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第18話 作戦決行
しおりを挟む神崎さんは、兄の車を借りてホームセンターに走った。
使用していない診察室で、私は、兄からPCを借りて、病院のシステム乗っ取りを始める。
とは言っても、実際には兄がいるので、社内システムから個人情報を盗み取るのは簡単だった。
医療機器には影響を与えないようにして、全てのPCから警報音が鳴って使えないようにする。そして、全てのPC画面に「爆弾をしかけた。数十個ある。14:46に爆破する」と表示させればいい。
これで、あっという間に混乱を引き起こせるはずだ。
時間を見ると、14時近くなっていた。
兄は、私の作業を見守る。
「・・・まだ、信じられないなぁ~。歩美、本当にやるのか?」
私は兄を見て、PCに打ち込みながら答える。
「やるよ。このままじゃ、みんな死んじゃうもん。」
「・・・あのさ。」
「何?」
「おまえら、付き合ってんの?」
「!!・・・な、なんで?なんでもいいでしょ?!」
「そっかぁ、未来じゃ、お前ら付き合うのかぁ。なんか複雑。」
「・・・そんなことより、お兄ちゃん、本気で生きのびてよね?」
兄の顔を真剣に見る。
「お願いだから、私を天涯孤独にしないで。それから、神崎さんを助けて。あの人、きっと死ぬのと同じ位の苦しみの中で生きてる。きっと、これに失敗したら、一生、心療内科通いになっちゃう。」
「・・・・。」
「医者なら、人を失う気持ちくらい解ってよ!」
「・・・・解ってるつもりだけど、この状況がSFすぎるんだよ。」
そこへ、神崎さんが帰ってくる。
「神崎さん、できました?」
「・・・たぶん、なんとか。もう少しで爆発すると思う。」
「神崎さん凄い♪爆弾作れるんですね。」
「バカか。そんなもん作れないし、そんな時間無い。」
神崎さんが言うには、車を爆発&炎上させれば良いなら、爆弾作らなくていいらしい。
「じゃぁ、もう時間無いから、始めるよ?」
病院の小さい診察室で、私が2人を見る。
3人で、静かに頷く。
私が、エンターボタンを押す。
それと、同時に、ナースセンターにあるPC、受付のPC、診察台の上にあるPCが乗っ取られて画面が切り替わる。
全てのPCから警報音が鳴り始める。
3人で部屋を出て、兄はナースセンターに入る。
「綾瀬先生!これ見て下さい!!どうしましょう。」
「・・・とにかくすぐに、院長に指示をもらって。」
その時だった、ドン!!!という音が、外から聞こえてくる。
タイミングがピッタリ過ぎて、神崎さんがホッとしたように、ニヤリと笑う。
病院の前にある車から炎が上がった。
病院のどの窓からも、それは丸見えで、沢山の人がそれを目にすることで、一気にパニックになる。
外来で訪れていた患者は全員、逃げて行く。
大混乱の中、思い通りの展開が繰り広げられる。
「あなたたちも、この病院から離れて下さい!」
そう、看護師に言われて、私は演技する。
「あの、綾瀬が、兄がここに居るんです。一緒じゃなきゃ嫌です!」
私が涙を流して言うが、さすがの看護師さんだった。動じない。
「綾瀬先生は、小児病棟で入院している子供と一緒に、病院の救急車で移送されます。ですから、あなた方も早く!」
「どこの病院ですか?」
「高原西病院です。」
私たちは、そのまま病院を出る。
「綾瀬、移動手段が無い。晃の車は炎上してる。」
「・・・神崎さん、私は兄を待ちます。あの、なんとかパラドックスの話で、未来が変えられないかもしれないんでしょう?」
神崎さんは、眉をひそめる。
「救急車って、こっちから出てくるんですよね?私、そこで兄を待ちます!」
言いながら走り出す。
救急車が、既に2台あった。
どうやら、この病院に最初から待機してある救急車のようだ。
その1台に、点滴やら管を付けた子供たちが運ばれて、それに付き添う兄を見つける。私は、何も考えずに傍に駆け寄った。
「お兄ちゃん!」
兄は、私の方を見るなり、険しい顔をする。
「何してんだ!部外者はさっさと出て行け!こんなところまで来るな!」
すると、それを見た、若い医師が、近づいてきた。
「綾瀬先生の妹さん?今日、東京から来てるってナースが言ってた。」
「あ、はい。」
すると、その先生はポケットから車のキーを出す。
「僕たちはこの救急車で、他の病院に行きます。せっかく来たのに、こんなことになって不安だよね。これ、僕の車を使っていいから、救急車を追いかけてくる?」
私は、思ってもいない思いやりに、言葉を失う。そのまま、キーを受け取る。
目に涙を貯めて、私はその医師に頭を下げる。
走りだしながら、神様に祈る。
神様なんか、信じていない。だけど、願う。
「綾瀬!これだ。」
車種とナンバーを聞いていたけれど、キーのロック解除ボタンを押すと、光ってどの車かすぐに分かった。
車に乗り込んで、救急車を追いかける。しかし、流石に追いつかない。どんどん行ってしまう。
神崎さんは、ナビに病院名を入力してと言うので、私はすぐにそれをした。
「綾瀬。今、14:20だ。このままいけば、助かる。」
「・・・はい・・・・。」
そのまま、社内に沈黙が広がる。
私は、突然泣き出してしまった。
「ふう・・・う・・・。ごめんなさい。大丈夫ですよね?きっと、大丈夫ですよね?」
神崎さんは、何も言わなかった。
赤信号で、止まる。
その瞬間、神崎さんの手が伸びてきて、運転席から乗り出して、キスをされる。
そして、彼は言った。
「このまま、晃を助けて、あっちの時代に戻ったら。俺たち、結婚しないか?」
信号が青に変わって、車を動かす。
車内が、しんと静まりかえる。
私は、彼から目が離せないでいた。
神崎さんは、前を向いたまま言う。
「ずっと、考えてたんだ。晃の妹だからじゃない。きっと最初から、そうだったんだ。俺は、お前に惹かれてたし、歩美に傍に居て欲しい。」
カーナビが、“目的地付近に到着しました”と言う。
車をバックさせて、駐車場に停める。
サイドブレーキをかけて、彼は私を見て言った。
「やっと会えた、あの会議室で、お前を見た時に分かった。傷のなめあいがしたかったんじゃない。どんな場所にいても、真っ直ぐに生きようとしてるおまえが。歩美が好きだ。」
そんな事を言うから、
すごく嬉しくて、嬉しくて、泣けてくる。
彼の左肩の服を、摘まんで引っ張る。神崎さんは、私を見て微笑む。
顔を近づけると、彼の手が私の左頬を撫でる。どちらからとも分からないけど、もう1度キスをした。
「大好き。」
そう言うと、彼は破顔して少年のように笑った。
2人で車を降りた時だった。
救急車がサイレンを鳴らして、山を下りて行く。
それを見送っていると、病院から出てきた人が居た。
車を貸してくれた医師が、走ってくるのが見える。
「車、ありがとうございました。兄は、中ですか?」
と、お礼を言うと、こう言われた。
「あ~、それが、さっきの救急車で病院まで戻りました。」
そう言ったのだ。
時計は、14:30を刻んでいた。
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