雲は竜に従い、風は愛に従う

月野さと

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Episode 6 ジャン視点

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 ジャンは、思った。
 
 人間なんて、身勝手で欲深くて残酷で愚かで汚くて、信頼に値しない。
 竜たちが住む、天界に帰りたい。早く帰りたいと願う一方で、竜として気高くあることへのプライドがあった。
 怒りに身を任せて、国中を火の海にしてやって、復習してやろうと思わなかったわけでは無い。

「世界制覇に協力さえして頂ければ、必ず翼麟をお返しいたします。それまでは、どうか、どうか留まってください。」
 国王はそう言った。
 何を提示されても、不満そうな私に、人間どもは怯えていた。金銀財宝、大きな家、大きな土地、何を送られても、そんなものはどうでも良かった。

 何度も言った。
「翼麟を返せ。」
「・・・どうか、地上にお留まりください。我が国にはあなたが必要だ。お願い致します。地上の平和の為なのです!」
「知ったことか!私には関係ない事だ。これ以上、翼麟を返さないつもりなら、私にも考えがある。」
 とは言ったものの、人間を殺して自分が汚れるのは嫌だった。もしも、そんな事をして天界に帰ったとしても、この身は汚れたままで、生臭さが一生消えないだろう。神聖な竜ではなくなってしまう。

 しかし、怯えた国王が言い出した。
「この国で1番美しい女性を、献上いたします!あ・・・あそこにいる娘はいかがでしょうか?!」
 国王が指差す方向には、第2王子の隣にいる女性だった。
 アンドリュー第2王子の隣には、彼の婚約者であるルナベル・クレメントがいた。
 国王の言葉に、ルナベルは目を見開いて怯えた。 
 アンドリュー王子は、ルナベルを隠すように前に1歩出て、叫んだ。
「陛下!!何を仰います?! 彼女は私の・・・」
「黙れ!!竜神様の御前だぞ!!」
 
 アンドリュー第2王子。この男は、特別嫌いだった。

 国王は、『戦場で竜の姿で現れてくれるだけで良い。そうすれば敵国の兵士たちは逃げて行く。戦意喪失が目的だ』と言いながら、戦場で、この王子は、私に攻撃をするように命令してきたことがあった。
「翼麟を取られた間抜けな竜!!図体ばかりでかくて飛べもしない、戦えもしない、張りぼてか?!火を吐け!敵兵を倒せ!!戦え!!」
 たくさんの人間を殺し、英雄と言われ、将軍だか何だか知らんが、私を顎で使おうとした。
 あの時、こいつを殺してやろうかと思った。

 ジャンクロードは、空を見上げた。

 私は、気高い竜だ。例え飛べなくなったとしても、そのプライドを捨てるわけにはいかない!

「私は竜だ。貴様の命令を聞く気も無い。お前達が勝とうと負けようと知ったことか。勝手に戦って勝手に死ねばいい。私に頼るな。」
 しかし、早く戦争を終わらせたかったジャンは、空に向かって火を吐いて見せた。
 恐れをなした敵軍が退避していった。
 
 前々から、ずっと嫌いだった。
 いつも、私を戦で利用しようとしてくる。王子こいつが!
 人間の女など興味も無いし、傍に人間がいる生活なんて、耐えられない。考えただけで吐きそうだ。

 しかし、アンドリュー王子のあの顔。はじめて見る。
 顔を青くして、焦り、悔しそうに震えているのか?
 面白い!

「いいだろう。その娘を貰ってやる。」
 そう言ったのには、嫌がらせのつもりも有ったが、もう1つ。
「これからは、戦場で私に命令するのをやめろ!今度命令したら、その娘を喰ってやる。それから、国王。世界制覇とやらができたら、約束通り、翼麟を返してもらう!」

 もう、この地上に5年。
 これ以上の我慢が出来ない。
 この位なら、許されるだろう?

 やたらと、怯えている女を見て、心の中で思う。
 すまん・・・許してくれ。翼麟が返却されるまでの辛抱だ。何もしないと誓う。
 いや、むしろ人間の匂いは嫌いだから、広すぎる屋敷に、この女を住まわせて、私は、敷地内に小さな家を別に建てて、そこで生活しよう。
 使用人であっても、人間と一緒に住むのは落ち着かない。
 広い館はどうしても使用人が必要だったから、我慢していたが、ちょうど良い。
 

 そう思っていたのに。

 結婚式の当日。
 
 一目見て思ったんだ。

 この娘は、本当に、あの時の娘か? 
 純白のドレスに身を包み、オーラが違う。
 まじまじと私を見つめてくる瞳が、煌めく。
 緊張はしている様子だが・・・何を考えているのか?何やら真剣な顔で、前を見据え始める、その姿。
 どうゆうことだ?
 
 階段で足を踏み外したので、抱きとめて感じる。
 ・・・この匂い!
 懐かしい、雲の匂いに似ている。
 空を駆けて遊んで、喉が渇いた時に、雲に口を付けて口元を潤した。あの時の、雲の匂い。
 もっと、嗅いでいたくなって、抱き上げる。

 あぁ、雲の匂いのわけないか。
 海辺の潮風というところか。
 いずれにしても、他の人間とは違う。嫌いな匂いでは無かった。

 あの日。
 異世界から来たと言われて、そうかもしれないと思った。
 この国では嗅いだ事の無い、優しい匂い。
  
「帰りたい」と泣いたおまえの涙は、怖いほどに綺麗だった。
 邪念の無い涙は、美しいものだ。

 始めて見る。
 心の綺麗な娘。
 
 忘れかけていた雲の匂い。
 失いかけていた風の感触。

 自分の、大事なものを思い出させた。
 
 小さい声でつぶやいた言葉。

 おまえの、それは、信じる力。
 
 こんな世界に身を落としてしまった私を、照らし導く光。
 未来を生み出し、突き動かす力。
 
 その力を、この時に、私は、おまえから貰ったんだ。 
  
 だから、おまえを助けてやりたい。
 守ってやりたい、そう思った。






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