18 / 24
第18話 作戦決行
しおりを挟む神崎さんは、兄の車を借りてホームセンターに走った。
使用していない診察室で、私は、兄からPCを借りて、病院のシステム乗っ取りを始める。
とは言っても、実際には兄がいるので、社内システムから個人情報を盗み取るのは簡単だった。
医療機器には影響を与えないようにして、全てのPCから警報音が鳴って使えないようにする。そして、全てのPC画面に「爆弾をしかけた。数十個ある。14:46に爆破する」と表示させればいい。
これで、あっという間に混乱を引き起こせるはずだ。
時間を見ると、14時近くなっていた。
兄は、私の作業を見守る。
「・・・まだ、信じられないなぁ~。歩美、本当にやるのか?」
私は兄を見て、PCに打ち込みながら答える。
「やるよ。このままじゃ、みんな死んじゃうもん。」
「・・・あのさ。」
「何?」
「おまえら、付き合ってんの?」
「!!・・・な、なんで?なんでもいいでしょ?!」
「そっかぁ、未来じゃ、お前ら付き合うのかぁ。なんか複雑。」
「・・・そんなことより、お兄ちゃん、本気で生きのびてよね?」
兄の顔を真剣に見る。
「お願いだから、私を天涯孤独にしないで。それから、神崎さんを助けて。あの人、きっと死ぬのと同じ位の苦しみの中で生きてる。きっと、これに失敗したら、一生、心療内科通いになっちゃう。」
「・・・・。」
「医者なら、人を失う気持ちくらい解ってよ!」
「・・・・解ってるつもりだけど、この状況がSFすぎるんだよ。」
そこへ、神崎さんが帰ってくる。
「神崎さん、できました?」
「・・・たぶん、なんとか。もう少しで爆発すると思う。」
「神崎さん凄い♪爆弾作れるんですね。」
「バカか。そんなもん作れないし、そんな時間無い。」
神崎さんが言うには、車を爆発&炎上させれば良いなら、爆弾作らなくていいらしい。
「じゃぁ、もう時間無いから、始めるよ?」
病院の小さい診察室で、私が2人を見る。
3人で、静かに頷く。
私が、エンターボタンを押す。
それと、同時に、ナースセンターにあるPC、受付のPC、診察台の上にあるPCが乗っ取られて画面が切り替わる。
全てのPCから警報音が鳴り始める。
3人で部屋を出て、兄はナースセンターに入る。
「綾瀬先生!これ見て下さい!!どうしましょう。」
「・・・とにかくすぐに、院長に指示をもらって。」
その時だった、ドン!!!という音が、外から聞こえてくる。
タイミングがピッタリ過ぎて、神崎さんがホッとしたように、ニヤリと笑う。
病院の前にある車から炎が上がった。
病院のどの窓からも、それは丸見えで、沢山の人がそれを目にすることで、一気にパニックになる。
外来で訪れていた患者は全員、逃げて行く。
大混乱の中、思い通りの展開が繰り広げられる。
「あなたたちも、この病院から離れて下さい!」
そう、看護師に言われて、私は演技する。
「あの、綾瀬が、兄がここに居るんです。一緒じゃなきゃ嫌です!」
私が涙を流して言うが、さすがの看護師さんだった。動じない。
「綾瀬先生は、小児病棟で入院している子供と一緒に、病院の救急車で移送されます。ですから、あなた方も早く!」
「どこの病院ですか?」
「高原西病院です。」
私たちは、そのまま病院を出る。
「綾瀬、移動手段が無い。晃の車は炎上してる。」
「・・・神崎さん、私は兄を待ちます。あの、なんとかパラドックスの話で、未来が変えられないかもしれないんでしょう?」
神崎さんは、眉をひそめる。
「救急車って、こっちから出てくるんですよね?私、そこで兄を待ちます!」
言いながら走り出す。
救急車が、既に2台あった。
どうやら、この病院に最初から待機してある救急車のようだ。
その1台に、点滴やら管を付けた子供たちが運ばれて、それに付き添う兄を見つける。私は、何も考えずに傍に駆け寄った。
「お兄ちゃん!」
兄は、私の方を見るなり、険しい顔をする。
「何してんだ!部外者はさっさと出て行け!こんなところまで来るな!」
すると、それを見た、若い医師が、近づいてきた。
「綾瀬先生の妹さん?今日、東京から来てるってナースが言ってた。」
「あ、はい。」
すると、その先生はポケットから車のキーを出す。
「僕たちはこの救急車で、他の病院に行きます。せっかく来たのに、こんなことになって不安だよね。これ、僕の車を使っていいから、救急車を追いかけてくる?」
私は、思ってもいない思いやりに、言葉を失う。そのまま、キーを受け取る。
目に涙を貯めて、私はその医師に頭を下げる。
走りだしながら、神様に祈る。
神様なんか、信じていない。だけど、願う。
「綾瀬!これだ。」
車種とナンバーを聞いていたけれど、キーのロック解除ボタンを押すと、光ってどの車かすぐに分かった。
車に乗り込んで、救急車を追いかける。しかし、流石に追いつかない。どんどん行ってしまう。
神崎さんは、ナビに病院名を入力してと言うので、私はすぐにそれをした。
「綾瀬。今、14:20だ。このままいけば、助かる。」
「・・・はい・・・・。」
そのまま、社内に沈黙が広がる。
私は、突然泣き出してしまった。
「ふう・・・う・・・。ごめんなさい。大丈夫ですよね?きっと、大丈夫ですよね?」
神崎さんは、何も言わなかった。
赤信号で、止まる。
その瞬間、神崎さんの手が伸びてきて、運転席から乗り出して、キスをされる。
そして、彼は言った。
「このまま、晃を助けて、あっちの時代に戻ったら。俺たち、結婚しないか?」
信号が青に変わって、車を動かす。
車内が、しんと静まりかえる。
私は、彼から目が離せないでいた。
神崎さんは、前を向いたまま言う。
「ずっと、考えてたんだ。晃の妹だからじゃない。きっと最初から、そうだったんだ。俺は、お前に惹かれてたし、歩美に傍に居て欲しい。」
カーナビが、“目的地付近に到着しました”と言う。
車をバックさせて、駐車場に停める。
サイドブレーキをかけて、彼は私を見て言った。
「やっと会えた、あの会議室で、お前を見た時に分かった。傷のなめあいがしたかったんじゃない。どんな場所にいても、真っ直ぐに生きようとしてるおまえが。歩美が好きだ。」
そんな事を言うから、
すごく嬉しくて、嬉しくて、泣けてくる。
彼の左肩の服を、摘まんで引っ張る。神崎さんは、私を見て微笑む。
顔を近づけると、彼の手が私の左頬を撫でる。どちらからとも分からないけど、もう1度キスをした。
「大好き。」
そう言うと、彼は破顔して少年のように笑った。
2人で車を降りた時だった。
救急車がサイレンを鳴らして、山を下りて行く。
それを見送っていると、病院から出てきた人が居た。
車を貸してくれた医師が、走ってくるのが見える。
「車、ありがとうございました。兄は、中ですか?」
と、お礼を言うと、こう言われた。
「あ~、それが、さっきの救急車で病院まで戻りました。」
そう言ったのだ。
時計は、14:30を刻んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
恋と首輪
山猫
恋愛
日本屈指の名門・城聖高校には、生徒たちが逆らえない“首輪制度”が存在する。
絶対的支配者・東雲財閥の御曹司、東雲 蓮の「選んだ者」は、卒業まで彼の命令に従わなければならない――。
地味で目立たぬ存在だった月宮みゆは、なぜかその“首輪”に選ばれてしまう。
冷酷非情と思っていた蓮の、誰にも見せない孤独と優しさに触れた時、みゆの心は静かに揺れはじめる。
「おめでとう、今日から君は俺の所有物だ。」
イケメン財閥御曹司
東雲 蓮
×
「私はあなたが嫌いです。」
訳あり平凡女子
月宮 みゆ
愛とか恋なんて馬鹿らしい。 愚かな感情だ。
訳ありのふたりが、偽りだらけの学園で紡ぐカーストラブ。
美しき造船王は愛の海に彼女を誘う
花里 美佐
恋愛
★神崎 蓮 32歳 神崎造船副社長
『玲瓏皇子』の異名を持つ美しき御曹司。
ノースサイド出身のセレブリティ
×
☆清水 さくら 23歳 名取フラワーズ社員
名取フラワーズの社員だが、理由があって
伯父の花屋『ブラッサムフラワー』で今は働いている。
恋愛に不器用な仕事人間のセレブ男性が
花屋の女性の夢を応援し始めた。
最初は喧嘩をしながら、ふたりはお互いを認め合って惹かれていく。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
その卵焼き俺にも食わせろ!―ワンナイトラブから逃げたはずなのに、契約で縛られてました!?―
鷹槻れん
恋愛
新沼 晴永(にいぬま はるなが/36)は俺様上司として恐れられる鬼課長。
そんな彼に毎日のように振り回されるのが、犬猿の仲(だと彼女が勝手に思っている)部下の小笹 瑠璃香(こざさ るりか/28)だ。
飲み会の夜、酔ってふにゃふにゃになった瑠璃香を晴永がまんまと持ち帰り――翌朝待っていたのはワンナイトの証拠と契約結婚の書類!?
晴永には逃げようとする瑠璃香を逃がすつもりはないらしい!?
笑いと誤解と契約の、ドタバタラブコメディ!
○表紙絵は市瀬雪さんに依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる