死なない死刑囚の恐怖

ゆきもと けい

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14章 終息への糸口

死なない死刑囚の恐怖

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 熊野は今、高校時代の友人の研究室に来ていた。

 福崎さんと会った2日後、福崎さんから若い刑務官一人が亡くなったとの知らせを受けた。亡くなったのは佐伯の執行ボタンを押した一人だという。
 死因は自宅の風呂場での溺死だそうだ。
 自殺や事件性がなく、遺書なども見つかっていないことから、事故で処理されたそうだ。

 もちろん、事故でないことは熊野も福崎も理解していた。
 もしかしたら、アバターが刑務官の頭を押さえて、湯船に沈めたのかもしれない。
 福崎は、彼に事実を事前に伝えていなかったことを、後悔しているような電話口の口ぶりであった。
 しかし、熊野はどちらが正解だったかどうかの判断はできないだろうと、思っている。

 それ以降、他の刑務官たちは、佐伯の執行に立ち会う者はいなくなり、今では数時間置きに刑務医が脈を確認する程度になっているそうだ。
 拘置所内では、『佐伯の呪い』とも噂されているそうだ。

 佐伯は1か月近くも飲まず食わずであの状態で生きているのだから…
 しかも、表情が微妙に変わってきていることにも気づいているようだ…
 もはや人間ではなく、バケモノという扱いになっているのだろう…

 季節も晩秋から冬に移行し、年末もそろそろ、視野に入ってくる。

 昨夜、熊野は友人から連絡をもらっていた。熊野は文系大学出身だが友人は理数系大学の出身で、今、有名国立大学で遺伝子工学の研究をしていた。

 それを思い出した熊野は彼に例のCDの複製を渡し、調べてもらっていたのだ。
 熊野が説明すると、最初、友人は

「お前、気は確かか…」

 と真顔で言われた。

 熊野は今までの経緯を丁寧に説明し、どこまで納得してくれたのかは不明だが、とりあえず、CDを確認してみると言ってくれた。

 その結果がわかったので、連絡をくれたのだろうと思っている。

 彼の研究室には様々な本やら検体らしき物やら、見慣れぬ物が数多く置かれている。細身で長身の彼は白衣を着ていた。部屋には彼しかいなかった。
 少し大きめの何の飾り気もない、木の四角いテーブルの上には例のCDが1枚だけ置かれていた。椅子に座るように促されると、彼も熊野の前に座り、

「とんでもない研究だ。俺でも理解できない箇所がいくつかある。ただ、お前が言っていた通り、人間の複製を作る研究をしていたようで間違いない…」

 彼はCDのケースを人差し指でポンポンと叩いた。
 熊野は黙って頷いた。

「こういう言い方が正しい表現かどうかわからないが、非常に研究され尽くされていて、素晴らしい…そう…ある意味論文で発表してもおかしくないくらいだ…
しかも、一応成功しているようだしな…」

「一応…?完全な成功ではないのか?」

 熊野は友人を見詰めるようにしながら問うた。

「俺も最初はそう理解した…だが、分離した後の人間が完全な人間の複製ではないことに気づいたのさ。細かい説明は省くが、要は分離した人間は徐々にその遺伝子が失われ、姿が消滅していくようだ。それは研究していた学者先生も理解し、改善しようとしていたようだが、結論はでなかったようだ」

「それはどういう意味だ?」

 熊野は身を乗り出すようにした。

「分離していられるのはせいぜい1か月程度。それを過ぎると、遺伝子の伝達がうまく伝わらず、徐々に破壊されていくみたいだ…」

「じゃぁ、1か月も過ぎれば、いなくなるわけか…そろそろ終わりか…」

(今まで犠牲になった人には申し訳ないが、これ以上犠牲者を出さずに済むなら、幸いだ。執行中の佐伯の刑も終わる)

「いや…そう簡単でもない。そうなったら、一旦、本人に戻り、『完全な不完全な人間体』としてまた復活すれば良いようだ…」

「…」

「結論を言うと、お前の話が全て真実であり、この事態を終息させたいなら方法は2つしかない… 一つは分離した人間を本人に戻させない方法、もう一つは本人に戻った分離体を本人から切り離させない方法だ。いずれの方法でも分離体は維持できなくなり、本人も死亡する… それしかない…」

「その方法は?」

「わからない…書かれていない…」

 友人は首を振った。

 熊野は大学を後にした。

 友人はもう少し、ヒントがないか調べてみると言ってくれた。

 結論はでなかったが、終息への糸口はとりあえず見つかった…
 後は、どう対処するかだ…

 刑務官B 享年30歳


  14章 終息への糸口 完 続く
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