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82.裸の付き合い
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「服を脱ぐのは恥ずかしがっておいて……一緒にお風呂は、平気なの?」
「いや、平気じゃないけど」
共同浴場と思えば、それほどでもない。
自分では足腰が立たなくなったおれは、「このまま、二人でベッドで微睡んでもいいんじゃない」というテオドールにお願いして、お風呂に入っている。
あんな、どろどろの、ぐちゃぐちゃで寝れる気がしない。
激しいスポーツでもした後のように、むしろそれ以上に身体は疲れているはずなのに、妙な高揚感からか、心が満ち足りているからか、まったく眠気がやってこない。
……もしかして、テオの精霊力か愛の精霊力と関係があるのか?
テオドールを座椅子のように、支えにして、ゆったりとお湯に浸かる。
はあ……癒される。
なに、この安らぎと、心地よさ。安定感が半端ないんだけど。
おれを見て、ふふ、と微笑むテオドールの髪から垂れた水滴が、ぽたり、とおれの頬に落ちた。
あわわわわぁぁぁぁっ。何だ、これ。
藍色の髪が、しっとりと艶やかに濡れて、そこからぽたぽたとした落ちる雫は、まるで水晶のようだ。
長いまつ毛と、さらに銀色の瞳に、肌にしたたる水滴が、テオドールの煌めきをいっそうきらきらと輝かせている。
すっと長い首と、意外と逞しい上半身も濡れて湯気が香る姿は、色気とか、そういうのが駄々洩れで、なんというか……ズルい。すごい。たまらない。
普段は長めの前髪で隠れているおでこが全開になっているのも、貴重でポイントが高い。あそこに、思いっきりキスしたい。
「テオは……髪、伸ばさないの?」
テオドールは、長く伸ばしていた髪を、10年前のメーティスト神殿でばっさりと切った。精霊力を行使する、媒介にしたのだろう。
それ以来、ずっと短いままだ。
「10年前、昏睡状態から目を覚ましたシリル兄さんが、僕を見るなり頭を撫でてくれて。短いのも似合うな、て言ってくれたから」
「ああ……言ったな」
あの時、おれは2週間ほど意識を取り戻さなかった。朦朧とする意識が浮上して、ふと目に入ったものが、まずテオドールの後頭部だった。
つきっきりで看病してくれていらしいテオドールは、ベッドに伏すように眠っていて。思わず、可愛い頭だな、と思ってほぼ無意識に撫でた。
驚いて、跳ね起きたテオドールに、おれはさっきの台詞を言ったのだ。
今も昔も、おれは、この後頭部の丸みが、すごく好きだ。
形を確かめるように撫でれば、テオドールはうっとりと目を細めた。
「それに、これは……一種の、戒めのようなものだったから」
「戒め?」
「そう。髪なんて、媒介にしなくても、確実に自身の精霊力を操作して、精霊術も……その範疇におさまらない術も、使いこなす、ていう戒め」
「え……」
そんな、異次元の願掛けみないな意味が込められていたなんて。初めて知った。
「おれ……似合ってるな、くらいしか思ってなかったよ」
テオのそんな決意も知らず、おれはなんて能天気なことを……。
「僕は、あの言葉……すごく嬉しかったよ。
どんな僕でもいい、て言われたみたいで。特殊な力があっても無くても、使えても使えなくても。
どんな姿でもいいって、そう言われた気がしたから」
考え込むおれに、テオドールは笑いながら、そう言った。
「でも……そうだな。シリル兄さんが、長い方が好きなら、また伸ばそうかな。
もう、メーティスト神殿も、オルトロスも、取るに足らないと実証できたことだし」
伝説の古代神殿も、その祀られた神も、その眷属すらも、取るに足らないと言う、テオドールは頼もし過ぎる。
「別に、おれは……」
テオの髪が長くても、短くても、どっちも好きだけど。
そう言おうとして、『ラブプラ』のテオドールは長髪だったことを思い出す。長い藍髪を後ろに低く結わえていて、それは精霊術士としても、身分から言っても当然のことだったのだけど。
その色がまた不吉の象徴として、忌諱されていたんだよな。
たかが、髪の長さだけど。
「………やっぱり、短い方がいい」
不必要なものに縛られない、今のテオの方が、良い気がした。
それに、何より。こっちの方が、なんというか。おれのテオ、って感じがするから。
「そう?じゃあ、このままにするよ」
嬉しそうにそう言うテオドールは、いつものおれのテオだった。
「あの……さ」
「なに?」
「一つ、お願いがあるんだけど」
「何でも、言って」
「その……ああいうこと、するときはさ」
「ああいうこと?」
「そう。えーっと……いちゃいちゃするとき、なんだけど」
「いちゃいちゃ」
テオが、いちゃいちゃとか言うと、なんかダメ。ギャップが、可愛いから、なんか、ダメ。
………て、そうじゃなくて。
「その……兄さん、て呼ばないで欲しいんだ」
おれは、いつでもテオの兄さんのつもりだけど。
でも、どうにもああして触れ合っているときに、兄さんと呼ばれることに、違和感が拭えなくって。名前は呼ばれたいけど……呼ばれるたびに気になってしまう。
「わかった。いいよ」
あっさりと、同意され、ほっとしたのも束の間、「でも」と付け加えられ、どきりとした。
「さっき、そんなこと、考える余裕があったんだね。まだまだ、全然、大丈夫ってことかな」
「え?いや……そんなこと、ないっ!おれは、いっぱいいっぱいで…っ!!」
慌ててテオドールから身を引けば、ばしゃばしゃと水飛沫をあがる。けれど、あっさりと手を掴まれて、腕の中に閉じ込められた。
視界を埋め尽くす、胸筋が眩しい。
「冗談だよ。
これから、いっぱいしようね、気持ちいいこと。どんどん、僕の精霊力で染めてあげる」
急に密着した熱い身体に、ばくばくと心臓が早くなる中、
「う……うん」
とテオドールの腕の中で、縮こまって、頷いた。
「これは、赤くなるんだ」
一緒にお風呂、と、裸で抱き合う、は同じでは無い。
テオってば、おれの反応をみて、面白がってるな。
「いや、平気じゃないけど」
共同浴場と思えば、それほどでもない。
自分では足腰が立たなくなったおれは、「このまま、二人でベッドで微睡んでもいいんじゃない」というテオドールにお願いして、お風呂に入っている。
あんな、どろどろの、ぐちゃぐちゃで寝れる気がしない。
激しいスポーツでもした後のように、むしろそれ以上に身体は疲れているはずなのに、妙な高揚感からか、心が満ち足りているからか、まったく眠気がやってこない。
……もしかして、テオの精霊力か愛の精霊力と関係があるのか?
テオドールを座椅子のように、支えにして、ゆったりとお湯に浸かる。
はあ……癒される。
なに、この安らぎと、心地よさ。安定感が半端ないんだけど。
おれを見て、ふふ、と微笑むテオドールの髪から垂れた水滴が、ぽたり、とおれの頬に落ちた。
あわわわわぁぁぁぁっ。何だ、これ。
藍色の髪が、しっとりと艶やかに濡れて、そこからぽたぽたとした落ちる雫は、まるで水晶のようだ。
長いまつ毛と、さらに銀色の瞳に、肌にしたたる水滴が、テオドールの煌めきをいっそうきらきらと輝かせている。
すっと長い首と、意外と逞しい上半身も濡れて湯気が香る姿は、色気とか、そういうのが駄々洩れで、なんというか……ズルい。すごい。たまらない。
普段は長めの前髪で隠れているおでこが全開になっているのも、貴重でポイントが高い。あそこに、思いっきりキスしたい。
「テオは……髪、伸ばさないの?」
テオドールは、長く伸ばしていた髪を、10年前のメーティスト神殿でばっさりと切った。精霊力を行使する、媒介にしたのだろう。
それ以来、ずっと短いままだ。
「10年前、昏睡状態から目を覚ましたシリル兄さんが、僕を見るなり頭を撫でてくれて。短いのも似合うな、て言ってくれたから」
「ああ……言ったな」
あの時、おれは2週間ほど意識を取り戻さなかった。朦朧とする意識が浮上して、ふと目に入ったものが、まずテオドールの後頭部だった。
つきっきりで看病してくれていらしいテオドールは、ベッドに伏すように眠っていて。思わず、可愛い頭だな、と思ってほぼ無意識に撫でた。
驚いて、跳ね起きたテオドールに、おれはさっきの台詞を言ったのだ。
今も昔も、おれは、この後頭部の丸みが、すごく好きだ。
形を確かめるように撫でれば、テオドールはうっとりと目を細めた。
「それに、これは……一種の、戒めのようなものだったから」
「戒め?」
「そう。髪なんて、媒介にしなくても、確実に自身の精霊力を操作して、精霊術も……その範疇におさまらない術も、使いこなす、ていう戒め」
「え……」
そんな、異次元の願掛けみないな意味が込められていたなんて。初めて知った。
「おれ……似合ってるな、くらいしか思ってなかったよ」
テオのそんな決意も知らず、おれはなんて能天気なことを……。
「僕は、あの言葉……すごく嬉しかったよ。
どんな僕でもいい、て言われたみたいで。特殊な力があっても無くても、使えても使えなくても。
どんな姿でもいいって、そう言われた気がしたから」
考え込むおれに、テオドールは笑いながら、そう言った。
「でも……そうだな。シリル兄さんが、長い方が好きなら、また伸ばそうかな。
もう、メーティスト神殿も、オルトロスも、取るに足らないと実証できたことだし」
伝説の古代神殿も、その祀られた神も、その眷属すらも、取るに足らないと言う、テオドールは頼もし過ぎる。
「別に、おれは……」
テオの髪が長くても、短くても、どっちも好きだけど。
そう言おうとして、『ラブプラ』のテオドールは長髪だったことを思い出す。長い藍髪を後ろに低く結わえていて、それは精霊術士としても、身分から言っても当然のことだったのだけど。
その色がまた不吉の象徴として、忌諱されていたんだよな。
たかが、髪の長さだけど。
「………やっぱり、短い方がいい」
不必要なものに縛られない、今のテオの方が、良い気がした。
それに、何より。こっちの方が、なんというか。おれのテオ、って感じがするから。
「そう?じゃあ、このままにするよ」
嬉しそうにそう言うテオドールは、いつものおれのテオだった。
「あの……さ」
「なに?」
「一つ、お願いがあるんだけど」
「何でも、言って」
「その……ああいうこと、するときはさ」
「ああいうこと?」
「そう。えーっと……いちゃいちゃするとき、なんだけど」
「いちゃいちゃ」
テオが、いちゃいちゃとか言うと、なんかダメ。ギャップが、可愛いから、なんか、ダメ。
………て、そうじゃなくて。
「その……兄さん、て呼ばないで欲しいんだ」
おれは、いつでもテオの兄さんのつもりだけど。
でも、どうにもああして触れ合っているときに、兄さんと呼ばれることに、違和感が拭えなくって。名前は呼ばれたいけど……呼ばれるたびに気になってしまう。
「わかった。いいよ」
あっさりと、同意され、ほっとしたのも束の間、「でも」と付け加えられ、どきりとした。
「さっき、そんなこと、考える余裕があったんだね。まだまだ、全然、大丈夫ってことかな」
「え?いや……そんなこと、ないっ!おれは、いっぱいいっぱいで…っ!!」
慌ててテオドールから身を引けば、ばしゃばしゃと水飛沫をあがる。けれど、あっさりと手を掴まれて、腕の中に閉じ込められた。
視界を埋め尽くす、胸筋が眩しい。
「冗談だよ。
これから、いっぱいしようね、気持ちいいこと。どんどん、僕の精霊力で染めてあげる」
急に密着した熱い身体に、ばくばくと心臓が早くなる中、
「う……うん」
とテオドールの腕の中で、縮こまって、頷いた。
「これは、赤くなるんだ」
一緒にお風呂、と、裸で抱き合う、は同じでは無い。
テオってば、おれの反応をみて、面白がってるな。
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