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第9話
しおりを挟む「綾瀬さん、今日も飲みに行きませんか?」
林さんと、桜井君が誘って来てくれた。
私たちは、すっかり仲良し?になってしまったようで、ランチの時間は4人で一緒に食堂へ行くようになっていた。
「申し訳ない。今日は用事があるんです。」
「えぇ~、じゃぁ、また週末に神崎さんの家に集合っていうのはどうです?」
「桜井。俺の家は溜まり場じゃないんだぞ?」
神崎さんは、4人で居る時は、会社でも殆ど敬語を使わなくなっていた。
「じゃぁ、また、4人でどこかに遊びに行くのはいかがでしょう?」
林さんが、楽しそうに提案する。
品川駅前の水族館、アートアクアリウム、六本木の美術館、映画館、四季劇場も良いなんて、みんなで希望を出し合う。
パートナー無し、独身でそれなりにお金ある我々は(笑)、休日をエンジョイすることで頭が一杯だった。
話しながら、神崎さんを目で追ってしまう。
あの夜の事は、お互い、無かった事のようにすごす。
会社での神崎さんは、クールでカッコよくて、いつも慎重・冷静で仕事も出来て、堂々とした風貌で、頼れる人に見える。
でも、私は知っている。
大事な親友の為なら、どんな地獄でも飛び込んで行く人。初めてホタルを見た時の、少年のような顔。無知な高校生にも、丁寧に話をしてくれる優しい人。
兄が親友と呼ぶ人は、本当に素敵な人だった。
私は、久しぶりに定時で会社を出て、六本木にある心療内科に向かう。
勘違いしないで欲しい。私は、精神的に病んではいない。
というか、震災で家族全員を失ったわりには、前向きに生きている方だと思う。
震災当時、ギリギリ未成年で、被災して家族全員を失った者として、たくさんの温かい支援に救われた。近所の知り合いやら、遠い親戚やらが、何かと調べて助けてくれたし、大学も無事に通って卒業できた。ありとあらゆる支援が私を救い続けた。
当時住んでいた、アパートの大家さんなんかは、大学卒業まで家賃はいらないとまで言ってくれたのだ。
被災地でメンタルケアをしていた先生と知り合い、東京に戻ってからも、こうして時々話をするように言われているのだ。
「被災者は、忘れた頃、数年後に心身症を発症する人もいる。」と先生が言うので、今では半年おきに話をしに行くようにしているだけだ。
まぁ、とにかく、私は“可哀そうな人”として、皆の優しさの連鎖に守られて生きて来た。
だから、頑張って来れたし、早い段階で“可哀そうな人”じゃなくて“恩返しできる人”になりたいと思えた。
「へぇ!それは、大変驚いたでしょう?」
心療内科の青山先生が言う。
神崎さんという、兄の親友に出会った話をした。
「はい。でも、なんか会えて良かったと言うか、なんか温かい気持ちになりました。私だけじゃないんだって、思えました。それに、兄の人生は短いものだったけれど、素敵な親友が居て、人生を謳歌して、すごく幸せだったんだなって思えました。」
青山先生は、ホッとしたように笑った。
「良かったです。」
カルテに何かを書き込みながら、先生は言った。
「予想もしていない、望んでもいない過去との遭遇は、あまり心身的には良くありません。」
先生は私の方に向きなおる。
「最近、被災地をテーマにした映画が公開されて、病院に来る人が増えました。綾瀬さんもメディアには一応気をつけてくださいね。まぁ、綾瀬さん自身が、見たいと思うのなら、問題はありません。」
私は、少し考えてから、答える。
「解りました。・・・そうですね。私もまだ、映像はキツイです。」
そこで、急に、タイムスリップした時の事を思い出す。
あれは、タイムスリップだったのか、夢だったのか・・・・解らないけれど、ちょっと思い出したくない。考えたくもない。
私の中では、酔って見た夢だという事にしている。
カウンセリングを終えて、食事をして帰ろうと思い、病院を出る。
そこへ、青山先生が白衣を脱いで出て来た所だった。
「あ、お恥ずかしい。次の予約まで1時間ほどあるので、夕食に行く所です。」
本来は、先生とはダメなんだろうけれど、言ってみる。
「私も、これから食事に行くところなんですけど、オススメあります?女性1人でも入りやすそうな所とか。もしくは、ご一緒にいかがですか?」
青山先生は、少し考えてから、言った。
「うーーん、じゃぁ、本当は患者さんとはダメなんですけど、ご一緒しましょう。」
青山先生と、2人で六本木駅付近まで歩きだす。
その時、少し離れた所を歩いていた3人が、私たちを見ていた。
私は、そのことに気が付いていない。
「あれ?」
部長秘書の林さんが、大きな声をだす。
「どうしたんすか?」
桜井君が立ち止まる。
「あれ、綾瀬さんじゃないですか?」
「うわ!なんかイケオジと2人で歩いてるー!!彼氏さんですかね?」
「え?!綾瀬さん、もう次の彼氏できたんでしょうか?」
「・・・でも、少し年が離れすぎてるような、あのイケオジ40代?」
「追跡します?」
桜井君と、林さんが盛り上がってきたので、ため息をつく。
「おいおい、プライベートなことだぞ。ほら、早く行かないと映画始まるぞ?」
神崎は、あきれ顔で2人を見る。
「そうでした!最近の話題作なんですよ~♬楽しみ~!感動するらしいです!」
桜井君は、パッと切り替えて歩きだす。
「私も気になってたんですよー。でも、これ恋愛ものらしいすが、桜井さんがこうゆうの好きだったとは意外です。」
林さんと桜井君が先を行く。
神崎は、振替って、見知らぬ男性と六本木の街に消えて行く、歩美を見ていた。
1時間ほどだったと思う。
青山先生と食事を終えて、六本木ヒルズの下まで歩いてくる。
「じゃぁ、綾瀬さん、またいつでも話に来てくださいね。」
「はい。じゃぁ、私はこっちなんで。」
先生に手を振って、踵を返した。
その時だった。
六本木ヒルズの方から、叫び声のような音が聞こえてきた。
そちらの方を向くと、少し人だかりができていた。
誰かがうずくまるようにしているのが見える。それを取り囲む人たち。
何かあったのかな?と2歩ほど歩いた時だった。
「神崎さん!神崎さん!しっかりしてください!!」
林さんの叫び声が、周囲に響いた。
・・・まさか。
と、思うより早いか否か、私は、走りだしていた。
そんな姿を見た青山先生も、一緒に走り出す。
「林さん!桜井君?!」
倒れこむ神崎さんを支える桜井君と、慌てふためく林さんがいた。
「どうしたんですか?・・・神崎さん!」
触れなくても分かる。彼は、ガタガタと手足を震わせて、ヒュ!ヒュ!と息をこぼして、脂汗を流して青ざめていた。
助けを求めるように、林さんが早口で話し始める。
「解らないんです!映画を見ていたら、急に!急に!神崎さんが、物凄い勢いで映画館を出て行って、追いかけて行ったら、急にこんな!!」
「と・・・とにかく、救急車!」
桜井君が言った時だった。
青山先生が、私の前に入り込んで、神崎さんに触れる。
「過呼吸だ。ちょっと失礼!聞こえますか?私は医者です!大丈夫です。大丈夫ですから、安心して下さい。私の言う通りにしてみてください。」
私はとっさに、神崎さんの手を握る。
ウソみたいに、ガクガクと震える手が、氷のように冷たかった。
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