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8章「道場での稽古と戦いの変化」
第82話「半身の構え」
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#第82話「半身の構え」
翌日、道場でさっそくルナに報告した。
「ルナ、昨日、アタッカーに徹したら、明らかに威力が乗った。実戦でも体を使った剣を使えるようになった気がするよ」
俺の報告に、ルナは頷いた。
「確かに最近はよくなってきていると思う。的でも再度確認しようか」
正眼。息を吐く。床を押す――運ぶだけ。
ドンと的がなった。腹に響く低い音。自分でも分かる。力が通った手応えだ。
何本か繰り返しても、音はおおむね安定してきていると思うが、達人のルナから見てどうなのだろう?
「まずまずだな。悪くない。的があっても腕に力が入らなくなってきている。体全体で振れている」
「ありがとう。ほっとしたよ。一ヶ月近く素振りを続けて、ようやく身につき始めた感じだ」
「不器用でなかなか身に付かなかったけどやっぱりレンの根性は凄いね。不器用な欠点を根性で覆しているみたい」とひよりが笑う。
不器用を強調するのは辞めて欲しいが現実にそんな感じだと思う。きっと俺には剣術のセンスが無いのだろう。その分、人よりも努力するしかない。でもこれでようやく第一段階は終了ではないのかな?
そろそろ次の段階か?――と内心で思ったところで、ルナは少し考える顔をした。
「以前は素振りの次の段階に体捌きという話をしたが、その前に半身の練習を入れようか。体捌きの動作を入れるとレンは更に混乱しそうだ。できるだけ単純な動作からやっていこう」
「半身? 何だそれは?」
「基本の構えのひとつ。今までの素振りの正面の構えが攻撃一辺倒に対して、半身は攻防一体の構えだ。私がやるからまず見て欲しい」
ルナが正面に立つ。
「これが正面の構えだ。それに対して――これが半身の構えになる」
体がわずかに斜めに開いた。肩と腰の向きが、ほんの少しずれる。
「レン、この2つの構えの違いは分かるか?」
「……斜めになった?」
「ぷっ、まあ。見た目はそうだな。それは当然だが、それだけじゃない」
横で見ていたひよりが手を挙げる。
「的(当てられる面)が細く、小さくなってる。打ち込みづらい角度になってる」
「そうだな。ほぼ正解だ」ルナが微笑む。
「体を開いてやや斜めに構えると、まず打ち込まれる面積が減る。それだけで被弾しにくい。相手は攻撃しずらくなる。更に心臓などの弱点が相手から見えず自然と庇うことができる。そして剣で受ける時に体をわずかに流すだけで受け流しにも移行しやすい」
「……確かに。的が小さくなる上に、受け流しが自然に出せそうだ。いいことずくめじゃないか。ならば最初からその構えにすればいいのでは?」
「ただし弱点もある。打撃の威力は落ちる。正面のほうがまっすぐ体全体の力を乗せやすいからね。そして過去のレンのように正面からでも剣の威力を出せない場合は、半身だと更に威力が落ちる。そしてほぼ手打ちになってしまうんだ。そうなると防御一辺倒になってしまう可能性もある」
「ああ、それは分かるかも。攻撃力が足りないとどうしても防御寄りになるな」
「だからある程度、体全体を使った攻撃の型が実に付いてからどこかで半身の練習を入れようと思っていたのだが……今が最適だと思う。うまくいっていると調子にのって攻撃一辺倒になって防御を忘れるリスクもあるからな」
確かに俺は一時期、攻撃一辺倒になって注意が散漫になりリスクが高かった。さすがにルナは見抜いているらしい。そこで半身の構えも覚えれるといいということなのだろうか。
「なるほど。攻撃の威力は出しづらいけど防御も可能。だから攻防一体ってわけか」
「そう。そして半身の使い方には大きく分けて二つある。他にもあるが今はこの二つだけ覚えておくといいだろう」
ルナは指を二本立てる。
「一つ目。攻撃を打ち込んだ“後”に半身へ移るパターン。すなわち攻撃の後にすぐに身を守るという型だな。スピードでこちらが勝っていて先手を取りやすい一対一ならこれがいいだろう。攻撃の後は無防備になりがちだが、攻撃後にすぐに半身にすることでリスクが大きく減る」
「二つ目。最初から半身で構える。これは先にも言ったように防御寄りになる。スピードで負けていて先手を取りにくい相手や複数相手ではこちらが安全だ。私が四階層でやっているのはこちらだ」
「ちょっと待て! ルナは防御寄りの半身であれだけの威力を出しているということか?」
「まあそうだな。慣れると半身でもある程度の威力は出せる。そして、私でも四階層の複数敵相手に攻撃一辺倒というわけにはいかない。防御を常に念頭に置いた半身で対応している」
「そうか。ルナは一方的に攻撃していて防御など考えていないと思ったけど実はかなりの安全マージンを取った戦いをしているということか」
「そういうことだ。相手によって常に最適解を考えているんだ。1つの間違いが死に繋がるからね。安全マージンは基本的に必要だ」
なんとも奥深い話になってきた。配信を見た時、ルナは最初から強力な攻撃パターンをいくつか持っていてそれを一方的に繰り出しているだけだと思った。でも現実にはもっと複雑だ。ルナは攻防兼用の構えで常に相手の攻撃を避ける用意もあったのだ。
最初の基本段階の攻撃だけで苦労している俺が目指す先はかなり遠いと言わざる得ない。
「でも俺は……不器用だし、いきなり両方の半身をやるのは無理っぽい気がするな」
「そうだな。だから今日は一つ目。打ち込み→戻りながら半身→正面に復帰→打ち込み。この往復を繰り返そうか。これだけで攻撃後の隙はかなり減るはずだ」
「それだけなら簡単そうだな。打った後に半身になるだけだし……」
――と思ったのだが、実際にやってみると、
“戻る時に半身”を意識した瞬間、打ち込みがおかしくなる。
体に余計な力が入り、音がカンと軽くなった。
打ち込む前から半身になってしまうことも。
「……発動したね、レンの不器用」ひよりが苦笑する。
「最初は半身は意識しないでいい。まずはしっかり打ち込むことだ」ルナが静かに言う。
「打ち切ってから、戻る時にほんの少し肩と腰をずらすだけでもいい。“結果として半身になる”を狙おう。無理に半身になろうとしないこと。運べば当たる、当たった“後”に自然に半身が“来る”ように」
「……分かった。当ててから、自然に来させるよ」
もう一度。
正面からドン――当たった瞬間、腰と肩を少しだけ流す。
視線はとどめない。戻りながら半身へ、居着かずに呼吸。
「はい、正面に復帰して――再び打ち込む!」
ドン。
さっきより、復帰に迷いがない。
「いい。今の二本はつながった。ただし戻った時の体勢が半身にはまだちょっと遠いけどな」
「自然な流れ“止めずに動く”はできてるね」ひよりが頷く。
同じリズムで十往復。
途中で何度か力みが戻り、音が軽くなる。だが意識を「当てず、運ぶ」に引き戻すと、半身が“勝手に”来る感覚が少しずつ増えていく。
「了解。……道は長いな」
「長いほうが体が確実に覚える。実戦でも自然に出るからその方がいい」
よし、これをダンジョン内の実践でも生かせるかどうか今日も試してみよう。
「全身を使って打つ→半身→復帰」という流れが実戦で出せるかどうか?これが自然に出せれば再び進歩したと言えるだろう。
不器用でもいい。往復の流れを一本ずつ積むだけだ。
翌日、道場でさっそくルナに報告した。
「ルナ、昨日、アタッカーに徹したら、明らかに威力が乗った。実戦でも体を使った剣を使えるようになった気がするよ」
俺の報告に、ルナは頷いた。
「確かに最近はよくなってきていると思う。的でも再度確認しようか」
正眼。息を吐く。床を押す――運ぶだけ。
ドンと的がなった。腹に響く低い音。自分でも分かる。力が通った手応えだ。
何本か繰り返しても、音はおおむね安定してきていると思うが、達人のルナから見てどうなのだろう?
「まずまずだな。悪くない。的があっても腕に力が入らなくなってきている。体全体で振れている」
「ありがとう。ほっとしたよ。一ヶ月近く素振りを続けて、ようやく身につき始めた感じだ」
「不器用でなかなか身に付かなかったけどやっぱりレンの根性は凄いね。不器用な欠点を根性で覆しているみたい」とひよりが笑う。
不器用を強調するのは辞めて欲しいが現実にそんな感じだと思う。きっと俺には剣術のセンスが無いのだろう。その分、人よりも努力するしかない。でもこれでようやく第一段階は終了ではないのかな?
そろそろ次の段階か?――と内心で思ったところで、ルナは少し考える顔をした。
「以前は素振りの次の段階に体捌きという話をしたが、その前に半身の練習を入れようか。体捌きの動作を入れるとレンは更に混乱しそうだ。できるだけ単純な動作からやっていこう」
「半身? 何だそれは?」
「基本の構えのひとつ。今までの素振りの正面の構えが攻撃一辺倒に対して、半身は攻防一体の構えだ。私がやるからまず見て欲しい」
ルナが正面に立つ。
「これが正面の構えだ。それに対して――これが半身の構えになる」
体がわずかに斜めに開いた。肩と腰の向きが、ほんの少しずれる。
「レン、この2つの構えの違いは分かるか?」
「……斜めになった?」
「ぷっ、まあ。見た目はそうだな。それは当然だが、それだけじゃない」
横で見ていたひよりが手を挙げる。
「的(当てられる面)が細く、小さくなってる。打ち込みづらい角度になってる」
「そうだな。ほぼ正解だ」ルナが微笑む。
「体を開いてやや斜めに構えると、まず打ち込まれる面積が減る。それだけで被弾しにくい。相手は攻撃しずらくなる。更に心臓などの弱点が相手から見えず自然と庇うことができる。そして剣で受ける時に体をわずかに流すだけで受け流しにも移行しやすい」
「……確かに。的が小さくなる上に、受け流しが自然に出せそうだ。いいことずくめじゃないか。ならば最初からその構えにすればいいのでは?」
「ただし弱点もある。打撃の威力は落ちる。正面のほうがまっすぐ体全体の力を乗せやすいからね。そして過去のレンのように正面からでも剣の威力を出せない場合は、半身だと更に威力が落ちる。そしてほぼ手打ちになってしまうんだ。そうなると防御一辺倒になってしまう可能性もある」
「ああ、それは分かるかも。攻撃力が足りないとどうしても防御寄りになるな」
「だからある程度、体全体を使った攻撃の型が実に付いてからどこかで半身の練習を入れようと思っていたのだが……今が最適だと思う。うまくいっていると調子にのって攻撃一辺倒になって防御を忘れるリスクもあるからな」
確かに俺は一時期、攻撃一辺倒になって注意が散漫になりリスクが高かった。さすがにルナは見抜いているらしい。そこで半身の構えも覚えれるといいということなのだろうか。
「なるほど。攻撃の威力は出しづらいけど防御も可能。だから攻防一体ってわけか」
「そう。そして半身の使い方には大きく分けて二つある。他にもあるが今はこの二つだけ覚えておくといいだろう」
ルナは指を二本立てる。
「一つ目。攻撃を打ち込んだ“後”に半身へ移るパターン。すなわち攻撃の後にすぐに身を守るという型だな。スピードでこちらが勝っていて先手を取りやすい一対一ならこれがいいだろう。攻撃の後は無防備になりがちだが、攻撃後にすぐに半身にすることでリスクが大きく減る」
「二つ目。最初から半身で構える。これは先にも言ったように防御寄りになる。スピードで負けていて先手を取りにくい相手や複数相手ではこちらが安全だ。私が四階層でやっているのはこちらだ」
「ちょっと待て! ルナは防御寄りの半身であれだけの威力を出しているということか?」
「まあそうだな。慣れると半身でもある程度の威力は出せる。そして、私でも四階層の複数敵相手に攻撃一辺倒というわけにはいかない。防御を常に念頭に置いた半身で対応している」
「そうか。ルナは一方的に攻撃していて防御など考えていないと思ったけど実はかなりの安全マージンを取った戦いをしているということか」
「そういうことだ。相手によって常に最適解を考えているんだ。1つの間違いが死に繋がるからね。安全マージンは基本的に必要だ」
なんとも奥深い話になってきた。配信を見た時、ルナは最初から強力な攻撃パターンをいくつか持っていてそれを一方的に繰り出しているだけだと思った。でも現実にはもっと複雑だ。ルナは攻防兼用の構えで常に相手の攻撃を避ける用意もあったのだ。
最初の基本段階の攻撃だけで苦労している俺が目指す先はかなり遠いと言わざる得ない。
「でも俺は……不器用だし、いきなり両方の半身をやるのは無理っぽい気がするな」
「そうだな。だから今日は一つ目。打ち込み→戻りながら半身→正面に復帰→打ち込み。この往復を繰り返そうか。これだけで攻撃後の隙はかなり減るはずだ」
「それだけなら簡単そうだな。打った後に半身になるだけだし……」
――と思ったのだが、実際にやってみると、
“戻る時に半身”を意識した瞬間、打ち込みがおかしくなる。
体に余計な力が入り、音がカンと軽くなった。
打ち込む前から半身になってしまうことも。
「……発動したね、レンの不器用」ひよりが苦笑する。
「最初は半身は意識しないでいい。まずはしっかり打ち込むことだ」ルナが静かに言う。
「打ち切ってから、戻る時にほんの少し肩と腰をずらすだけでもいい。“結果として半身になる”を狙おう。無理に半身になろうとしないこと。運べば当たる、当たった“後”に自然に半身が“来る”ように」
「……分かった。当ててから、自然に来させるよ」
もう一度。
正面からドン――当たった瞬間、腰と肩を少しだけ流す。
視線はとどめない。戻りながら半身へ、居着かずに呼吸。
「はい、正面に復帰して――再び打ち込む!」
ドン。
さっきより、復帰に迷いがない。
「いい。今の二本はつながった。ただし戻った時の体勢が半身にはまだちょっと遠いけどな」
「自然な流れ“止めずに動く”はできてるね」ひよりが頷く。
同じリズムで十往復。
途中で何度か力みが戻り、音が軽くなる。だが意識を「当てず、運ぶ」に引き戻すと、半身が“勝手に”来る感覚が少しずつ増えていく。
「了解。……道は長いな」
「長いほうが体が確実に覚える。実戦でも自然に出るからその方がいい」
よし、これをダンジョン内の実践でも生かせるかどうか今日も試してみよう。
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