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Episode 8 第2王子

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 ルナは、ジャンと一緒に馬車でお城に来た。
 
 馬車の中で、ジャンは言った。
「いいか?城内をフラフラするな。図書館に行くだけにするんだ。ルナベルは、貴族や王族の知り合いが多い。下手に会って、別人であることがバレると面倒だ。わかるな?」
「知り合いが多いなら、尚更、色々と聞いて回った方がよくない?」
 ジャンは、眉間に皺を寄せて、顔を引きつらせながら溜息をつく。
「・・・だから、連れて来たくなかったんだ。下手に情報を聞き出そうとすれば、面倒なことになる。とにかく、誰に会っても、話を適当に会わせておけ。間違っても、第2王子の部屋に行こうとか、探ろうとするな。」
 ・・・やろうと思っていたことを言われて、黙る。
 そんな私の顔を見て、ジャンは呆れたように再び溜息をつく。
「いいか?私も、ルナベルの友好関係を知っているわけではない。・・・・特に第2王子とは、会わないように気を付けろ。まぁ、私がアイツと話をするから、おまえと2人で会うような事にはならないと思うが、とにかく、勝手な行動はするなよ?」

 しっかり釘を打たれて、お城に到着すると、戦闘モードでジャンはお城の中に消えて行った。
 エントランスで別れてから、私は、図書館に行くふりをして、お城の中をフラフラと歩きはじめる。

 実はこの時、国境で敵国に侵攻されたことが分かり、城内の主要騎士たちは、戦の準備でバタバタしていた。立っている兵士は新人で、戦に行かぬものばかりで、堂々と歩いている令嬢に対して、不審感を抱かなかった。

 ルナは、歩き回りながら思った。
 何か探れないだろうか?
 あえて入ってはダメそうな、上の階段を上がっていく。
 第2王子が持っているとなると、彼の部屋を探るのが良いと思う。“竜の使い”がダメだったというのは、どんな理由だったんだろう?兵隊が沢山いて、ネズミも入れないとか??
 とにかく、第2王子の部屋を探して見てこれないだろうか?こんなに歩きまわっても、誰にも何も言われなのだから、チャンスかもしれない!!
 私は、上の階をグルグルと、堂々と見て回る。意外なことに、警備しているのであろう人が凄く少ない。少ない上に、何も言って来なかった。
 だから、安心して、ちょっと調子に乗っていた。その時だった。
 
「ルナベル?」
 
 呼び止められて、振り返る。
 軍服のような服装で、やたらと威厳に満ちた男性が立っていた。
 もちろん、見覚えは無い。
 歳はジャンよりも年上かな?と思うけれども、恰幅が良くて男の中の男!という雰囲気の男性に見入る。うーん、坂●憲二みたい。素敵な大人男性だ。

「来ていたのか。何をしている?・・・どこへ行く所だ?」
 どうやら、知人のようだ。
「え・・・っと、図書館に来たのですが。」
 良い言い訳が思い浮かばずに、とっさにそう言うと、声をかけてきた男性の後ろにいた男性が、不審そうに言う。
「図書館ですか?しかし、この階は、王族の居住区になりますが?」
 その言葉に、思いっきり顔が引きつる。ヤバイ!!
「あ、あぁ、そうですわよね!お、おほほ。」
 令嬢ってこんな感じ??と思いつつも、オロオロしていると、声をかけてきた男性が言う。
「お前達は先に行っててくれ。私は、彼女と話がある。」
 すると、男性の後ろに控えていた2人が返事をする。
「は!将軍」

 ん?・・・将軍?この人が?
 お城まで来る間の馬車の中で、ジャンが言ってた。第2王子は、将軍とも呼ばれているって!
 もしかして、この人が翼麟を持っている王子?

 見上げていると、王子は、私に視線を落として微笑んだ。
「今日はあまり時間が無いんだ。ルナベル、こちらへ。」  
 近くの部屋に案内されて、中に入る。 
 その部屋は、会議室なのだろうか?応接セットがあるだけの部屋だった。部屋に灯りは無くて、昼間なのに少し薄暗い。 
 灯りもつけずに、王子が言った。
「ルナベル。今日は・・・竜と一緒に来たのか?」
 至近距離で聞かれる。ち・・・近すぎる!
「は・・はい。一緒に来たので、一緒に帰ろうかと・・・」
「珍しいな。人間は臭いと言っていたアイツが・・・。酷い仕打ちをされていないか?心配で眠れなかった。」

 この人、ルナベルを心配してくれてる?ルナベルの味方?友人なのかな?
 そうなら、話は早い!親しいのなら、私の話を聞いてくれるかもしれない! 

「いいえ・・・竜は・・・優しいです。」
 そうだよ。ジャンは危険な竜なんかじゃない。
 話し合えば分かり合えるはずだ。
「・・・優しい?」
 王子が、目を見開いで驚く。私は、しっかりと頷いて見せる。
「はい。第2王子殿下。」
 彼が第2王子であることを確かめる為に、そう言うと、王子は眉をひそめる。
「なぜ、そんなことを言う?」
 私は思い切って、交渉しようと決心する。王子の質問の意味が、違っていたことに気がつきもせずに、腹を決めて、王子を見据えて言う。
「竜は恐ろしいと思いました。はじめは、本当に怖かったけれど、でも、2日間一緒に居て解ったんです!ジャンは優しいわ!王子殿下、お願いです。ジャンを、家に帰してあげることは出来ませんか?」
 第2王子は、目を見開いて私を見つめた。
 だけど、私はなんとか解って欲しい!その気持ちだけで、必死に言った。
「翼麟を、ジャンに返してあげてください!みんな、彼を勘違いしてるんです。どうか、お願いします!」
 目を見開いたままの、王子は、顔を歪めて戸惑いのような表情を浮かべた。
 それが、どうゆう意味なのか分からずに、私は続けた。
「お願いです!私が保証します!ジャンは、悪い竜じゃない!だから、翼麟を返してあげてください!もう、これ以上、彼をいじめるのをやめて!」
 
 その瞬間だった。
 第2王子の大きな両手が、私の両頬を包んだ瞬間に・・・キスをされていた。

 ・・・・・・え?
 
 そのまま、私の知らない、経験したことのない激しいキスが降ってきた。
 どうやって息をしていいのかも解らず。必死で両手で胸を押して、突き放そうとしてもびくともしない!ただ、ただ、怖くて、嫌で嫌で逃げようとしても、逃げられない。
 やっと、唇を離してくれた時には、息切れして、頭がぼうっとしていた。

「ルナベル・・・!何故、そんな事を言う?結婚式の前日に、あんなに愛し合って・・・竜には指一本触れさせないと言っていただろう?」

 ・・・え・・・っ!?

「何故、あいつの名を親し気に呼ぶ?何故、私を殿下なんて呼ぶ?どうして・・・!!」
 ギュウっと息が出来ない程に、抱きしめられて・・・・い、息が、できない!!
 
 無い頭でも解る。
 ルナベルの好きな人とは、この人なのだと。
 まさかの、第2王子だったのだと。

「ルナベル!約束したろう?人間嫌いな竜から離縁を言わせて、そしたら、必ず一緒になろう。そう約束しただろう?どうしてしまったんだ?2日で気持ちが変わったのか?父上には、国王には、竜がルナベルを拒否したらと、了承を得てる。だから、何も心配いらない。」
 第2王子は、そう言いながら、私の背中をさすり、耳にキスをする。
 ルナベルの好きな人は、この人で、この人もルナベルを好きで・・・・。
「ルナベル。頼むから、私を名前で呼んでくれないか?おまえが変な事を言うから、不安になる。愛していると、おまえの口から聞きたい。」
 ・・・・そ、そんなこと。
 名前なんて知らないし、そんなの・・・ムリだよ。
 私はルナベルじゃない。愛してもいない人に、愛してるなんて嘘でも言えない。
「なぁ、ルナベル。言ってくれ。」
 第2王子は目を細めて、私の頬を撫でる。
 ・・・言わなきゃいけない。今、この場をやり過ごすためにも、ごまかすために。言わなきゃだけど・・・。

 だけど?何を迷うの?愛していると、言えば良い。
 一言だよ!そう言って・・・そうだ!愛していますと言って、竜は翼麟さえあれば居なくなってくれるから、そうすればルナベルと第2王子は結婚できる。だから、だから、言えば良いんだ!
 “愛しています。翼麟さえ有れば、天に帰ってくれるそうなので、返してください。そうすれば、あなたと一緒になれます”
 よし、言うんだ私!!
 愛しています・・・愛して・・・・あい・・・・

 心の中で、なんとか決心をしようとして、急に冷めていく。

 私、なんで、人生で初めて“愛しています”と言う相手が、名前も知らない好きでもない人なんだろう?
 生まれて初めてキスをしたのに、どうして好きでもない相手で、あんな・・・あんな無理やり、ディープなやつなの?
 
「ルナベル?」
 
 私は、ルナベルじゃない。私は・・・言えない!

「・・・ごめんなさい!!」

 第2王子の腕の力が緩んだので、渾身の力で突き飛ばす。突き飛ばしたつもりで、屈強な男はビクともしていなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさい!離して!」
「ルナベル・・・なぜ謝る?」
 王子は、壁に私を押し付けると、もう1度、キスをしようとしてくる。
 必死に首を振って、拒否して叫んだ。
「やだ!!離して!!離してよ!!」

 その時、バン!!!と、大きな音がして部屋の扉が開いた。

 入って来たのは、ジャンだった。
 
 
 
 

 


  
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