リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディノル

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「じゃあディヴァート・ウェザってのはなんなんだ!」
「ユヤのことだ。いや、正確にはユヤの中にいる研究者たちがそう呼んでいる」
「どういう意味の言葉なんだよ!」
「分からない。奴らは空の楽園と呼んでいたが――」
 なぜそんなことを茶飯が知っている。奴らとは誰のことを指す、呼んでいたとはそいつらがいる場で聞いたことがあると言う意味でいいのか。
「茶飯、俺に何を隠してるんだ!」
 掴みかかれば、彼は眉間に皺を寄せて唇を血が滲むまで嚙んだ。茶飯の瞳が涙で揺れ、彼は血を垂れ流させたまま口を開く。
「妻と子供が攫われた……軍に入ったのは家族を助ける為だ。オルトシアを探していたのも、彼に協力を頼もうと思っていたからだ」
「どうして隠してたんだ!」
「子供も大人も攫われるが、子供の方が連れ去られる確率が高い! だから君たちは武軍にいた方が安全だとあれほど……! 奴らは人々を空腹から救い、歌で洗脳した後連れ去る!」
「空腹……歌……やっぱりあいつらのことか!」
「何の話だ!? あいつらって、会ったことがあるのか!」
「勘付いて逃げたけど、目を付けられてる、ユヤの浮いている可能性の話をしたから……」
「ユヤが浮いているだと!?」
「可能性だ」
「いや、それなら奴らがユヤを空の楽園――ディヴァート・ウェザと呼んでいることと繋がる」
 待て。空の楽園だって?
「…………違う、空の楽園って、もしかしたら……本当は、ユヤってまだ、空を飛べるんじゃないのか? 落ちたんじゃなくて、降りてきたんだとしたら……?」
 茶飯の顔が驚愕に歪む、後ろにいるチビたちは理解出来ていないみたいだったが、ラ矢はずっと驚いたような顔で楽ドを見ていた。
 茶飯が歯を食いしばり、拳を握り締めた後に耐えられないと言わんばかりに言った。
「実験体を集めるために……! 降りてきたと言うのか……!」
 楽ドはあの子供の方を見る、オルトシアと子供は激しい戦闘を繰り広げている。何もない世界で目に見える力は地面だけになってしまったが、空気の割れる音や魔方陣の激しい揺れ、地震と地鳴りが、すぐそこで発生する圧倒的な力を肯定している。
 オルトシアの白い文字はもう組むことさえ困難になってきている。楽ドは話している間も彼らの戦闘から目を離さないよう観察していたが、オルトシアはまだ自分の身を守る事しか出来ておらず、一度も反撃出来ていない。
 防御の魔法はもう重ねることさえできなくなっている。展開できるのは一枚だけだ――でも彼には治癒がある、きっと大丈夫――そう思った矢先のことだ、オルトシアの魔方陣とその周辺を舞う白い文字たちが、まるごとすべて、一瞬にして無に返った。
 オルトシアの指先から血しぶきが上がり、両手、両腕、左胸と、順番に血と塊に変化する。――一瞬過ぎて、楽ドたちの目には大量の青緑色の煙が上がったようにしか見えなかった。
「オルトシア!」
 楽ドが飛び出そうとするのを、茶飯が抑え込む。
「落ち着け、よく見てみろ」
 オルトシアの残った身体の傷口から緑の光が放たれ、骨や皮膚、青緑色の血液や血管までもが作られていく。
「緑龍子……」
 楽ドが呟いた時、あの子供の動きが止まる。オルトシアは息を整えるのに必死で、反撃のチャンスにありつけない。
「……君たち人間は愚かだ。その力を手に入れて得したことがあるのか。人間から掛け離れているくせに、なぜ君たちは人間と呼ばれ続けている。せめてもっと人間らしくなくて人間である呼び方をされていれば怒りを感じなくて済むと言うのに……君たちは人間もどきだと名乗りたまえ。それが正しい、君たちは人間ではない、しかし人間でもある中途半端で説明のつかない存在だ。その名がふさわしいだろう?」
「……じゃあお前はどんな風に名乗る気なんだ? 新しい実験体か何かなのか――こんな力は見たことも受けたこともない」
 名前――……そういえば聞いたことなかったな。
「……私は人間じゃない。だがやつらは私を人間だと言う。私をディノルと呼んで敬う」
 ディノル……?
「ディ……ノル、だと」
 隣で酷く動揺する茶飯を見て、楽ドは彼が特殊な存在であることを察する。
「茶飯、ディノルってなんだ――!」
「地球滅亡の原因。奴らの実験の要。実験体の未来の姿だ。彼と同じ存在を作る為に実験体が存在するようなモノ」
「あいつと、同じ存在――……」
「ディヴァート・ウェザで生まれた人工生命体――どこかの誰かがあの美しさに魅了されたか、あの圧倒的な力に魅了されて、始められた人体実験……。彼は誰にも触れられず大切に保管されていたと聞いた。なぜ外に出てきている――何が起きているんだ」
「……ほ、保管ってなんだよ……」
「実験体には出来ないから見本として飾られていたと言うことだ」
 飾られ――……
「簡単には実験できない理由があるらしいが、まだ情報が掴めていない。奴らに遭遇するのも一苦労だが、口が堅くて情報を漏らさない奴らが大半なのだ」
 楽ドはあの子供を見つめる。オルトシアはふう、と息をついてから微笑みを浮かべた。
「…………そうか。君がディノルか」
「…………」
「俺はずっと君に会いたいと思ってたんだ」
「……なぜだ。実験がしたいなら研究員になれば良かった。君は優秀な研究員候補だったそうじゃないか」
 え……? と楽ドは思う、茶飯を見ればこくりと頷く。
「あれは手違いだったんだ。俺も何が何やらでびっくりしたんだぞ」
 それを聞いてあの子が言う。
「うん、そうらしいな。突然姿を消し、大勢の実験体とその源になる成功体達を逃がしたと聞いた。何故そんなことをした」
 え……!? と楽ドはまた茶飯に振り返る。彼は自分のことのように嬉しそうに笑って頷いた。
「何故って。助けたいと思ったからだ」
「は?」
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