リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディノル

20

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「どうしてこうなってしまったんだ……」
 楽ドは鍋をお玉で混ぜながら言った。隣で魚を串刺しにしている姿がよく似合っているラ矢が返事をする。
「安定していていい。貴方も大人と一緒にいられて楽になったでしょ」
 ――あいつと会った後、考えを改め、一緒に過ごしてもいいと思ってオルトシアの元へ戻った。そうそう、ちゃんとおむすびも10個持って来てくれた。
 そのせいで俺たちはいつの間にかオルトシアと過ごす日々を楽しんでしまっている。不本意だが楽しくて仕方がない、もう2週間くらい一緒に行動してしまっている。
「これはこれでつまらん……! 探索する意味ないなとか思って弛んできている! そしてその大人の中に茶飯がいるのが許せない!」
「君は黙ってシチューを混ぜていたまえ! 私はまだ連れ帰ることを諦めてないぞ! 戦場はやはり子供がいるべき場所ではない! 守れる場所があり、守れる立場であるのだから私は君等を守らなければならない義務があるのだ!」
 あの通信以降今まで以上に気合を入れて俺たちを探し回っていたらしく、ブランコに座った日から3日後くらいにやってきてオルトシアと口論していた。がしかし、あのオルトシアの一方的過ぎる話ぶりに茶飯は押し負かされ、こうやって一緒に行動することになってしまっている。
「はいはい、茶飯はさっさとジャガイモの皮剥いてね~。遅すぎて他の具材が溶けちゃいそうだ~」
「ばかーにーこれも~」
「それは雑草、食べられないよ~ばかおとーと」
「とーとー」
「ただいま! お魚がたくさん捕れたぞ!」
「おかえり~オルトシア」
 楽しいは楽しいけど……毎日シチューは流石に飽きてきたんですけど。
 茶飯が用意した歪な形のジャガイモを入れ、オルトシアが裁いて火であぶった魚たちを入れて混ぜる。
「腕が疲れた……ラ矢交代してくれ」
「任せて」
 女の子だからか料理が好きみたいで、嬉しそうによってくる。少しはかわいいところもあるな。と頭に手を伸ばすと叩かれた。――オルトシアには撫でられてるくせに……!
 お玉も場所も奪われ、手でしっしと犬扱いされて椅子石の方へ追いやられた。
「かわいくない……」
「ばかーに。よしよし~」
「お前が一番かわいい~! ちゅ、ちゅ~!」
「やああああああああ」
 ほっぺたにチューしたら全力で拒絶された。誰かもっとかわいい子はいないのか。
 ――そんな事を思ったからだろうか、ザっと背後から地面がこすれる音が聞こえ、反射的に振り向いた。
 そこに立っていたのは誰よりかわいいあの子である。いつ見てもまばゆい。女の子になる手術受けませんか?
「やっと見つけたぞ……」
「お、お前、どうしてここに!」
「よくも騙してくれたな……」
「は?」
 なんだなんだと皆が覗き込んでくるなか、相手は懐からナイフを取り出して振り上げてきた。
「私は君を信じていたのに……! やはり人間は嫌いだ! 君を信じた私は愚かだった!」
「ちょ、待て待て、言ってることが分からな――ひょえッ!?」
 よほど興奮しているのか、太刀筋は見える。咄嗟に避ければ、振り下ろされたナイフが空を切り、背後と自分の下からバリバリバリバリ、と聞いたこともないような地面の悲鳴が鳴り響く。
 地面だけでなく後方から建物が崩れる音が立て続けに聞こえてきて、楽ドが振り返れば、果てが見えないほどの黒い線が生まれていた。まるで世界に黒い雷が描かれたかのような恐ろしい光景だった。――仲間たちはオルトシアの背中に庇われる形で避けきった様子だったが、おそらくオルトシアがすぐに危険を察知して動いたおかげで助かったのだろう。
「楽ド、そいつはあの時の!」
 茶飯が叫んだとたん、相手のナイフが楽ドの喉元に迫る――あ、死ぬ――楽ドがそう思った時、グイっとスーツの上着が引っ張られるような感覚がして、オルトシアの声が頭の上から降ってくる。
「皆今すぐ伏せろッ!!」
 いつも穏やかなオルトシアから発せられたとは思えない割れるような大きな声だった。
 楽ドはオルトシアに抱えられたまま一緒に地割れを起こしている地面へ伏せた。
 ――次の瞬間、空気の動く感覚が身体を襲った。風の鳴らす不協和音がそこら中で上がり、あいつのナイフが流れた方向へ建物たちがゆったり傾き、直後凄まじい音と共に次々に薙ぎ倒されていく。面白いくらいに地面を転がってぶつかり合い、破壊され、爆発を繰り返し、塵へ、粒子へと化していく。
 その中に赤い噴煙を見た気がしていると、オルトシアの手に両目を押さえられた。
 いっときすると、音がおさまり、オルトシアの手が離れ、楽ドはオルトシアが立つ気配を感じて、自分も手をついて身体を起こそうとする。そうして視界に入った、何もない世界に目が釘付けになった。
 ……いや、何もないは言い過ぎた、はるか遠くに見える建物達が、まるでおもちゃのように小さく見える。楽ドたちの立つ地面はアスファルトだが、他はすべて、砂漠になった。残っているアスファルトに光る文字が走る、それを辿れば、茶飯の手から伸びている様子だった。
「…………楽ド、彼は一体。知り合いなのか?」
「あ、あいつは……」
「危険だオルトシア、楽ドを連れてこっちに来い! 隠れる場所もない、逃げる場所もない! 私が術で防壁を張る! 一時しのぎだが君も術を使いたまえ!」
 術……? 術ってなんだ……。
「楽ド、君は茶飯の処に行け、君のことはあいつが全力で守る」
「オルトシアは?」
「私も君たちを全力で守らなければ」
 オルトシアが楽ドの身体を持ち上げ、「受け止めろよ!」と茶飯に投げ飛ばす。楽ドは時が遅く感じる空中で、あの子供の姿を出来るだけ見ようとした。彼は楽ドを睨んでいた、他の誰かになど目もくれず、ただ、尋常でない憎しみを楽ドに向けていた。
 しかし、次の瞬間、彼が刃を向けたのは近くにいるオルトシアだ。オルトシアの周りに白い光のくっきりした文字が大量に発生する。それは丸い陣を組み、何重にも重ねられてあの子の前に展開された。
「魔術――貴様らもやはり逃げ出した実験体か!」
 その言葉にオルトシアが反応する。
「実験体だと!? まさか君はディヴァート・ウェザから来たのか!」
 楽ドは茶飯に受け止められ、茶飯の周りに緑色の文字が集まり、地面から自分たちの頭上まで7重の魔方陣が描かれた。
「さ、茶飯これって」
「魔術だ――……安心してくれ、私は人間だ。ディヴァート・ウェザから来た実験体でもない」
 説明になってない、そう言えばユヤの奴らも言ってたけど……魔術っていったい何なんだ。
 オルトシアに向けられた子供の攻撃で、白い魔法陣が最後の一枚になるまで破壊される。陣は割れ、文字は空気中に漏れ出し消えていく。茶飯の陣はオルトシアの陣の後ろにあるおかげか、相手の力が軽減され、文字たちがビリビリとは揺れたが未だ継続中だ。……力が軽減? 力――何かの力。それを操る方法が魔術!
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