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7話
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2人で抱き合ったまま。
ヴィンセントは、彼女の頭を撫で続けていた。
ツヤツヤでサラサラの髪を、指に絡ませたりして撫でていると、とても穏やかな気持ちになっていた。
ソフィアは、おなかの奥がジンジンするのを感じながら、大きな腕に抱かれて、ボーっと考えていた。
まさか自分が、雰囲気に飲まれて男性と体の関係を持つとは、想像もしていなかった。彼とのキスも、何もかもが嫌じゃなかった。むしろ、何もかもが気持ちよくて、こうして抱き合っているのでさえも、心地いい。
それとともに、一線を越えてしまったことで、これから、この人とどう接したら良いのか、戸惑いを感じていた。せっかく、親しい友人ができたのに、こうなってしまっては、もう友人には戻れない・・・。
まどろむような空気の中、彼が言った。
「名前を、教えてくれないか?」
そう言われて、見上げると、優しい目で綺麗な顔がそこにあった。
「私・・・」
そのまま目を逸らして、何も言えなくなる。
彼は、そっと私を抱きしめて言う。
「そうだな。私から名乗ろう。私は、」
「待って!待って言わないで!」
慌てて制止して、彼の口を両手で抑えつける。彼が驚いた顔で、私を見た。
「・・・・」
不安と混乱で、頭が一杯になる。彼がどこの誰なのか知ってしまえば、私は名乗らざるおえない。でも、これは1度の過ちというものだ。
彼の大きな手が、私の両手を掴んで、抑えていた口から離される。
「何故だ?名前を知らなければ、名を呼ぶことが出来ない。」
「わ、わかったわ。じゃぁ、次回、次に会った時にしましょう?」
彼のとんでもなく甘い言い方と、色気にほだされそうになった。必死で拒否する。
「今はまだ・・・もう少しだけ、あなたとは、このままがいいの!」
その時だった。部屋のドアをノックする音が響く。
ビクッ!と驚いて体が震える。
ヴィンセントは、上半身を起こして、扉の方に向かって声をかけた。
「ノアか?」
すると、ドアの向こうから返事があった。
「はい。お時間にございます。会議室で皆様お待ちです。」
時計を確認する。
会議の時間から30分ほど過ぎていた。
マズイ・・・すっかり忘れてしまっていた。
「解った。すぐに行く。もう少し待っていてもらってくれ。」
行かなくては・・・そう思って、彼女を振り返って見ると、私を見上げる、あどけない瞳に心を持って行かれそうになる。
何も纏っていない真っ白い肌を隠そうと、布団を引っ張り上げて、亜麻色の長い髪がキラキラと陽の光に反射して、彼女を包み込んでいた。そうして居るだけで、綺麗で可愛くて・・・欲しくなる。
離れたくない。
しかし、そうゆうわけにも行かない。政務をすっぽかすわけには行かないのだ。
「すまない。行かなくては・・・。」
彼女の頬を撫でながら、そう言っておいて・・・・動けずにいると、彼女は笑った。
「お仕事に戻って。私も、もう行かなきゃ。」
その笑顔が、いつもの屈託のない笑顔だったから、ホッとしてヴィンセントも微笑んだ。
「おまえは、もう少し、ここでゆっくりしていると良い。体は大丈夫か?」
「うん、ありがとう。大丈夫だよ。」
それが、最後だった。
その後、会議が終わって部屋に戻ると、彼女は居なかった。
その翌日、翌々日・・・5日後、
何度、図書室に行っても、彼女に会えることは無かった。
◇◇◇◇◇
「陛下。聞いてますか?」
ヴィンセントは、少しボーっとしていた。
「あぁ、すまん。なんだ?」
文官のアデルが、目を細めてヴィンセントを見る。
「陛下・・・ここ最近、変ですよ?それに、午後の決まった時間になると休憩に消えますけど、どちらへ?」
「・・・私も、1人になりたい時だってある。」
ヴィンセントはアデルを横目に見てから書類を、トントンと整える。
そこへ、書類の点検をしていたヘンドリックが、口を挟む。
「陛下、お言葉ですが、夜会以降、夜伽をしておりませぬ。気になる女性ができたとて、見つからぬのでは居ないも同義じゃ。今夜、夜伽をしていただきますぞ。」
ヘンドリックの言葉に、アデルが答える。
「宰相殿。好きな女が居るのに、普通、他の女では立ちませんよ?」
その言葉に、ヴィンセントは少しだけ反応して、言い返す。
「おまえたちな・・・」
その時、執務室のドアがノックされる。
返事をすると、1人の女性が入って来た。
「ごきげんよう。お兄様♪」
メリーアン王女が執務室に入ってくるのは、初めてのことだった。ヴィンセントは首をかしげる。
「どうした?珍しいな、お前から来るなんて。」
突然の王女の登場に、その場に居た全員が静まり返る。丁寧にお辞儀をすると、王女は可愛らしい顔を兄王に見せて言った。
「お兄様に、お願いがあって参りましたの。」
「なんだ?話を聞こう。」
ヴィンセントは、机の上の書類を片付ける。立ち上がって、応接セットの方に歩いて行く。執務室まで来て話があるというのだから、何か大事な話しなのだろうと身構える。お互いにソファーに座ると、メリーアン王女は言った。
「私のお友達がね、学校を作りたいと言うの。」
執務室に居た、文官、宰相が驚いて聞き入る。
「学校?」
「王立女学園を、この王都につくりたいの。」
そこで、文官のアデルが口を挟む。
「メリーアン王女。わたくしの方から、少し宜しいでしょうか?」
「はい。」
「その、学校を作りたいと言っている男は、誰です?お友達と仰いましたが。」
「女性です。」
その瞬間、ヘンドリックが声を上げた。
「女性じゃと?女性に学校など作れるものか!」
メリーアンが、ヘンドリックを睨みつける。
「彼女は、とても優秀な女性よ。3年間の留学を得て帰国後は学校をつくるべく、あちこちに声をかけて協力を呼び掛けたり、さらなる勉学にも励んでいるわ。とても聡明で見識も広く、男性にも劣らない、強く素晴らしい女性ですわ!!」
ヘンドリックの目が、凝視するように固まる。
王女は、ヘンドリックから目を離さなかった。
「彼女の話を、1度で構いませんので、聞いて頂けませんか?」
「聞かんでよろしい!!」
ヘンドリック宰相が叫んだのを見て、その場に居た全員が、少し驚く。ヴィンセントが口を開いた。
「ヘンドリック、どうしたんだ?そんなに興奮して。まぁ、メリーアンがそこまで言うんだ。話を聞くだけでもいいだろう?」
「そうですよ。王女のご友人ということは、それなりの爵位もおありでしょう?留学されていたのであれば、面白い意見も聞けそうではないですか?」
アデルも賛成した。
「嬉しいわ♪では早速!実は今日、調べ物がしたいというのでお城の図書室に呼んでいるの!」
「なりません!なりませんぞ!!」
ヘンドリックは、目を血走らせて怒鳴り、部屋を出て行ってしまった。
ヘンドリックは、図書室に向かい、王女様も友人を呼びに行くために向かう。それに、ヴィンセントも同行した。メリーアン王女は、廊下を歩きながら、ヘンドリックに言う。
「ヘンドリック!彼女の考えは素晴らしいと思うわ。どうして、彼女の話を聞いてあげないの?」
王女の必死の説得に、ヘンドリックは何も答えない。結構な老体なのに、かなりのスピードでスタスタと歩いて行く。
図書室に辿り着くと、ヘンドリックは、広すぎる図書室の中を探し回った。王女様も、キョロキョロと探し歩く。
ヴィンセントは、時計に目をやる。
いつもの時間よりも、だいぶ早い。
同じ時間に、何度も足を運んだが、彼女が現れることは無かった。それなのに、自然と足が、いつもの場所に向く。いないと分っていても、すがるような気持ちのまま。
左に曲がって5列目の、誰も行かない古い本の匂いが漂う、その奥。静かに、そこへ行く。
薄暗い図書室の、大きな窓から陽射しが差し込んでいて、窓辺にある長椅子に。
そこには、
10日ぶりに見る、彼女がいた。
ヴィンセントは、彼女の頭を撫で続けていた。
ツヤツヤでサラサラの髪を、指に絡ませたりして撫でていると、とても穏やかな気持ちになっていた。
ソフィアは、おなかの奥がジンジンするのを感じながら、大きな腕に抱かれて、ボーっと考えていた。
まさか自分が、雰囲気に飲まれて男性と体の関係を持つとは、想像もしていなかった。彼とのキスも、何もかもが嫌じゃなかった。むしろ、何もかもが気持ちよくて、こうして抱き合っているのでさえも、心地いい。
それとともに、一線を越えてしまったことで、これから、この人とどう接したら良いのか、戸惑いを感じていた。せっかく、親しい友人ができたのに、こうなってしまっては、もう友人には戻れない・・・。
まどろむような空気の中、彼が言った。
「名前を、教えてくれないか?」
そう言われて、見上げると、優しい目で綺麗な顔がそこにあった。
「私・・・」
そのまま目を逸らして、何も言えなくなる。
彼は、そっと私を抱きしめて言う。
「そうだな。私から名乗ろう。私は、」
「待って!待って言わないで!」
慌てて制止して、彼の口を両手で抑えつける。彼が驚いた顔で、私を見た。
「・・・・」
不安と混乱で、頭が一杯になる。彼がどこの誰なのか知ってしまえば、私は名乗らざるおえない。でも、これは1度の過ちというものだ。
彼の大きな手が、私の両手を掴んで、抑えていた口から離される。
「何故だ?名前を知らなければ、名を呼ぶことが出来ない。」
「わ、わかったわ。じゃぁ、次回、次に会った時にしましょう?」
彼のとんでもなく甘い言い方と、色気にほだされそうになった。必死で拒否する。
「今はまだ・・・もう少しだけ、あなたとは、このままがいいの!」
その時だった。部屋のドアをノックする音が響く。
ビクッ!と驚いて体が震える。
ヴィンセントは、上半身を起こして、扉の方に向かって声をかけた。
「ノアか?」
すると、ドアの向こうから返事があった。
「はい。お時間にございます。会議室で皆様お待ちです。」
時計を確認する。
会議の時間から30分ほど過ぎていた。
マズイ・・・すっかり忘れてしまっていた。
「解った。すぐに行く。もう少し待っていてもらってくれ。」
行かなくては・・・そう思って、彼女を振り返って見ると、私を見上げる、あどけない瞳に心を持って行かれそうになる。
何も纏っていない真っ白い肌を隠そうと、布団を引っ張り上げて、亜麻色の長い髪がキラキラと陽の光に反射して、彼女を包み込んでいた。そうして居るだけで、綺麗で可愛くて・・・欲しくなる。
離れたくない。
しかし、そうゆうわけにも行かない。政務をすっぽかすわけには行かないのだ。
「すまない。行かなくては・・・。」
彼女の頬を撫でながら、そう言っておいて・・・・動けずにいると、彼女は笑った。
「お仕事に戻って。私も、もう行かなきゃ。」
その笑顔が、いつもの屈託のない笑顔だったから、ホッとしてヴィンセントも微笑んだ。
「おまえは、もう少し、ここでゆっくりしていると良い。体は大丈夫か?」
「うん、ありがとう。大丈夫だよ。」
それが、最後だった。
その後、会議が終わって部屋に戻ると、彼女は居なかった。
その翌日、翌々日・・・5日後、
何度、図書室に行っても、彼女に会えることは無かった。
◇◇◇◇◇
「陛下。聞いてますか?」
ヴィンセントは、少しボーっとしていた。
「あぁ、すまん。なんだ?」
文官のアデルが、目を細めてヴィンセントを見る。
「陛下・・・ここ最近、変ですよ?それに、午後の決まった時間になると休憩に消えますけど、どちらへ?」
「・・・私も、1人になりたい時だってある。」
ヴィンセントはアデルを横目に見てから書類を、トントンと整える。
そこへ、書類の点検をしていたヘンドリックが、口を挟む。
「陛下、お言葉ですが、夜会以降、夜伽をしておりませぬ。気になる女性ができたとて、見つからぬのでは居ないも同義じゃ。今夜、夜伽をしていただきますぞ。」
ヘンドリックの言葉に、アデルが答える。
「宰相殿。好きな女が居るのに、普通、他の女では立ちませんよ?」
その言葉に、ヴィンセントは少しだけ反応して、言い返す。
「おまえたちな・・・」
その時、執務室のドアがノックされる。
返事をすると、1人の女性が入って来た。
「ごきげんよう。お兄様♪」
メリーアン王女が執務室に入ってくるのは、初めてのことだった。ヴィンセントは首をかしげる。
「どうした?珍しいな、お前から来るなんて。」
突然の王女の登場に、その場に居た全員が静まり返る。丁寧にお辞儀をすると、王女は可愛らしい顔を兄王に見せて言った。
「お兄様に、お願いがあって参りましたの。」
「なんだ?話を聞こう。」
ヴィンセントは、机の上の書類を片付ける。立ち上がって、応接セットの方に歩いて行く。執務室まで来て話があるというのだから、何か大事な話しなのだろうと身構える。お互いにソファーに座ると、メリーアン王女は言った。
「私のお友達がね、学校を作りたいと言うの。」
執務室に居た、文官、宰相が驚いて聞き入る。
「学校?」
「王立女学園を、この王都につくりたいの。」
そこで、文官のアデルが口を挟む。
「メリーアン王女。わたくしの方から、少し宜しいでしょうか?」
「はい。」
「その、学校を作りたいと言っている男は、誰です?お友達と仰いましたが。」
「女性です。」
その瞬間、ヘンドリックが声を上げた。
「女性じゃと?女性に学校など作れるものか!」
メリーアンが、ヘンドリックを睨みつける。
「彼女は、とても優秀な女性よ。3年間の留学を得て帰国後は学校をつくるべく、あちこちに声をかけて協力を呼び掛けたり、さらなる勉学にも励んでいるわ。とても聡明で見識も広く、男性にも劣らない、強く素晴らしい女性ですわ!!」
ヘンドリックの目が、凝視するように固まる。
王女は、ヘンドリックから目を離さなかった。
「彼女の話を、1度で構いませんので、聞いて頂けませんか?」
「聞かんでよろしい!!」
ヘンドリック宰相が叫んだのを見て、その場に居た全員が、少し驚く。ヴィンセントが口を開いた。
「ヘンドリック、どうしたんだ?そんなに興奮して。まぁ、メリーアンがそこまで言うんだ。話を聞くだけでもいいだろう?」
「そうですよ。王女のご友人ということは、それなりの爵位もおありでしょう?留学されていたのであれば、面白い意見も聞けそうではないですか?」
アデルも賛成した。
「嬉しいわ♪では早速!実は今日、調べ物がしたいというのでお城の図書室に呼んでいるの!」
「なりません!なりませんぞ!!」
ヘンドリックは、目を血走らせて怒鳴り、部屋を出て行ってしまった。
ヘンドリックは、図書室に向かい、王女様も友人を呼びに行くために向かう。それに、ヴィンセントも同行した。メリーアン王女は、廊下を歩きながら、ヘンドリックに言う。
「ヘンドリック!彼女の考えは素晴らしいと思うわ。どうして、彼女の話を聞いてあげないの?」
王女の必死の説得に、ヘンドリックは何も答えない。結構な老体なのに、かなりのスピードでスタスタと歩いて行く。
図書室に辿り着くと、ヘンドリックは、広すぎる図書室の中を探し回った。王女様も、キョロキョロと探し歩く。
ヴィンセントは、時計に目をやる。
いつもの時間よりも、だいぶ早い。
同じ時間に、何度も足を運んだが、彼女が現れることは無かった。それなのに、自然と足が、いつもの場所に向く。いないと分っていても、すがるような気持ちのまま。
左に曲がって5列目の、誰も行かない古い本の匂いが漂う、その奥。静かに、そこへ行く。
薄暗い図書室の、大きな窓から陽射しが差し込んでいて、窓辺にある長椅子に。
そこには、
10日ぶりに見る、彼女がいた。
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