【本編完結】迷子の腹ぺこ竜はお腹がいっぱいなら今日も幸せ〈第10回BL小説大賞エントリー〉

べあふら

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Ⅲ.大好きな卵編

15.異界の者④

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 はじめの違和感は、ヴァレリウスの様子だった。 
  
 いつからか俺を見る目が、常に疑惑の眼差しになって、何を言っても揺さぶれなくなった。

 なんだ、あの妙な安定感は……。

 ヴァレリウスのようなタイプは、意外と面倒見がよくて必要とされることに弱い。頼って、暗にこき下ろして、慰める。そうすれば、濁った眼差しで、自嘲するように笑うのが常だったのに。

 何があったんだよ。やりにくくて仕方ない。 
 ヴァレリウスに“お仲間”だと思われているうちはいいが、一度疑り深く探られるようになれば猜疑心が強く、もう気を許してはくれないだろうな。面倒だな。 
  
 まぁ、もう他の人たち俺の味方だから、あいつ一人が何を言ってもどうにもならないし。
 結局は、悪役で堕ちるんだろうから興味ない。 

 そう思ってたのに。

 徐々に小説の出来事と、実際の出来事がズレてきた。
 具体的に言えば、いつまでたっても孤児院での孤児の大量失踪事件が起こらなかった。 
  
 この事件は、小説において孤児たちの大量失踪と院長の死を引き起こし、ヴァレリウスが姿を消す重要な転機となる出来事だ。
 
 ヴァレリウスが心身ともに疲弊しながらも、なんとか己をギリギリ持ちこたえている時期。
 あちこちで起こる事件を解決すべく4人が旅に出て4ヶ月ほどで、とどめとばかりに起こる事件のはずだ。

 それなのに、俺たちの旅が始まって半年が過ぎて1年たっても、まったく起こる気配も無い。 
  
 以前から繰り返し起こっていた人が忽然と消える“竜隠し”。 
 実は各地での人身売買と関連しているのでは、と疑う声が出たことから、大神官をはじめとし関与していた神殿の関係者が、そのすべての罪を孤児院の院長、そして孤児院の出身者であり扱いづらくなってきていたヴァレリウスに着せる謀略を立てる。 
  
 謀略の末、ほとんどの孤児と院長は行方知れずとなり、「これまでの“竜隠し”および、今回の孤児の失踪はすべてヴァレリウスの謀ったことであり、人身売買にて益を得ている」と遺書が残された。 
  
 この日を境に、ヴァレリウスは神殿と、そして神殿が崇める竜への憎悪と、孤児院を含めた周囲と決別し、絶望のままに捕縛の手をかいくぐり、行方をくらますはずだった。 
 ヴァレリウスに手を貸した友人も、大神官の放った追っ手に殺される。これもヴァレリウスが逃亡の際に殺したことにされてたっけ。

 この事件は、話が進んでいくと、主人公たちの調査で実はヴァレリウスの仕業じゃないことが明るみにされる。そして、本当の主犯である大神官が断罪されるんだ。
 まぁ、その時にはもう世界は黒い竜気により恐慌に陥ってて、黒い神官と主人公たちの対立は避けられない状況になっていたけど。
  
 なんなんだよ。なんで事件が起こらないんだ? 

 おかしい。
 これまでは、全部、小説の通りだったのに。 

 大神官に情報を探れば、“竜隠し”は1年ほど前から謎の妨害にあうことが増え、人身売買の発覚を恐れ取引を控えているらしい。 

 ヴァレリウスはヴァレリウスで、見る見るうちにまるで息を吹き返したように、瞳に力が戻り、さらに、俺に反論までしてくるようになった。

 はぁ……なんだこれ。
 あの事件が起こらないと、ヴァレリウスはいつまで経っても出奔しないし、澱みに落ちることもないってことかよ……。

 ヴァレリウスが黒い神官にならないなら、この世の危機はどうなるんだよ。

 俺が「竜騎士になる旅に出よう」と言ってから、もう1年以上経つっていうのに。

 小説での異界の青年は、主人公にありがちな健気な理由で……少しでもこの世の役に立とうなんて、異世界での自分の居場所を求めて旅に出る。

 そこを俺はあえて予言を引き合いに出し「竜騎士になる旅に出よう」と言った。

 だって、どうせ小説の通りになるんだから。
 この発言の通りに竜の長に会い、竜騎士になれれば、さらに周囲は俺の言うことを信じるだろう?
 でもって、予言のもたらした救世主、竜の神子と一層崇拝するようになる。

 あの時はそう思ってた。
 なのに、現状は竜の長も誰も現れなければ、竜騎士にもなれてない。

 俺が言ったことが、嘘みたいじゃないか!
 ふざけんなよ。ここは『救済の予言、竜と共にある者』の世界じゃないのかよ。

 そもそも、竜なんて本当にいるのか?だって、実際には伝承だか伝説だかで、誰も見たことがないんだろう?

 ここはもしかしたら、俺の知ってる小説の世界とは違うのかもしれない。

 俺に初めて焦りが生まれた瞬間だった。

 いや待てよ。ヴァレリウスが堕ちないなら、堕とせばいい。この世の危機が訪れないなら、危機を作り出せばいいじゃないか。

 ちゃんとした小説の流れになるように、俺自身で手直しをすることにした。 
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