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リョウゲ
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――ああ……。みんなみんな、死んでしまった。
銀杏姉さんも、矢地さんも、砂金姉さんも、赤烏も。白馬も。
世界に奪われてしまった。
神の使いである筈の私達を、あの化け物が別の世界へと連れて行ってしまった。
ああ。ああ。面倒なくせに……。いつもいつも面倒なやつの癖に。どうして黙っているんだろう。
黄泉は思う、その胸に顔を押し付けながら、思い出しながら、掠れた声で鬱憤を漏らす。
これが最後の面倒だと言うのか。ふざけるな。
言葉になっているかも分からない。
さっさと目を開けて、いつもみたいに面倒なことをしてこい。
ただ、相手に対する文句は止まらない。
何度でも面倒だと言ってやる。何を言われようと、面倒だと言ってやる。それでも隣にいてくれるんだろう。お前は、そういう面倒な奴なんだ。面倒だと言っても、離れない面倒過ぎる奴なんだ。
止められなかった。止めてしまえば自分がどうなるのか分かっていたからだ。
「めんどうだ……」
面倒だ。面倒だ。
喉が潰れてしまいそうなほどに、内側から張り裂けんばかりに苦しいと悲鳴を上げている。
もう、面倒くさいと思うこともできなくなるのだろうか。
会話もできない、声すら聞けない。
姿も見られない。名前も呼んでもらえない。
隣に来てさえくれなくなる。
忘れてしまう。
思い出せなくなる。
いなくなってしまう。
……いなくなってしまう。
私の世界から白馬がいなくなってしまう。
何だそれは。なんだそれは。いなくなる……そんなの、認めない。
いやだ。
いやだ。
そんなのはいやだ。
いやだ。
絶対にいやだ。
いやだ。いやだ。
私は、私はお前にだけは、面倒をかけられたい。
面倒過ぎるくらい、隣にいてくれればいい。
他には何も望まないから。
返事も呼吸もない、白馬の顔に擦り寄った。
神様……神様、お願い、します。たのみます。何も要らない、要りません。私は欲張らない。もう欲張りません。だから。
だからこの人だけは。
この人だけは、連れていかないでください。
この人は、私の世界に必要だ。
「はくば……白馬。は、くば…………」
黄泉はただただ懇願するように縋りつくように頭を振り続けた。
「――っと隣に……いて。面倒でもいい。……うれしぃ……聞いてくれ――」
もう待たない、相手からではなく、自分からも傍に行こう。
「目を……開けて、くれ、声……聞か……、名前……呼んで。面倒でも、い……から」
後悔しないように行動しよう。自分から与えられる面倒など、もう懲り懲りだ。
「だ、――ら」
だから言おう。
私たちには歳の差と権力差と実力差、容姿の差、意志の差、他にもっとたくさんの差があった。
差は開く一方だった。
今だけ、今だけだ。
自分の気持ちに素直になろう。
「私も、好きだ、から」
言ってしまえば楽になるだろう、散々出て行った喉の奥に、まだ突っかかっているモノがある。
これは、言ってしまえば分かってしまうから言えないのであって、これを言ったからと言って、どうにかなるわけでもないけれど。
言ってしまえば、きっと、この苦しみから逃れられるだろう。
「なないで」
いやだ。
「死なないで白馬」
もっと。
「たくさん、傍に……」
もっと。
傍にいたかった。
言葉は助けてはくれなかった。
心の内を渦巻くこの寂しさを、吐きだせば逃れられるなどと思っていた。
笑わせる。この胸の穴はもう埋まりはしない。
もう、成す術はないのだ。
「あああ、ああ、ああああああ…………」
胸がえぐれる、喉がえぐれる。私の悲鳴は、悲鳴を上げている。
目の前の光景も、私の叫び声を聞いている筈の自分の耳も、全てが真っ白であった。
視覚的にも、聴覚的にも何も感じない、真っ白な世界でただ、その残った温もりと愛しさだけを感じているしかなかった。
銀杏姉さんも、矢地さんも、砂金姉さんも、赤烏も。白馬も。
世界に奪われてしまった。
神の使いである筈の私達を、あの化け物が別の世界へと連れて行ってしまった。
ああ。ああ。面倒なくせに……。いつもいつも面倒なやつの癖に。どうして黙っているんだろう。
黄泉は思う、その胸に顔を押し付けながら、思い出しながら、掠れた声で鬱憤を漏らす。
これが最後の面倒だと言うのか。ふざけるな。
言葉になっているかも分からない。
さっさと目を開けて、いつもみたいに面倒なことをしてこい。
ただ、相手に対する文句は止まらない。
何度でも面倒だと言ってやる。何を言われようと、面倒だと言ってやる。それでも隣にいてくれるんだろう。お前は、そういう面倒な奴なんだ。面倒だと言っても、離れない面倒過ぎる奴なんだ。
止められなかった。止めてしまえば自分がどうなるのか分かっていたからだ。
「めんどうだ……」
面倒だ。面倒だ。
喉が潰れてしまいそうなほどに、内側から張り裂けんばかりに苦しいと悲鳴を上げている。
もう、面倒くさいと思うこともできなくなるのだろうか。
会話もできない、声すら聞けない。
姿も見られない。名前も呼んでもらえない。
隣に来てさえくれなくなる。
忘れてしまう。
思い出せなくなる。
いなくなってしまう。
……いなくなってしまう。
私の世界から白馬がいなくなってしまう。
何だそれは。なんだそれは。いなくなる……そんなの、認めない。
いやだ。
いやだ。
そんなのはいやだ。
いやだ。
絶対にいやだ。
いやだ。いやだ。
私は、私はお前にだけは、面倒をかけられたい。
面倒過ぎるくらい、隣にいてくれればいい。
他には何も望まないから。
返事も呼吸もない、白馬の顔に擦り寄った。
神様……神様、お願い、します。たのみます。何も要らない、要りません。私は欲張らない。もう欲張りません。だから。
だからこの人だけは。
この人だけは、連れていかないでください。
この人は、私の世界に必要だ。
「はくば……白馬。は、くば…………」
黄泉はただただ懇願するように縋りつくように頭を振り続けた。
「――っと隣に……いて。面倒でもいい。……うれしぃ……聞いてくれ――」
もう待たない、相手からではなく、自分からも傍に行こう。
「目を……開けて、くれ、声……聞か……、名前……呼んで。面倒でも、い……から」
後悔しないように行動しよう。自分から与えられる面倒など、もう懲り懲りだ。
「だ、――ら」
だから言おう。
私たちには歳の差と権力差と実力差、容姿の差、意志の差、他にもっとたくさんの差があった。
差は開く一方だった。
今だけ、今だけだ。
自分の気持ちに素直になろう。
「私も、好きだ、から」
言ってしまえば楽になるだろう、散々出て行った喉の奥に、まだ突っかかっているモノがある。
これは、言ってしまえば分かってしまうから言えないのであって、これを言ったからと言って、どうにかなるわけでもないけれど。
言ってしまえば、きっと、この苦しみから逃れられるだろう。
「なないで」
いやだ。
「死なないで白馬」
もっと。
「たくさん、傍に……」
もっと。
傍にいたかった。
言葉は助けてはくれなかった。
心の内を渦巻くこの寂しさを、吐きだせば逃れられるなどと思っていた。
笑わせる。この胸の穴はもう埋まりはしない。
もう、成す術はないのだ。
「あああ、ああ、ああああああ…………」
胸がえぐれる、喉がえぐれる。私の悲鳴は、悲鳴を上げている。
目の前の光景も、私の叫び声を聞いている筈の自分の耳も、全てが真っ白であった。
視覚的にも、聴覚的にも何も感じない、真っ白な世界でただ、その残った温もりと愛しさだけを感じているしかなかった。
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