雲は竜に従い、風は愛に従う

月野さと

文字の大きさ
24 / 33

Episode 24 好きだから

しおりを挟む
 ジャンは、“雲を操る竜”
 ガイアは、“時を駆ける竜”
 時を駆けて、過去に戻ったり、未来に行く事ができる。 

 ガイアは言った。
「過去に戻って、翼麟よくりんを取り返して来る。そうすれば、天界に帰れる!ルナちゃんは、元の世界に帰れるように、鏡が割れる直前に戻って、鏡をここまで持って来てやる。そして、もう1度ルナベルを呼び出せ。」

 つまり、私達は、お別れするってことだ。
 
「2人とも、これで元通りってわけだ。完璧だろう?」
 エッヘン!とガイアは胸を張って言う。
 その提案を黙って聞いていたジャンは、私の方を見て、真剣な顔で聞く。
「ルナ。ガイアの言う通りにすれば、おまえは元の世界に帰れる。どうしたい?」

 そんな質問をしてくるジャンを見上げて、恨めしそうに見る。
 ・・・ずるいよ。
 私に決めさせるんだ。一緒にいるって言ったのに。傍に居るって言ったのに。状況が変わって、そんなふうに聞いて来るなんて。でも・・・ううん。これは彼の優しさなんだろう。私に未来を決めさせてくれる。私の決めたことに、同意しようと思っているんだ。

 ジャンは、どっち?以前の私は、帰りたくない気持ちと帰りたい気持ちと、半分ずつあって、心が分裂しそうだったよ。だけど、今は違う。
 ルナベルに申し訳ないけど、ジャンが好き。一緒にいたい。だけど…。

 このまま、一緒にいたら、ジャンはいつか殺されるんだ。私は、ジャンを置いて、年老いて先に死ぬ。長い年月を、この地上に彼を置き去りにして。
 そんなの…そんなのダメだ。

「・・・帰る。私、帰れるなら帰りたい。」

 大好きなのに、ずっと一緒にいたいのに。
 だけど、私は、この先、長い年月を生きていくあなたの、ほんの一時しか一緒に居てあげられないんだもの。それなのに、一緒に居たいとか、愛して欲しいなんて、もう言えない。
 
 本当は一緒に居たいよ。傍にいたいよ。だけど、だけど、あなたをまた一人にしてしまうくらいなら。

「よし!決まりだな!早速、過去に戻って来る!」
 ガイアは立ち上がって、満面の笑みを浮かべる。そんなガイアに目もくれずに、ジャンは私を見つめて、探るような目で覗き込んでくる。
 私は、もう我慢できなくて、泣き出しそうになって、部屋を飛び出した。

 勢いよく、部屋を飛び出していったルナを、追いかけようとして、ジャンは立ち上がったまま、立ち尽くす。


 ルナの居なくなった部屋で、ジャンは拳を握りしめて言う。
「ガイア。数日間だけで良いんだ。待ってくれないか?」
「待つ?」
 しっかりと、ガイアを見つめる。
「時間が欲しい。ルナとの思い出が欲しいんだ。産まれて初めて、愛おしいと思ったんだ。何があっても、どんな地獄でも、あいつとなら、生きていけると思った。たとえ・・・」
 眉間に皺を寄せて、グッと歯を食いしばる。一度、目を閉じてから、何かを振り切るように顔を上げて言った。
「たとえ、数十年という一瞬の時間だったとしても、あいつが先に死ぬのだとしても、それでも一緒にいたかった!」
 ドサッと、ソファーに座り込んで、ジャンは顔を覆った。
「今まで生きてきて、この数か月間が何十倍も楽しかった。今までだって、何度も見て来た景色でさえも、あいつと一緒なら違って見えた。千年生きるよりも、あいつとの一瞬の為に生きていたかったんだ。」 

「ジャンクロード・・・」 

 ジャンの言葉を聞いて、ガイアは戸惑った。
 竜は一途なのだ。それは300年も生きてきたガイアが、よく理解している。けれど、産まれた時から弟のように可愛がってきたジャンクロードが、悲恋に片足を突っ込んでいることに、黙って見ていることが出来なかった。
 番いつがいの死を、受け入れるというのは、竜には難しいのだ。殆どの竜たちは、片方が死ぬと後を追う。寿命は千年だが、そういった理由で、自死する者も少なくはない。まだ若いジャンクロードが、100年も生きずに、というのは、黙って見ていることが出来なかった。しかし・・・。

「解った。1ヵ月やるよ。1ヵ月後には戻って来る。ただ、1つだけ約束してくれないか?絶対に、あの子を抱くな。番いつがいにしてしまえば、取り返しがつかない!分ってるな?!」
 そう言い残して、ガイアは消えた。


 リビングで一人になり、ジャンは、暫くボウっとした。

 ルナは、帰れるなら、本当は帰りたいのではないか?その考えは、ずっと心の中に残っていたんだ。
 ずっと傍にいたい。でも、縛りつけたくない。あいつの笑顔が好きだから。守りたいから。あいつが望むなら、何でも叶えてやりたい。

『帰りたい』
 さっき、そう言ったルナの目は、苦痛に歪んで、床を見つめたままだった。
 
「・・・」
 
 ジャンは、スタスタと、ベッドルームに向かった。
 扉が少し空いていて、中を覗いてみる。
 ルナはベッドに突っ伏したままで、動かなかった。だから、寝てしまったのかと思って、そうっと部屋の中に入る。すると、彼女の体がピクリと動いて、鼻をすする音がした。

「ルナ」
 名を呼んでも、彼女はこちらを向かずに、背中を向けたままで起き上がり、ベッドにペタンと座ったままで返事をした。
「なに?ガイアさんは、もう過去に探しに行ったの?」
 その声が、くぐもっていた。泣いていたのだと気がついて、ベッドの近くまで歩いて行くと、その気配に気がついて、慌てたように、そっぽを向いてしまう。

「ルナ。話がしたいんだ。こっちを向いてくれ。」
「やだ。」 
 ジャンは、ベッドの上に片膝をついて、少し強引にルナの肩を掴んで、自分の方に顔を向けさせようとする。それに気がついて、ルナは必死に抵抗した。
「やだっ!やめてよ!見ないで!」
 顔を隠そうとする両腕を掴んで、ベッドの上に組み敷く。

 ルナの目は、真っ赤になって、涙が溢れていた。辛そうに眉をひそめて、大粒の涙が頬を伝う。その顔を見て、ジャンの心は息が出来なくなるほどに締め付けられた。

 しゃくり上げるように、はふっと息をしながら、ルナは言った。
「好きなの・・・!ジャンが好きだから、離れたくない!」
 子供のように、泣きながら叫んで、その姿がジャンには可愛らしく映った。つい、微笑んで、誘うように言う。
「ならば、ここで暮らそう?一緒に、ずっと。」
「嫌だよ!ここに居たら、ずっと追われて生きて行かなきゃいけないんだよ?いつかジャンは独りぼっちになって、長い年月を人間に追われて、1人で生きていくんだよ?」
「いいよ。」
「良くないよ!そんなの、私が嫌だ!」
「生きる長さは、長くなくてはダメか?私が望むのは、おまえだ。愛する者と一緒に生きて、一緒に死ぬ。それが竜の生き方だ。それが長くても短くても、愛する者と番いになって一緒にいられるなら、幸せだ。」
 ジャンの言葉に、ルナの心は、ぎゅうっと鷲掴みにされてしまう。
 だけれど、自分の気持ちと、それで、本当にジャンが後悔しないのか?本当にそれが正解なのか?それが幸せなのか?解らなくなっていた。
 
「大丈夫だ。ここで、ガイアに会えたからな。おまえが生涯を終えるまで一緒に居て、その後は、ガイアに頼んで、翼麟を取り戻す。天界に帰るよ。」
 
 それを聞いて、ルナは「あ!そうか!」と素晴らしい考えに賞賛するように、目を輝かせて、満面の笑みを浮かべる。
 ルナの頬に涙が残っているのを、ジャンは唇で吸い取って、微笑み、頷いて見せる。 

「ルナ。好きだ。」
 耳元で囁く。
 そのまま耳たぶを、甘噛みした。
「おまえが好きだ。」
 落ち着いたしっかりした声で囁き、耳にキスをして、また耳元で囁く。
「おまえと、結ばれたい。」
 誘うように囁いて、首元を愛撫をする。
「好きなんだ。」
 指と指を絡めて、体を密着させ、すりすりと優しく撫でる。
「ルナ、好きだ。一つになりたい。」
 切羽詰まったような声に、掻き立てられて、堪らなくなり、ジャンの背中に腕を回す。

「ジャン・・・!」


 その夜。 
 ジャンは、何度も何度も、愛の言葉を囁きながら私を抱いた。

 その声と愛撫に酔いしれて、何も考えられず、愛に溺れた。


 
 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

〖完結〗終着駅のパッセージ

苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。 彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。 王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。 夫と婚姻してから三年という長い時間。 その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。 ※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。 そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。 お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。 愛の花シリーズ第3弾です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...