王様の愛人

月野さと

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15話

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 その日、ソフィアは友人のセリーヌ・ベルモント伯爵家に向かった。
 背中の紋章を隠すために。

 この国で、魔法を扱える人間は、王族と貴族の一部の人間だけである。
 そして、魔法自体は、生活魔法が殆どで、お湯を沸かしたり、明かりを付けたりなど、そんな感じのものだった。
 その魔法を使って、化粧品や医薬品作りなどをしている貴族がいた。
 それが、ベルモント伯爵家だ。

「セリーヌ!」
 ベルモント伯爵家に到着すると、セリーヌが嬉しそうに出迎えた。
「ソフィア!どう?お城の生活には慣れた?」
「えぇ、やっと慣れてきたわ。」
 挨拶もそこそこに、セリーヌの部屋に通された。

 ニコニコ微笑みながら、セリーヌはテーブルに化粧品や医薬品を並べていく。
「これが、シミやキズを消す飴。こっちが、肌全体を美しく思った色に代えてくれるパウダーよ。肌のどこでもいいからワンタッチするだけで、体の色が変わるのよ。で、何を消したいの?キズ?シミとか?」
 
 セリーヌの目をしっかりと見つめてから、深呼吸して言う。
「王家の紋章を消したいの。もしくは隠したいのよ。」 

 とてつもなく驚いた様子だったけれど、セリーヌはソフィアの背中を実際に確認してから、言った。
「私は、隠し通すなんて反対よ。まぁ、でも・・・とりあえず今は協力するわ。」
「ありがとう。セリーヌ。」
「でもね、ただの痣ではないから、消えるかどうか・・・・。」
 そう言って、片っ端から試してみることにした。

 結論から言うと、王家の紋章は魔法では消すことも隠すことも出来なかった。
 しかし、化粧品で誤魔化せた。結局はアナログだなぁ~とガッカリしていると、セリーヌが言った。
「一瞬で体に化粧をするという魔法があるわ♪」
 1度施した化粧を何度でも蘇らせる、魔法の筆を購入した。早速、セリーヌに化粧をしてもらって、魔法の筆に呪文をかける。

「ん~。良い感じ♪あと、気を付けないと、お風呂とか汗などで少しずつ化粧が取れてしまうわ。」
 できばえを、何度も2人で確認しながら、頷く。
「毎日ちゃんと塗る様にするわ。ありがとう!」
 嬉しくて満面の笑みでお礼を言うと、セリーヌは少し恥ずかしそうに、はにかんで言った。  

「でも、ソフィア。相当、陛下に愛されたのね。体中のキスマークが物語ってるわ。」

 そう言われて、改めて自分の体を見る。
 おなかや、太腿などのキスマークは隠せても、首すじは隠しきれない・・・。
 恥ずかしくてストールを巻く。

「じゃぁ、またね。」 

 そうして、お城へと帰った。
 


◇◇◇◇




 城門を潜るあたりから、少しいつもよりも兵士たちがバタバタしていることに気がつく。
 お城に戻ると、尚更、兵士たちに活気がある様子だった。
 どうしたのだろう?
 
 自室に入ると、女官がやってきた。

「ラデシュの砦で戦闘になりそうなのです。」
 ラデシュの砦は、ラトニア王国とモンテカリブ王国、そしてセルバシア帝国の3つの国の国境にある。ソフィアが留学していたモンテカリブ王国とラトニアは友好国であったが、セルバシア帝国とは、ここ10年ほど冷戦状態にあった。

 留学していたモンテカリブ王国は小国であるので、なんだか心配になった。
 知り合ったみんなは大丈夫だろうか? 
 
 と、そこへ、祖父と陛下、そして王女様が部屋にやってきた。
 3人そろって何事かと驚く。

「ソフィア。おまえというやつは!どこへ行っておったのじゃ!!この忙しい時に、出歩きおって!」
「?お爺様?・・・陛下?何か御用でしたか?」
 少し苛立ちぎみに、祖父は部屋の中に入ってくるなり言った。
「確認しに来たのじゃ。」
「・・・何を?」
「おまえの背中に、王家の紋章が現れていないか、確認するんじゃ。」
 背筋が一瞬で凍るような感覚。チラッと王女様を見ると、王女は無表情だった。
 女官2人が、ソフィアの両脇に来る。そして、陛下が言った。
「形式的なモノだ。良いか?ソフィア。」
 申し訳なさそうに言う陛下を見つめて、静かに頷く。

「それでは、私がお手伝いしますわ。」
 王女はソフィアの背後に回ると、「服を少しずらすわね」と言って、後ろにあるボタンに手をかけた。女官たちは、前が見えないようにするために、ストールを胸元に当ててくれた。
 そうして、背中だけが見えるようにドレスを脱がし、ずらした。

「・・・」
 王女は、ソフィアの背中を見て、黙り込む。
 そこへ、「失礼する」と言って、陛下が背後に回り、祖父もそれに続いた。

 全員が、しばし無言になる。
 ため息をついて、最初に発言したのは祖父だった。
「・・・紋章は、現れなかったようですな・・・」

 そう言われて、ほうっっと息を吐く。
 良かった、上手く誤魔化せたようだ。

 メリーアンがドレスを元に戻してくれて。居住まいを正す。
 ヘンドリックが、改めて言った。
「とても残念じゃが、ソフィアは陛下の妃にはなれんようじゃ。」

 そうよ。私は愛人としてココにいるの。自由を手に入れて、自分の夢を実現させるため。愛の無い結婚をするためなんかじゃない。

 そっと傍にいる陛下を見上げると、彼は、眉間に皺を寄せて、酷く傷ついた顔をしていた。その表情を見て、ズキンと胸が痛む。
 ・・・なぜ、あなたはそんな顔をするの?

 陛下は、何も言わずに、そのまま部屋を出て行った。
 
 ・・・ウソをついて、悪い事をした気分になる。
 でも、仕方がないことだと自分に言い聞かせた。だって、私は、愛人をもつ男性とは結婚したくないのだから。

 それなのに、私は・・・。
 陛下を追いかけたい気持ちにかられる。
 どうしてなのだろう。これで、良い。これで良かったはずなのに。 


「・・・お爺様。100人も愛人がいれば、どなたかには現れなかったのですか?」
 ヘンドリックは、頷く。
「現れていたら、既に王妃が決まっておる。我が国の王妃には、王家の紋章を授かる必要があるんじゃ。」
 ソフィアは、首をかしげて祖父に質問する。
「王家の紋章が、そんなに大事なものなの?」
 チラッと王女様を見てから、ヘンドリックは言う。
「重要じゃ。何百年も、我が国は王家の紋章を得た女性を王妃にしてきたんじゃ。王と交わり性を受けることで、体に浮かびあがるんじゃが、しかし、おまえのように性を受けても、誰もが紋章を発現させるわけでは無いんじゃ。平和の神であるエイレーネが認めた女性のみだと言われておる。」
 そこで、祖父はソフィアをじっと見た。
「?」
「エイレーネが認めた女性。すなわち、平和を壊さない女性、無償の愛を誓える女性、はたまた王妃の素質がある女性であるとも言われておる。・・・そう考えると、確かにおまえでは無かったやもしれんの。」
 なんか、微妙に祖父になじられた気持ちになる。複雑だ。

「そんなの迷信でしょう?」
 古い昔からの迷信。
「そうとは言い切れんのじゃ。実際に、前王妃には紋章が現れんかった・・・」
「え?」
 そうだったの?
「ヴィンセント国王が即位した時、おまえは隣国に居たのじゃったな。」

 祖父は、ヴィンセント陛下が、どのようにして王になったのか話し始めた。
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