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Ⅳ.お腹いっぱいで幸せ編
30.僕、お腹いっぱいで今日も幸せです①
しおりを挟む「ほつれて金具が取れかかってただろ」
「へ……?………あー。あれね……」
ヴァルが言ってるのは、ヴァルがくれた僕の鞄の一番よく開閉する外側についたポケットの金具のことだ。
大切に使ってたんだけど、なにかに引っかけたみたいで、プラプラしてた。
「あれ、お前が風呂に入ってる間に、修理しといたぞ」
はあぁぁぁ~………なんだ。そんなことか。
びっくりしたぁ。
「ありがとー、ヴァル。大事にするね」
「ああ。またどこか痛んだら言えよ。いつでも直してやる」
「うん!」
ああ、良かった。
「で、修理するときに邪魔だったから、鞄の中身をひっくり返したんだが――」
「ええーっ!!」
ちょ……それっ……それって!!
「うっせーぞ。座れ」
やっぱり、アウトだ。これ、完全にアウトじゃんっ!
絶対に見つかってんじゃん!!
「プ……プライバシー……っ!」
「ぷらい……?ちょっと落ち着け」
「だって……だって……」
落ち着けるわけないでしょっ!
だって……ヴァルに、見られたんだよ。
ヴァルが捨てたお洋服を僕が盗って大事に持ってたの、知られちゃったんだよ!?
「あれは……やっぱり、やましいもんなんだな……?」
「う……だって……でも……」
やましさの塊ですけど何か!?
ていうか、逆に聞きたいんだけど、あのお宝にやましくない使い道なんてあるの?
無いでしょ。
「正直に言え」
「あ……その……あれは……」
言い淀む僕に、ヴァルは厳しい眼差しで睨みつけた。
「これは、一体何なんだ……?」
「…………へ?」
ゴン、と硬い音を立てて、テーブルの上に置かれたそれは、僕が恐れていたものと違う、漆黒の硬質な球体だった。
「あ……これ…」
「俺はな、気になってたんだよ」
ヴァルの手によってテーブルの上に固定されたそれは、人の頭ほどの大きさで、一見するとただの丸い石のようなのだけど。
深い黒でありながらプリズムのような光を内包し、光が当たらずとも自ずと不思議な輝きを放っていた。
「お前が動くたびに、肩から掛けたぱんぱんの鞄をあちこちぶつけて、ガツン、ガツン音がしてただろーが」
「ああ……」
はぁ……なんだ。ああ、良かった。僕の秘蔵のお宝の方じゃなかった。
もう。驚かさないでよ。
「ただならぬ竜気が漂ってんだよ、これから」
うん。そうだろうね。
「これはね。ヴァルが僕にくれた竜石と同じやつだよ」
「同じ……だと?でも……」
「もちろん純度……というか、密度は違うよ」
竜である僕が本気出して、思いっ切りぎゅぎゅっと固めたからね。
ヴァルがくれたものより、ずっとずっと凝縮されてる。
「ほら。ヴァルが降誕の地で、“澱み”に堕ちそうになったでしょ。
あの時にヴァルの中にたっぷり溜った僕の竜気を、ヴァルの真似っこして、ぎゅぎゅーーー……っと凝縮して、結晶にしたんだ」
あの時ヴァルが自身の身体に蓄えた“澱み”は、この世を一気に崩壊へと導きかねない膨大な量だった。
そして僕は、そのすべてをヴァルから一度に吸い取って取り除いたのだけど。
既に成熟して、黒き竜として自分の竜気を完全に操ることができた僕は、ヴァルの中の黒い竜気を一気に取り込まずに、ほとんどすべてを凝縮して、黒い竜気の結晶として持っておくことにした。
だって、僕はいずれヴァルから離れるつもりだったから。
全部一度に食べちゃったら、あとのお楽しみが無くなっちゃう。
だから、ヴァルから放たれる甘い蜜のような竜気をいつまでも取っておきたかった。
いつまでも、ヴァルを近くに感じれるように。
だから僕にとっては、これも大切な宝物には違いない。
「つまりこれは、僕とヴァルの愛の結晶ってことだよー」
「まぁ……そう言えなくも無いな」
「えへへ。でしょ?でしょ?
つるつるの、ピカピカでキレイだよね。それにほら、とっても美味しそう!」
「ああ、確かに綺麗……って、いや……そうじゃなくて。
なぁ、ルルド」
「なに?どうしたの?そんな怖い顔で」
「顔はほっとけ」
「えー。僕、ヴァルの顔大好きなのにー」
「……そうかよ」
「うん。好き。しゅっとした凛々しい眉毛も、通った鼻筋も、全体的に尖った感じの造形が大好きなの!」
「…………もう、黙れ。頼むから」
「そう!それそれ!その尖ったナイフみたいな睨んだ時の目が、一番好き!!」
「…………」
「照れたヴァルも、すっごく可愛い♡」
怒られた。危うく今後おかわり禁止にされるところだった。
「……ったく。あー……何の話だったか……」
「この竜気の結晶のことでしょ」
「ああ……そうだった。これだけどよ」
「うん」
「その………卵、じゃねぇのか?」
「………へ?」
卵?
「見るからに……どうみても、卵だろ」
「ん?」
「だからっ!竜の卵だろ。これ!」
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