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Episode 7 ジャン視点

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 翼麟よくりんを、アンドリュー王子が持っていると言われてみれば、確かに納得だった。

 エルバーン国の軍隊の総司令官は、アンドリュー将軍だからだ。
 取り返すなら、あの男と戦う必要があるわけで、それは、国と戦うということだ。

 “竜の使い”を送ったことが、バレた。

 さて、相手の出方を見るのも良いが、ルナの為にも前進することにする。
 私自身が天界に帰ることで、ルナベルは安心して戻って来るだろう。そうすれば、ルナは元の世界に戻れる。
 ・・・しかし、私が居なくなった後、ルナが上手く異世界に戻ったかどうか、確かめる事が出来ない。それが少し不安だと思った。

 とにかく、翼麟を取り返そうと、城に行く準備をしていると、ルナが女性とは思えない早さで支度を先に終えて言った。
 
「私も一緒にお城に行く!!」
「・・・おまえは来るな」
「言ったでしょ?私も手伝うって!1人より2人の方が、絶対いいよ!それに、恐れられてる竜よりも、私の方が情報収集できるかもしれないじゃない?」  
 城に行って、ルナベルに危険が及ぶとは思えない。しかし・・・。

 ポールが支度を手伝いながら、言った。
「良いではないですか?旦那様が第2王子と話をしている間に、ルナ様に城内の情報収集をして頂きましょう。ルナベル様は、クレメント伯爵の親族ですから、王宮図書館への出入りが許可されています。図書館へ行くという名目で行かれては?」
 ポールの言葉に、ルナが親指を立てて満面の笑みで答える。
「それ良い!上手くできるかは別として、ルナベルの立場を利用しなきゃ!ね?ね?そうしようよ!」 

 ダメだと言っても、一向に意見を聞かない様子を見て、早々に折れる。
 翼麟の在り処を誰が聞き出したのか?などと言われてしまえば、まぁ、実績として認めるしかない。

 それにもう。これ以上、人間の言いなりになるつもりはない。
 いざとなれば、ひと暴れしてやってもいい。


 そんな事を、らしくも無く考えてしまった自分に苦笑する。
 こんな気持ちになったのも全部、ルナ、おまえのせいだ。


◇◇◇◇


 城の一室に案内される。
 程なくして現れたのはアンドリュー王子だった。
「待たせたな。シュバリエ公爵。」

 王子が席に着くなり、ジャンは口を開いた。
「来た意味は、わかっているだろう?」
 この王子おとこと、2人だけで対面で話すのは初めてだ。
 わざわざ城にやってきてまで、話があると呼んだので、王子も警戒している様子だ。

「こちらに来たなら、叩きのめしておいたが?」
 睨みつけるアンドリュー王子の目の下には、クマが出来ていた。眠れていないのだろう。
 常に自信に満ち溢れていて、虎か獅子のような雄々しさも、王子らしい爽やかさの微塵も無い。
 その姿に、同情する気は無い。
 一気に、この男を仕留めないとならない。

 ジャンは言った。 
「理由も、わかっているだろう?」
 その言葉には、王子は少しの間、黙った。そして、答えた。
「竜らしくもなく、回りくどい言い方だな?」
 ・・・簡単には、翼麟を持っているとは言わないか。嫌な男だ。
 この男が、竜と呼ぶときは、私に攻撃する時だ。
「意地汚い人間と話をするのには、ちょうど良い話し方だろう?大切なものを奪われて、可愛そうに思って遠慮してやっているのだがな。」
 けしかけるように言うと、王子は、憎悪に満ちた目で睨みつけた。
「陛下の命令さえなければ、今すぐにでも貴様を殺してやる所だ!」
 余裕のない相手を見て、望んだ答えでは無いので、挑発してトドメを刺してやる。
「立場は逆転したようだな?今後は、おまえが私の言う事を聞け!」
 ジャンは、勝ち誇ったように言った。
 しかし、王子はジャンの望む言葉を言わない。さすがは軍人だと思う。仕方がないので、こちらから言う。
 
「ルナベルを返してもらいたいか?」
 ジャンの言葉に、アンドリュー王子は顔を上げて眉間に皺を寄せる。
「私と取引をする気か?」
「そうだ。」
 その途端に、ぷつんと切れてしまったように、王子が叫んだ。
「何が望みだ?これ以上、私から何を奪いたい?!今までの復讐か?!貴様の望みは、翼麟だろう?!さっさと、この国から出ていけ!!」
 
 この第2王子にとって、ルナベルが我を忘れて取り乱してしまうほどに、よほど大事な女なのだろう。
 竜は、番に対する思いが、人間よりも重く強い。だから、誰かの女を奪うなんて汚い手は、本来決してしない。
 もう充分だ。
 そもそも、そんなつもりは無かったが、復習は終わりだ。

「いいだろう。翼麟を今すぐに返せ。即座にここから立ち去ってやる。」

 ジャンの言葉に、アンドリュー王子は、驚いてポカンとした。
「・・・え?・・・」
  
 その様子を見て、ジャンも驚く。
 ん?何だ?
 何故、そんなに驚く??
 
 どうゆうことだ?この王子が持っているのではないのか?
 
 その時だった。
 ドアを叩く音と一緒に、声がした。  
「殿下!!火急の要件にて、陛下がお呼びでございます!」

 その声に、平常の顔に戻った王子が、部屋に入る許可を出すと、騎士が入って来た。
 騎士は入ってくるなり、ジャンに一礼する。
「お話し中、失礼いたします!」
 アンドリュー王子の前で、騎士の礼をとると言った。
「至急、執務室へお越しください!国王陛下がお呼びでございます!」
「何があった?」
「隣国のトルテリア国が、侵攻してきました!」
 王子が立ち上がる。
「なんだと?!」
「現在、イトラスの砦を超えて、イーダ街道を南下しているとの事。首都を目指しているようです!」
 
 また戦争か・・・ジャンは、きな臭さに嫌気がさす。
 アンドリュー王子は、ジャンの方を向いて言った。
「この話は後だ。だが・・・戦には出てもらう!」
「何故、私が、おまえたちの命令を聞く必要がある?」
 強く睨むと、王子は口の端で笑う。

「翼麟が欲しいんだろう?」

 ・・・本当に嫌な男だ。
 何度、噛み殺してやりたいと思ったことか。

 しかし、どうゆうことだ?翼麟はこの男の所では無いのか?




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