雲は竜に従い、風は愛に従う

月野さと

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Episode 4 クレメント伯爵

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 翌朝、
 ベッドが軋む感覚で、目が覚める。
 あぁ、そうか。謎の異世界という場所に来てしまっているのだった。
 誰かと一緒に寝るなんて、眠れるか不安だったけれど、広いベッドだったし、意外と眠れた。私って、神経図太いのかもしれないと、思い始める。

 何も言わずにベッドから降りて、ガウンを羽織って、水を飲んでいる。そんな、ジャンクロードを眺めていた。
 彼が、こちらを向いて、目が合ったので声をかける。
「おはようございます」
 挨拶は元気に明るく笑って!というThe日本人の癖で、にこっと笑って見せると、彼は無表情のままで私を見つめて返答する。
「おはよう」
 そう言って、窓の外に視線を移したから、私も視線を移す。
 窓の外には、綺麗すぎる程の青い空と、緑豊かな庭があった。
 綺麗だなぁ~と、ベッドから暫く、景色を眺めた。

 それから、朝食を2人でとる。
 不思議だなと思うんだけど、会話が無くても、自然でいられる。この空気感。
 この人が、人間じゃないからなんだろうか?
 それとも、空気感が同じなのだろうか?

 実はこの時、ルナだけではなく、ジャンクロードも同じように感じていた。
 
 そんな穏やかな?(笑)午前中を過ごしてから、屋敷の中を案内してもらったりして、遅い昼食をとり、私たちは作戦会議を始める。
「ジャンクロードのこと、これからはジャンって呼ぶね?いい?」
「好きにするといい。」
「じゃぁ、ジャン。翼鱗よくりんが有る場所の検討はついてるの?」
 香ばしいコーヒーの匂いを漂わせて、一口飲んでから言った。
「全く解らん。」
 あんまりにも、気持ちのこもった『解らん』に、苦笑いをしてしまう。

 それから、この国の事を教えてもらった。
 この国は絶対王政だった。5人のットップ貴族官僚がいて、そのうちの1人がルナベルの父親だった。 

「うーん、じゃぁ、国王に直接聞くか、官僚に聞くしか分からないってこと?お城の中を片っ端から探しても無駄?」
 その質問に、突然現れた執事のポールが、おかわりのお茶を入れながら返答した。
「それでしたら、ルナベル様のお父上、クレメント伯爵に話を伺うのはいかがでしょう?」
 部屋には誰もいないと思っていたので、ギョッとして執事のポールを見る。それを見て、ジャンが口の端で笑いながら説明してくれた。
「執事のポールは、人間じゃない。“竜の使い”だ。」
「竜の使い?」
 ポールは、ニッコリ笑って私にお茶を渡す。
「竜の鱗を使って、“竜の使い”というものを作ることが出来るんですよ。」

《竜の使い》
 竜が自分の力で、作り出せるそう。生み出された“竜の使い”は、学習させることで、様々な働きをしてくれるらしい。何年も存在しているポールには、人間のように感情も芽生えて、話し相手にもなっているそうだ。
 なんか、陰陽師の式神みたいな感じ?

「以後、お見知りおきを。奥様。」
 妖精のような執事のポールを、改めてまじまじと見つめる。すると、ジャンが言った。
「ルナベルの父であるクレメント伯爵は、気の弱い性格で、国王への絶対服従は疑いようが無い。しかし、おそらく信頼を置いている関係ではないからな。翼麟の行方を知っているかどうかは謎だな。国王しか知らないのではないか、と最近は思っている。」
 うーん。と、私は眉間に皺を寄せて、無い頭で考える。
「じゃぁ、竜の玉は?お城の中にあるの?」
 ジャンが頷く。
「宝珠は、城の地下で厳重な警備のもとに保管されていた。宝珠と一緒に保管されていると思ったんだが、やはり竜の使いを使って前に忍び込んだ時には、翼麟は無かった。人間たちは古来より、竜の鱗は宝石として扱われてきた。翼麟は一際、七色に光り輝く。普通の鱗でもダイヤモンドや黄金のように高額な値段で売買されている。売られた可能性も考えたが・・・・。」
 足取りが掴めなかった。というわけかぁ。

 その時だった。
 執事のポールが、窓の外に視線を移して「あ、お客様のようですね。」と言った。
 私も窓の外に視線を移すけれども、何か見えるわけでは無かった。
 ポールはニコニコしながら言う。
「敷地内に誰かが入ると、私には解ります。空気が教えてくれるんですよ。」
 ・・・人間じゃないというのを、実感する。なんか、猫とか番犬みたいにすら見えてきちゃったのだけれど。

 出迎えに行った執事のポールが、暫くしてから戻って来て言った。
「お父上であるクレメント伯爵さまが、お見えです。」
 3時のおやつという時間に、ルナベルの父親が面会に来た。


◇◇◇◇

 応接室に向かうと、中年の痩せ型の男性がいた。
 チラリと私の方を見たけれども、すぐにジャンの方に向きなおった。
「本日まいりましたのは、国王様からの伝言と、また、至らぬ娘ですからな。何か不都合は無いかと心配になりまして。」
 口上を聞きながら、ルナベルの父親の顔色を伺うけれど、口で笑って目が笑っていないのが解る。
「いかがですかな?娘は侯爵様に失礼をしておりませんか?」

 ジャンは、昨日と同じように氷のような冷たい表情をしていた。
「竜に嫁がせた娘の安否を、確認しにきたか。御覧の通り、殺しはしない。」
「まさか!滅相も無い。いえ、前にもお話致しましたが、国王陛下から、もしもシュバリエ侯爵様が、お気に召さないなどございましたら、花嫁の交換も考えると。また、ご希望があればハーレムをおつくり致します。再度、我々の意思が変わらぬことをお伝えに参ったのです。ですから、いつでも何なりとお申し出ください。」
 え~?この人、本当にルナベルの父親?
 娘の前で、仮にも、新婚に言うんだ?なんか・・・ルナベルは本当に生贄だったんだ?
 まぁ、こんな自分よりも年若いジャンに対して、へりくだった話し方だし、よっぽど竜が怖いのかも。

「話はそれだけか?なら早く出ていけ。用があればこちらから呼ぶ。」
 ジャンは立ち上がって、伯爵を追い出そうとした。
 本気で容赦ないなぁ。やっぱり、基本的には人間が嫌いなのかもしれないと、思えてくる。
 
 すると、伯爵は立ち上がって、言った。
「突然伺ったことをお詫びいたします!では、最後に、娘と少しだけ話をしてからで構いませんか?」
 え?私?
 ジャンを見上げると、ジャンはチラリと私の方に視線を移してから頷く。
「・・・好きにしろ。ただ、15分だ。時間になったら出ていけ。」
 そう言って、部屋を出て行ってしまった。

 ルナベルの父親と、初対面の上に、なんの情報もなく2人きり。
 本当に、緊張するんですけど・・・。
 
 2人きりになったとたんに、伯爵は私の方を向いて、顔を緩めた。
「ルナベル。大丈夫か?どうやら、シュバリエ侯爵はおまえを気に入った様子だな。」
 え?気に入ってる?どこらへんに、その雰囲気が出てたのだろうか?
「あ、そうなんですね。」
 言葉の言い回しとか、変じゃないかな?と不安になりながらも、返答する。とりあえず、15分間を問題無く、入れ替わったことを知られないようにしなくてはいけない。
 て言うか、いくら顔がルナベルとそっくりだとしても、親なら別人て解るんじゃ?
「近くには人間を置かないかただ。とにかく、ご機嫌をとって侯爵の心を掴むんだ。わかっているな?」

 ・・・えーと。
 とにかく何か言って、情報を聞き出したいな。
「侯爵様の心を掴めなければ、どうなりますか?」
「やはり、難しそうなのか?」
 冷や汗をかいているクレメント伯爵に、慌てて否定する。
「あ、いいえ、ただ、どうなるのかなぁ?と不安に思いまして。」
「??分かり切っていることだろう?来月には戦になりそうなんだ。我が国の勝利の為にも、今後とも竜には戦に出陣して頂く。世界を制覇できたら翼麟を返却するという約束だが、陛下はそのつもりはない。」
 いきなり、とんでもない話が出てきて、呆気にとられる。
 世界を制覇?の為に、竜を利用?
 伯爵は、ルナベルの肩に手を置く。
「器量の良いお前なら、竜の心を射止められるかもしれない。金銀財宝に何の興味も無いかただ。地上に引き留めておくには、子供をつくらせることだ。わかるな?」
 
 あ、あたまが、グラグラする。
 なに?この国の人たちは?
 ゲス野郎なの?
 ・・・いやいや、私!落ち着いて!
 せっかく、翼麟の話が出たんだから、情報を引き出さなきゃ。
 あー、えーと・・・。
「あの、その翼麟ですが、返却するつもりはないと仰いますと、もう国内には無いのでしょうね?」
 そう言うと、伯爵は変な顔をした。
「どうした?何故そんなことを聞く?」
 あ、ヤバイ。えーと、えーと。
「い、いえ、どの宝石よりも高価なものと聞き及んだので、1度見て見たかったなと。」
 いや、興味無いけど、でも黄金やダイヤモンドよりも高価で七色に光るとか言ってたし、ちょっと興味有るは有る。
 伯爵は、呆れた顔をする。
「おまえというやつは。そんな事を考えていたのか。翼麟は、軍の指揮を任されている、第2王子が持っている。見る事は叶わんだろうな。」

 ・・・・!!
 
「そ、そうでしたか。」
 
 ウソ!!まさかの情報ゲットじゃない?!

 
 

 
 



 
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