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第十章

225話 三人の兄様

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 素直にそういえば、シストは黙って聞いてくれる。

「シストは俺が一人の時、一緒にいてくれた、二人きりの時しか話してくれなかったけど、嬉しかった。俺、シストが大好きだったんだ。いや、今でも好きだ、今でも信じる気持ちを捨てきれないんだ。お前が手を貸してるって分かってる、組織と契約だってしてる、でも、でもシストは悪い奴じゃない、だって、俺を何度も光で照らしてくれた、俺の手を引っ張ってくれた。俺、俺シストが悪い人なのが嫌なんだ!! 嫌いなんて、言いたくないし、思いたくもないんだ、だからもうやめてくれ、お願いだから、優しいシストに戻ってくれ」
『…………ヴァントリア、俺も貴様が好きだ』
「え……」

 ヴァントリアはシストに嫌われてるんじゃ……冷たいし意地悪だし俺にだけ態度変えるし……。

『愛している』
「へ?」
『愛しているんだ、ヴァントリア』

 慌てて兄様達に振り返るが、二人ともじっと様子を見ているだけで何も言ってはくれない。

「…………何でテイガイアと同じこと言うんだ?」
『ビリィッ』

 何、お前の中で流行ってんのそれ。

「で、でも、嬉しい。嫌われてないってわかって、凄く嬉しい、ありがとうシスト」
『ヴァントリア……』
「シスト……」

 俺のことを、助けてくれなかったけど、そんなのは、仕方がないことなんだ。
 サイオンが教えてくれた、助けてと言っても、助けてくれる人の方が少ない。助けるってことは、勇気のいることだと、前世の自分も教えてくれた。
 もしあの時、シストが扉を開けて、飛び込んで来ていたら、彼はきっと、ゼクシィルに殺されてしまっていたかもしれない。シストを責めるのは、もうやめる。あの瞳を怖いと、嫌いだと思うのも、もうやめる。だって昔は大好きだったんだ。シストの目は、綺麗で、キラキラ輝いていて、光をいっぱい、瞳の中に閉じ込めているみたいに美しくて。優しく笑ってくれるのが、すごくすごく、大好きだった。

「好きだ、シスト。凄く」
『ヴァントリア……俺も貴様が好きだ』

 なんか照れくさいな、これ。

「だから、メルカデォを廃止させて!」
『…………貴様』
「な、何だよ、い、いいだろ少しくらい甘えたって!」
『甘える……? 今のがか? もっと別の甘え方があるだろ』

 もっと別の……。

「……じゃ、じゃあ、次に会えたら、昔みたいに、頭撫でたり、ギュッてして……それで、こんな話だけじゃなくて、他にも食べ物とか趣味とか好きなこととか、たくさん話をしたいし、あとはそうだな、またお菓子あーんって食べさせてくれ!」

 ……あれ、なんか俺変な事言ってないか、うわ、よく考えたら、頭撫でられるのはまあ許すとしてもギュってされるのは気持ち悪いな。シストにアーンされるのはまあ悪くないか。王様足蹴にしてる気分だし。

『……ハァ、サイオン、ディスゲル』
「は、はい!」
「何だ、シスト」
『メルカデォを中止させる。メルカデォの廃止と奴隷制度の廃止について上で話し合いの場を設けるから、サイオンはロベスティゥを説得、ディスゲルは天級階を説得して参加してくれ』

 この場にいる三人が、シストの言葉を理解することに遅れた。

『返事は?』
「は、はい!」
「わかった」
『ヴァントリア、お前にはセルとヒオゥネを説得してもらう』
「お、おう!」
『それから……イーハ・タールと言う男と、マアス・グリフォン、オリステン・トルショーを説得しろ』
「多くない!?」
『ディスゲルは天級階でそれ以上に数が多いし、サイオンはあのロベスティゥを説得するんだ、それに、手伝ってくれるんだろう?』
「わ、分かった……」
『それからウラティカと会って書類にサインを貰ってきてもらう。彼女にも意見をまとめてもらって俺に提出しろ』
「わ、分かった」
『それが出来たら抱きしめてやる』
「……別にそれはいらない」
『…………今の話はなかったことにしようか?』

 ハッしまった、本音がポロリした!

「お、俺は抱きしめられなくていい、俺がシストを抱きしめるよ!」
『は?』
「今まで頑張ってきてくれたお礼。頭も撫でてあげるからな、よしよしって!」
『本気か……?』
「存分に甘えてこいよ、甘えたりないならサイオンもディスゲルも連れてってやる! そうだお兄ちゃんが欲しいならロベスティゥも呼ぶか?」
『ロベスティゥはいらないな』
「じゃあサイオンとディスゲルはいるんだな?」
『ああ、見せつけるために必要だ』
「ん? 見せ付ける?」
『なんでもない』

 もしかして俺には甘えないでサイオンとディスゲルだけに甘えるつもりか!! もういい、そんなこと企んでるなら甘やかしてやんない。二度とやらない。バーカバーカシストのバーカ。

「話聞いてくれてありがとう」
『ああ。じゃあ切るぞ。私は忙しいんだ』

 説得出来た、説得出来たんだ! 俺の話を、三人の兄様が聞いてくれたよ、ヴァントリア!

「シストお兄様、そこそこ好きっ!」
『…………そこそこ?』

 しまった! 『嫌い』と言ってはダメだと思ったら『そこそこ』付けちゃった!

「だ、大好き! ちょー大好き! シストに早く会いたいなぁ、あ、あは、はははは……」

 ブチッと音がして魔法陣が消える。あれ……流石に無理があったか?
 ああ、そうか、いくら嫌いと言われるのが嫌でも、よく考えたらヴァントリアに好き好き言われるのも寒気ものだよな。今度からは言わないように気を付けよう。ふつーに好きでも嫌いでもないよって言おう。

「サイオン、ディスゲル、ありがとう! 俺みんなに伝えてくる!」
「え、今から!?」
「早く伝えてあげたい人がいるんだ!」
「ま、待てオレも行く!」
「え、でも……」
「余もだ」
「え、サイオンまで!?」

 いや、サイオンの場合ウォルズに会いたいんだな。

「二人にはすぐにでもメルカデォが中止されたことを言ってきて欲しいんだけど」
「そうだな、メルカデォの件は余たち3人で会見を開くことにする。兵士に準備させよう。準備には日数が必要だ。次のメルカデォが開かれる前には間に合うだろう」
「こういうことはしっかり発表して全員に王の決定であることを示さないといけないからな。王の意向に背こうとすること自体反逆罪扱いになる可能性もあるし、言動によっても罰が下る筈だ」
「今すぐは無理なのか…………まあいいか、今後のことも話したいし」
「発表は今日のメルカデォで行うことにしよう、そうすればまだ間に合う筈だ」
「ディスゲル兄様!」
「何故余には甘えて来ぬ。来いヴァントリア」

 両手を広げて後光を発する。仕方がない、行ってやるかと言う気持ちにさせるのだから長男の力はすごいな。
 気持ち悪いことされないためにもディスゲル兄様も一緒に胸へくっつく。キスされそうになったらディスゲル兄様を盾にしてやろうと決めていた。まあ冷静になってくれたのかされることはなかった。って言うか気まずそうにお互い顔を背け合うサイオンとディスゲルに笑いが込み上げた。
 その後は、ディスゲル兄様とサイオンと共にみんなの元へ向かうこととなった。
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