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Ⅲ.大好きな卵編
14.異界の者③
しおりを挟むヴァレリウスは、竜気術を使うたびに心身を蝕まれながらも、必死に献身していた。しかし、竜の神子に立場を奪われ、居場所を失い、すべてに絶望するのだ。
そして、ある日ふと姿をくらます。
ヴァレリウスは己に蓄積した黒い竜気の流れにいざなわれるままに、降誕の地へ向かう。
降誕の地は、すべての竜が生まれる地であり、竜気へと還る場所と言われている。
そこで生まれる直前の黒き竜と出会い、己の作った呪装具『隷属の首輪』で黒き竜を縛り、黒い竜気をわが物とする。
各地で起こる竜気による生物の凶暴化へ対応し、討伐を繰り返す竜の神子たちは、討伐の過程で、黒い竜気の存在、ヴァレリウスの関与を知り、そしてかつては共に旅をした仲間は、対立を余儀なくされる。
黒い神官と黒き竜。圧倒的な力を前に、竜の神子と3人の神官は、敗北の憂き目にあうものの、青銀竜の長が竜の神子一行の前に現れて、加護を与えるところから、反転攻勢に出る。
「どうか、黒き竜を救ってほしい」
さらに、黄金竜、赤銅竜の長にも同様に加護をもらい、竜の神子と竜騎士となった3人の神官は、降誕の地にて黒い神官と黒き竜と最終決戦を迎える。
竜の神子と3人の竜騎士は、黒き竜と黒い神官を討ち倒し、黒い神官の呪縛から黒き竜を救う。そして、凱旋。
英雄になったところで、物語は終わる。
つまりここは、俺が主人公として英雄になる世界だ。
この世界、小説『救済の予言、竜と共にある者』の世界には明確な身分制度があり、病気や獣の害、飢餓などで現代よりもずっと死が近い。だからか、皆の欲求は単純明快でずっとわかりやすかった。
世界が変わっても、人の欲求って全然変わらないんだな。
むしろ、生きていくのが当たり前で、その上で何かと複雑な葛藤を抱える現代よりも、人々の抱えているものがわかりやすい。笑っちゃうくらいに。
そうでなくても、人間関係を含めて状況把握はもともと得意だし。さらに俺には小説の情報もあるんだから。
こんなの、楽勝だよ。
この場において、誰が発言権を持ち、決定権を握っているのか。人がいれば、必ず序列があって、ピラミッドのような構図がある。
己の立場を確保するために、味方につけるべきは誰か。簡単に見極めることができた。
まずは大神官。
デブでハゲで、ねっとりと笑う、キモイ奴だけど、神殿の最高権力者。それだけで取り入る価値がある。
金と権威と性欲に満ちた、わかりやすい欲の塊だ。こういうヤツもどこにでもいるんだな。
色欲の滲む視線をのらりくらりと上手くかわし、小説の内容から金になる情報を与えた。
勿体ぶって焦らしてやれば、神殿の最高権力者が俺に傅くのは時間の問題だった。
ここではより幼く見えるらしい整った容姿も、尚大神官の欲を刺激するらしく、とても役に立った。
まあ、あんな奴に、どうこうされるなんて、気持ち悪くて有り得ないけど。
だから、次は盾として、そして小説の内容を進めるには欠かせない竜騎士になる3人を味方につけた。
青銀竜の属性を持つデュランは、貴族が多い神官の中で元孤児であることに強いコンプレックスを持っている。
ヴァレリウスと古くからの知り合いで、彼と比較されるのが大嫌いだ。
だから、程よく持ち上げて、時折ヴァレリウスのことを匂わせ、揺さぶり、さらに持ち上げる。
黄金竜の属性を持つカインは家柄も良く、真面目で品行方正であるがゆえに融通が利かない。
規範にそぐわない行いに厳しく、神官として粗野な行動が目立つヴァレリウスを快く思っていない。
だから、健気に努める様を見せるだけで十分だった。突然、異界へとやってきた僕は、それだけでカインにとっては庇護すべき存在だったから。
時々郷愁に心を乱し、哀愁を浮かべれば、一層僕を気にかけるようになった。
赤銅竜の属性を持つメイナードは、裕福な神官の家系の次男で、プライドが高く、傲慢な、まさに貴族的な人種だ。
神官、貴族の務めを果たすべきと考える一方で、身分の低いものを蔑んでいて、できれば直接は関わりたくないと思っている。
だから、あえて「竜に愛された子」として振舞った。そして、時折一般人らしく砕けた調子で距離を詰める。 だけど、あくまで上品に、慎ましく。そして、清廉でいて、けれど少し傲慢に。
こんなのが気高い振る舞いなんて、本当に貴族ってバカみたいだな。
この世界の美醜が、元の世界とあまり変わらないことも、俺には都合がよかった。
中性的で整った面立ちの俺は、性別を問わず、友愛、恋愛、上下関係でも慕われることが多かったから。
どうやら、同性での恋愛に関しては、異性と変わらない程度に普通のことらしい。
それなら、余計に話は簡単だ。別に俺は同性愛者ってわけじゃないけど、盲目的に信じてもらうには一番楽だ。
とても簡単に彼らは俺を好きになった。
はじめから心身ともに憔悴していたヴァレリウスは、ちょっと突き飛ばせば、あっという間に堕ちてしまいそうだった。
すぐに堕ちてはつまらない。堕ちるか、堕ちないか、ぎりぎりのところで揺さぶって、最後はしっかり堕ちてもらう。
俺は小説の内容の通り、竜石を見つけ、怪物を討伐した。
といっても、血なまぐさいのは好きじゃないし、野宿なんてしたくない。そもそも、日常生活だってこの世界の生活水準は、現代人の俺にはつらいのに。
予言のように、場所と時期を説明すれば、現地に行かなくても全部俺の功績になった。
2カ月も経つと、神官はみんな俺を竜の神子とよんで、恭しく礼をとり、尽くしてくれるようになった。
少しにっこり微笑んでやれば、相手は天にも昇るようなリアクションをする。
あぁ……本当に、この世界は最高だな。
本当に流依に感謝しないと。
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