』
「尻軽って……お前なぁ、」

 俺が、もう一言も二言も突っ込もうとしたとき、

「はぁ……もう、ヴァル兄、足が早過ぎるよ」

 ケビンの声で遮られた。

「一人で突撃したら危ないよ。まったく、何のために二人で見回ってると思ってんの」

 やっと追いついてきて、弾んだ息を整えながら、俺に近づいてきて、

「え………?こいつって……」

 ルルドの存在に気づき、ぴたり、とその足を止めた。
 ケビンの表情はこわばり、全身に緊張感を纏わせていた。明らかに警戒を強めている。

「え?……ええ?……いや、でも、こんなに人に寄って来るなんて……いや、この毛並み……うん、やっぱりこいつだよな?」

 どうやらケビンもルルドのことを知っているらしい。

「ヴァル兄、そいつに触れるのか?」
「は?まぁ……」

 ルルドの真っ白な毛はふわふわのもこもこだ。

 特に首周りのふさふさに指を差し入れたときの滑らかな感触はマジで最高だ。
 垂れた耳のつるつるしたとこも、ベルベットみたいな手触りで捨てがたい。
 ふさふさのしっぽだって………いや、んなとこはいい。

「え、マジで?」
「だって、こいつは元々、俺が拾って孤児院に預けた奴だぞ」
「は?………え?はぁ……やっぱり、ヴァル兄ってただものじゃないんだね……」
「いや、だから。何の話だ、一体」

 犬を拾っただけで仰々しい。
 …………まあ、実は竜なんだが。

「こいつ、この辺りじゃ有名な犬で……犬のくせに、妙な雰囲気で……人を寄せ付けない、まるで野生の獣みたいだって。
 だけどやたら綺麗で……とにかく変な犬だって有名なんだよ。
 何人か手懐けたり、触ろうとしたけど、誰も成功したことないんだ」
「へぇ……」

 俺の知らぬ間に、この駄竜はとんだ有名になっていたらしい。変な犬として。

「ルゥ、どうなんだ?そうなのか?」

 だれかれ構わず腹を見せてるわけじゃないどころか、誰も触れさせもしないとは。

『ええ?うーん……どうだったかな?
 なんかくれたり、捕まえようとする人がいたような気もするけど……あれって、ここでのことだっけ?
 えへへ。僕、わかんない』

 まあ、お前はそう言うと思ったよ。

 個人の性格なのか、竜の性質なのか、もしくはその両方か、自己の認識も他者の認知も意識が薄いんだよな。

 認知もしてない存在からの視線なんて関心があるはずがない。
 俺らがその辺の石ころに足が当たったとか、ましてやどう見られてるかなんて、いちいち馬鹿なことは考えないのと同じだろうが。

 ……俺だって、美味しそうなイイ匂いがしなければ、怪しいもんだ。

 俺と俺に関わる人くらいは何かしら認識してるようだけどよ。
 それでも例えば、孤児院の院長はあくまで“孤児院の院長”だし、子供たちは“子供たち”だ。

『僕、べたべた触られるの、好きじゃないんだよね』
「は?」

 今まさに、俺はお前を撫でまわしてんだけど。

『あー……ヴァル、そこそこぉ、いい感じ。久々のこの感触……ああ、いい!最高!もっと!もっと、なでなでして!』
「お前、ホント馬鹿だろ」

 速攻で前言撤回する竜に俺は思わず突っ込む。どうやら、こいつは一貫性って言葉を知らないらしい。

 さらに、「ホント、ヴァルはツボが良く分かってんねぇ」とか言ってる。

 まぁ……その言動にいちいち喜んでる俺も大概馬鹿だけど。

 つまり、この極上の毛並みをこうして堪能してる俺は、例外ってことだ。

 あー……なんだろうな、このくすぐったい気持ちは。

 ルルドはそんな俺の気も知らないで、まるで催促するように俺の手をべろべろと舐めまくってくる。

『ヴァルだって、親しくもない人にべたべた触られたら、普通に嫌じゃない?』
「まぁ……そうだな」

 少なくとも俺だったら……相手を殴り倒すかな。

『そうだよー。ましてや知らない人なんてさ。犬相手でもいきなり触るなんて、ちょっと失礼だと思うんだよね』
「犬相手……」
『好きな人だから、触られたいって思うんじゃん!』
「…………そうかよ」

 さも当然のことだと言わんばかりに主張してるが、自分が何言ってるかわかってんのかよ。

 わかってないだろうな。

 こいつ……本当にバカ可愛いな。
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