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32話
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お城に帰ると、祖父が、目を吊り上げて待っていた。
「おまえは何を考えておるんじゃ!!」
もはや、祖父の怒鳴り声は、いつもの事のように思えてくる。散々、祖父に説教されて、侍女達に「湯浴みのお時間です」と言われる。黙ってそれに従い、湯浴み後に体のマッサージを受ける。
そこで、私が生理になってしまったことに、侍女が気付いた。私は、それを見て心底ホッとした。これで、体調が整うまでは夜の営みは無くなるので、妊娠することもない。
月のモノが来たと言う知らせは、女官から陛下に伝えられる決まりになっている。
就寝着に着替えてから、お茶を飲み、机に置かれている本や書類に、目が行く。
それらは、妃になる女性が、結婚式までに知るべき事が書かれてあるものだった。
侯爵令嬢として、小さい頃から教育をうけているので、ある程度は知識もある。とはいえ、王族のみが知ることや、王族としての心得や公務など、学ばなければいけない事は他にもある。本来なら、もっと忙しいはずなのだが、今、ソフィアが1番求められていることは、後継者を産む事だった。
分かっている。分かってはいるけど、今までの自分のして来た事を、急に全てを手放すなんてことは出来なかった。
女官が部屋に入ってきて、告げた。
「陛下より、本日は部屋でゆっくり休むようにとのことでした。」
・・・・つまり、今日は、部屋に来なくていいし、私の部屋にも来ないから1人で寝て良いということだ。
「わかりました。」
そう返事をすると、全員部屋を出て行った。
ヴィンセントと心が通じ合ってから、別々に寝るのは、始めてだった。
自分のしたこととはいえ、嫌われたのではないか?と不安になる。
避妊薬を飲んでいたと知った彼は、どう思っただろう?
「・・・」
すくっと、ソフィアは立ち上がって、ガウンを羽織る。
ちゃんと、話しをしなきゃ。
部屋の扉を開けて、廊下を歩いていくと、女官に声をかけられた。
「妃殿下。どちらへ?」
「陛下の所へ。お話があるの。」
すると、女官2人が顔を見合わせてから、ソフィアに言った。
「それでは1度、お部屋にお戻りくださいませ。陛下にお知らせして参ります。」
その妙な感じに、疑問を感じたけれども、一応頷く。
部屋で待っていると、女官がやって来て言った。
「本日は、陛下はお会いになれないそうです。明日、お時間を作ってくださるとのことでした。」
「・・・わかりました。」
会いたくないのかもしれない。
もう、私には幻滅したのかもしれない。
ベッドに入って、なかなか寝付けずにいた。
すると、どこからか、女性の声がするような気がした。
「・・・?話し声?」
気になって、ベッドから降りて、時計を見ると、夜の10時だった。
そうっと部屋の扉を開ける。
廊下から、やはり、微かに女性の声がする。
・・・話し声と、笑い声。
そうっと、歩いて行くと、聞こえてくるのは、客間からだった。
その部屋は、陛下が以前、愛人と情事をする部屋とされていた。
締め忘れたのか、わずかに扉が開いている。
扉の前まで来ると、ハッキリと声が聞こえる。
「おかわいそうな陛下。2度も、愛する女に騙されるなんて。」
少し間があってから、陛下の声がする。
「2度ではない・・・」
「ふふふ。強がるところも、可愛らしいわ。・・・ねぇ、陛下。」
聞こえてくる女性の声が、艶めかしくて男性を誘っているように聞こえる。
「ねぇ、陛下。はじめて私と交わった時のこと、覚えておりますか?」
「・・・なんだ急に」
「ふふっ、そんなに顔を赤らめて、憶えてらしたのね。そうよね。陛下にとって、私が初めての女だもの。」
部屋の中から、服の擦れる音と、ギジリとベッドかソファーの軋む音がする。
「慰めて差し上げるわ。あなたは、たくさんのことを抱え込みすぎてる。たまには、羽目を外していいのよ。」
「ルイーゼ・・・」
「陛下は、何もしなくていい。酷い女の事なんて忘れさせてあげる。私が何も考えられなくなるくらい、気持ちよくさせてあげる。」
バッタッーーーーーン!!
気が付いたら、私は思いっきり部屋の扉を開けていた。
部屋の中には、ソファーに座る陛下に、今にも押し倒そうとする妖艶な女性がいた。
「へ、陛下にお話があります!!」
驚いた顔の陛下と、女性は私を見て目が点になっている。
「わたくしは、陛下の…妃です!」
部屋に乱入してしまったものの、どうしたら良いのかわからず、必死に言った。
「どちらの御令嬢か存じ上げませんが、わ、私の陛下に、触らないで!」
握りしめた両手は、汗で湿っていた。体がブルブルと震えて、怒りからなのか恐怖からなのか、わからない。
「オホホホホホ!なんて可愛らしいご令嬢かしら!」
女性は笑って、するりと、陛下の首に腕を回し、ソフィアを見る。まるで、見せつけるかのような。
「お妃様。独り占めしたかったのなら、なぜ避妊薬を?」
「そ、それは・・・」
「貴方が拒否したから、陛下は他の女と子作りさせられるの。」
・・・私が、拒否したから?・・・私が、陛下にそうさせてる?
結婚式までは隠し通せる。そう思っていた。自分が悪い。
下を向いて、何も言えずいると、ヴィンセントが言った。
「ルイーゼ、今日はこの部屋に泊まって行って良い。私はソフィアと話をする。」
ルイーゼと呼ばれた女性は、すんなりと立ち上がると、ニッコリ笑う。
「残念だわ。陛下の体、1度覚えちゃうと他の男じゃ満足できないのよね。久しぶりに楽しめると思ったのに。まぁ、また呼んでくださいな!」
ヴィンセントは立ち上がると、ソフィアの背中に腕を回して、一緒に部屋を出た。
「おまえは何を考えておるんじゃ!!」
もはや、祖父の怒鳴り声は、いつもの事のように思えてくる。散々、祖父に説教されて、侍女達に「湯浴みのお時間です」と言われる。黙ってそれに従い、湯浴み後に体のマッサージを受ける。
そこで、私が生理になってしまったことに、侍女が気付いた。私は、それを見て心底ホッとした。これで、体調が整うまでは夜の営みは無くなるので、妊娠することもない。
月のモノが来たと言う知らせは、女官から陛下に伝えられる決まりになっている。
就寝着に着替えてから、お茶を飲み、机に置かれている本や書類に、目が行く。
それらは、妃になる女性が、結婚式までに知るべき事が書かれてあるものだった。
侯爵令嬢として、小さい頃から教育をうけているので、ある程度は知識もある。とはいえ、王族のみが知ることや、王族としての心得や公務など、学ばなければいけない事は他にもある。本来なら、もっと忙しいはずなのだが、今、ソフィアが1番求められていることは、後継者を産む事だった。
分かっている。分かってはいるけど、今までの自分のして来た事を、急に全てを手放すなんてことは出来なかった。
女官が部屋に入ってきて、告げた。
「陛下より、本日は部屋でゆっくり休むようにとのことでした。」
・・・・つまり、今日は、部屋に来なくていいし、私の部屋にも来ないから1人で寝て良いということだ。
「わかりました。」
そう返事をすると、全員部屋を出て行った。
ヴィンセントと心が通じ合ってから、別々に寝るのは、始めてだった。
自分のしたこととはいえ、嫌われたのではないか?と不安になる。
避妊薬を飲んでいたと知った彼は、どう思っただろう?
「・・・」
すくっと、ソフィアは立ち上がって、ガウンを羽織る。
ちゃんと、話しをしなきゃ。
部屋の扉を開けて、廊下を歩いていくと、女官に声をかけられた。
「妃殿下。どちらへ?」
「陛下の所へ。お話があるの。」
すると、女官2人が顔を見合わせてから、ソフィアに言った。
「それでは1度、お部屋にお戻りくださいませ。陛下にお知らせして参ります。」
その妙な感じに、疑問を感じたけれども、一応頷く。
部屋で待っていると、女官がやって来て言った。
「本日は、陛下はお会いになれないそうです。明日、お時間を作ってくださるとのことでした。」
「・・・わかりました。」
会いたくないのかもしれない。
もう、私には幻滅したのかもしれない。
ベッドに入って、なかなか寝付けずにいた。
すると、どこからか、女性の声がするような気がした。
「・・・?話し声?」
気になって、ベッドから降りて、時計を見ると、夜の10時だった。
そうっと部屋の扉を開ける。
廊下から、やはり、微かに女性の声がする。
・・・話し声と、笑い声。
そうっと、歩いて行くと、聞こえてくるのは、客間からだった。
その部屋は、陛下が以前、愛人と情事をする部屋とされていた。
締め忘れたのか、わずかに扉が開いている。
扉の前まで来ると、ハッキリと声が聞こえる。
「おかわいそうな陛下。2度も、愛する女に騙されるなんて。」
少し間があってから、陛下の声がする。
「2度ではない・・・」
「ふふふ。強がるところも、可愛らしいわ。・・・ねぇ、陛下。」
聞こえてくる女性の声が、艶めかしくて男性を誘っているように聞こえる。
「ねぇ、陛下。はじめて私と交わった時のこと、覚えておりますか?」
「・・・なんだ急に」
「ふふっ、そんなに顔を赤らめて、憶えてらしたのね。そうよね。陛下にとって、私が初めての女だもの。」
部屋の中から、服の擦れる音と、ギジリとベッドかソファーの軋む音がする。
「慰めて差し上げるわ。あなたは、たくさんのことを抱え込みすぎてる。たまには、羽目を外していいのよ。」
「ルイーゼ・・・」
「陛下は、何もしなくていい。酷い女の事なんて忘れさせてあげる。私が何も考えられなくなるくらい、気持ちよくさせてあげる。」
バッタッーーーーーン!!
気が付いたら、私は思いっきり部屋の扉を開けていた。
部屋の中には、ソファーに座る陛下に、今にも押し倒そうとする妖艶な女性がいた。
「へ、陛下にお話があります!!」
驚いた顔の陛下と、女性は私を見て目が点になっている。
「わたくしは、陛下の…妃です!」
部屋に乱入してしまったものの、どうしたら良いのかわからず、必死に言った。
「どちらの御令嬢か存じ上げませんが、わ、私の陛下に、触らないで!」
握りしめた両手は、汗で湿っていた。体がブルブルと震えて、怒りからなのか恐怖からなのか、わからない。
「オホホホホホ!なんて可愛らしいご令嬢かしら!」
女性は笑って、するりと、陛下の首に腕を回し、ソフィアを見る。まるで、見せつけるかのような。
「お妃様。独り占めしたかったのなら、なぜ避妊薬を?」
「そ、それは・・・」
「貴方が拒否したから、陛下は他の女と子作りさせられるの。」
・・・私が、拒否したから?・・・私が、陛下にそうさせてる?
結婚式までは隠し通せる。そう思っていた。自分が悪い。
下を向いて、何も言えずいると、ヴィンセントが言った。
「ルイーゼ、今日はこの部屋に泊まって行って良い。私はソフィアと話をする。」
ルイーゼと呼ばれた女性は、すんなりと立ち上がると、ニッコリ笑う。
「残念だわ。陛下の体、1度覚えちゃうと他の男じゃ満足できないのよね。久しぶりに楽しめると思ったのに。まぁ、また呼んでくださいな!」
ヴィンセントは立ち上がると、ソフィアの背中に腕を回して、一緒に部屋を出た。
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