王様の愛人

月野さと

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14話

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 窓の外が白み始めて、朝なのだと気がつく。
 
 腕の中で寝息を立てるソフィアに、視線を落とす。

 やっと、愛する人を自分のものにしたという安堵感と充足感に浸る。
 脱力しきっているソフィアの体を、引き寄せて抱きしめる。彼女の匂い、柔くて温かな感触。ずっと、ずっと、こうして居たいと、心から思う。

『ナカはダメ!』
 そう言われたことを思い出し、震えるほどに悲しくなる。
 だが、私がおまえを手に入れる為には、もう、こうするより他に無いだろう・・・? 
「・・・ごめん」
 小さい声で呟いて、すがるように抱きしめる。
 ソフィア、おまえに愛されたい。求められたい。
 例え、おまえの心の中に思う男が居るのだとしても。誰かに、とられたくはない。髪の毛一本だって、他の男に触れさせないで欲しい。

 あの時。
 名前も、どこの誰かも知らぬまま、初めてキスをして、抱き合ったのは、互いに、惹かれ合ったからでは無いのか?
 2度目も、確かに愛人になるように言ったが、私を少し位は好いてくれていたのではないのか?
 昨夜も、最初こそ、中に出すことを嫌だと言っていたが、もう1度と体を求めると、素直に体を開いて、とろけるように愛し合った。抜かずの3回目と思ったところで、ソフィアは意識を手放してしまったが。

 腕の中で眠る、愛しいひとを眺めながら、背中に回した手で、そうっと背中をさする。

 昨夜、2回とも魔力を込めて、しっかりと彼女の膣内なかに射精した。
 これで、彼女の背中には王家の紋章が現れるはず。

 早く見たいな。

 私のものになったという、その証を。

 ヴィンセントは目を閉じて、ゆっくりと睡魔に襲われていく。


 急に、部屋の扉の外に、誰かがやってきたのを感じる。

 素早くベッドを出て、ガウンを羽織り、扉の前まで歩いて行くと、1度ベッドの方を振り返って、ソフィアが寝ているのを確認してから、扉を開けた。

 ガチャリと扉が開いたので、扉の外に居たグレイ騎士団長が驚く。
 扉の前では、グレイ騎士団長と、騎士が3名ほど集まっていた。
「陛下・・・お目覚めでしたか。」

 ヴィンセントは、扉を少しだけ開けたままの状態で、外を確認すると言った。
「何かあったのか?」
 低く静かな声だったので、それに合わせてグレイも静かな声で返事をする。
「はい。ラデシュの砦から知らせが入り、敵国の動きがあったようなのです。」
「・・・解った。すぐに執務室に行く。」

 
 早朝から、城内は慌ただしくなった。


◇◇◇◇


 ソフィアが目を覚ましたのは、午前10時頃だった。

 ベッドの中で、暫くボーーーっとしていると、ドアがノックされて女官達が入って来た。
 果物や軽食、温かいお茶を並べていってくれる。体が重くて、億劫で起き上がれずに布団の中にいると、「着替えを手伝いましょうか?」と言うので、もう少し寝ていたいと伝えると、着替えだけを置いて「また来ます」と言ってみんな出て行った。

 女官達が部屋の外に出て行ってから、ひと眠りした。
 再び11時頃に目を覚ますと、1人でベッドから降りる。
 
 見る限り、胸も、首も、腕も、お腹も、太腿にも、体中にキスマークがあった。人に見られるのが恥ずかしくなり、1人で着替えを始める。
 なんとか自力でコルセットを絞めようとしている所で、再びドアをノックされる。

「ソフィア様、王女様がいらっしゃっております。」
 女官がそう言うと、続けて王女様の声がした。
「ソフィア!中に入って良いかしら?」
 コルセットの紐を掴んだままで、慌てふためく。
「えっ?王女様?!い、今、着替えをしておりまして、少しお時間を・・・・」
「あぁ、そうなのね。では私が手伝ってさしあげるわ。」
「えぇ?!」
 慌てる私に、お構いなしの王女様は、部屋へと入って来た。
 許可の得ていない女官達は、部屋の中には入って来なかった。

「お、王女様!!申し訳ございませんっ、このようなお見苦しい姿でして・・!」
 慌てて後ろを向くも、王女はニコニコ笑って近づいて来る。
「女性同士だもの、さぁ、私が手伝ってあげるわ。」
 王女様に手伝ってもらうとか、ありえないと思いつつも、あまり拒否するのも悪いと思い、背中を向けて、髪を前に持ってくる。

「・・・・っつ!!!そ・・・ソフィア?!」
 王女が悲鳴のような声を上げた。
 驚いて振り返ると、王女様が口を押えて驚愕している。
「??・・・どうかされましたか?」
 
 メリーアンは、ソフィアに駆け寄ると、コルセットを絞めてくれるどころか、思いっきり外された。

 そして、私の背中に手を当てて、指でなぞる。

「これ・・・これはっ・・!ソフィア。あなた、王家の紋章を授かったのね?」

「・・・・・ぇ?」

 王家の紋章・・・?

 慌てて2人で鏡を覗き込む。
 王女様が手鏡を持ってくれて、なんとか後ろを確認すると、肩甲骨の間に入れ墨のように模様があった。

「これ・・・・王家の紋章??」
 信じられなくて、自分の指で触れてみる。でもデコボコもしていないし、どうやら絵が浮き出た感じだ。
「ソフィア。王家の紋章を授かった女性は、王妃になる。知ってるわよね?」
 ・・・・知っている。というか、王妃様には王家の紋章があるとしか知らないかもしれない。

「ラトニア王家はね、平和の神であるエイレーネの力を受け継いでいるそうなの。だから、王家の男子に抱かれて、エイレーネ神が認めた運命の相手には王家の紋章が現れるそうよ。」

 運命の相手?私が・・・?

 王妃?!

「・・・困ります。」
 暗い顔で呟いた私に、王女様は私の肩に手をやってから言う。
「お兄様を好きになれないかしら?」
 それに、首を振って答える。
「今の私には、自分の為に、女性の為に、学校をつくるという夢があるんです。今、本当にそのことだけに没頭したいんです。」
 ストールを掴むと、私の肩に掛けながら王女様が言う。
「王妃になれば、その夢は簡単に叶うわ。」
 
 確かにそうなのである。この国で2番目の権力を持つことになる。夢を叶えるなら、このまま、王家の紋章を見せて、王妃になるのが良いのだろう。だけど・・・・。

『好きだ。愛している。』
 そんなの、絶対に嘘だ。

「私、夫となるべく男性とは、愛し愛される存在でなければ嫌です。」

 何より、国中から選りすぐりの100人もの、才色兼備を愛人にしてはべらせてきた王様だ。
 女性らしくなく、従順でもなくて、男性の後ろを1歩下がって歩くのはムリで、男性の横に立ちたい私だ。

「それに、王妃ではなく、学校の創立者として君臨したいのでもなく。教壇に立ちたいのです。」

「でも、でも、ソフィア。あなたの背中には王家の紋章が現れたのよ?周囲は放っておかないわ。もう、あなたの自由になんてムリよ。」

 少し考えてから、メリーアン王女に頭を下げた。
「王女様。この背中の紋章は、見なかったことにして頂けませんか?」
「え?」
「この紋章は、なんとか消すか隠し通します。この国に学校を作ったら、お城を出て行きます。私・・・やっぱり、愛の無い結婚は出来ません!」
「ソフィア・・・・!」
「私・・・愛のある結婚も、自分の夢も、どちらも捨てられません!!」
 我儘を言っているのは、百も承知だ。だけど、それが正直な気持ちなんだ。最後の最後まで諦められない。
 自分が自分らしくある為に、諦めたくない。

「・・・・解ったわ。」
 王女は、頷いた。
 ソフィアは、まだ隣国の王子のことが忘れられないのだと、王女は思った。紋章の事は、そう長く隠し通せないだろうとも考え、自分からは黙っていることを決めた。

 ソフィア自身は、陛下に惹かれている自分に気がついていなかった。
 恋に夢を抱いて、夢を現実にする為に邁進していた。

 どこまでも鈍感で、少年のような女であった。


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