転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

文字の大きさ
12 / 38
第一章 少年は旅立つ

7.狩るものと狩られるもの2

しおりを挟む
 「こっちだ!」

 里林を抜けた僕たちに、大きな声が掛けられた。
 その声の主は、冒険者の仲間で一際大きな体躯の人だった。
 声につられて冒険者の他の仲間たちもこちらに寄ってくる。
 総勢、四人。

 僕たちは彼らに向かって全速力で走る。

 いつの間にか日は落ちて、あたりはすっかりと暗くなっていた。
 月明かりと彼らの持つ松明を頼りにあたりを見渡すと、里林のちょうど開けたところらしい。
 ここなら里もすぐそこだ。
 きっと父さんが宿屋に迎えにきているだろうから、駆けつけてくれるのも時間の問題だろう。
 

 くるる……
 ぐるあああああああ!!!

 ほど近い茂みで、そんな声が聞こえた。
 
 間に合わない。
 僕は直感でそう感じた。
 僕か、ドリーか、それともアンか。
 強い殺意が衝撃のように発せられ、僕の足元がもつれる。

「くっ……」

 思わず、僕は足を止めて振り向いた。

「ウェダ!」
「ウェダ!?なにしてる!?」

 ドリーとアンはしっかりと手を繋ぎながら僕を追い抜いていく。
 いいぞ、二人とも。
 そのまま走れ。
 そして父さんに知らせてくれ。

「バカ!坊主もこっちにこい!」
「英雄気取りは早えぞ!くそ、でかくないか!?」
「二人は確保した!」
「お前はその二人を里まで連れて行け!」

 そんな声が次々と聞こえる。
 よかった。二人に護衛をつけてくれた。
 きっと里まで無事に辿り着ける。
 
 そして、僕は目の前の魔物を睨みつける。
 立ち止まった僕を、獲物にすると決めた魔物に。
 都合よく僕につられて立ち止まった魔物に。

「ひっ……」

 その目はらんらんと輝いて、御馳走を目の前にした飢餓者のよう。
 月明かりに輝く銀の体毛は鋼のよう。
 そして、だらだらと涎を垂らすその口はにやにやと笑っているようだった。

 なによりもその大きさ。
 ただの魔物じゃない。
 眼の前で見ると、思っていたよりはるかに大きくて、足がすくむ。

 どうする。
 どうする。
 どうする。

 ……死にたくない!

 そうして、僕はまた振り返り走る。
 僕が動き初めた途端、奴が飛びかかる仕草をしたのが見えた。
 だめだ、食われる。
 あの恐ろしく大きな口に。
 僕がウサギの足にかぶりついたように。

 嫌だ。
 ……嫌だ!

「坊主!飛べ!」

 言われて反射的に強く大地を蹴る。
 ガチンッ、と後ろで金属音にも近い何かが聞こえる。
 それが魔物が噛み付こうとして逃した音だと気付いたときの恐怖。
 そして、言われるがまま飛んだはいいがこの先の展開を考えたときの恐怖。
 怖くて、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
 飛び込んだ先には一際大きな体躯の冒険者がいて、他の人より重厚なその腕にしっかりと抱き留められる。
 胸当ての金属プレート部分に頭をぶつけ、ただでさえぐちゃぐちゃの頭がぐわんぐわんする。
 その人は、そのまま流れる動作で俺を後ろに放り投げた。
 投げられながら見たのは、再びあんぐりと口を開けた魔物とそれに対峙する冒険者。
 いつの間にか抜刀していた冒険者は、その大きな体躯で魔物と見合っていた。
 それでも魔物のほうが大きくて、僕に安堵はなかった。

「我は盾、我は壁……オラァ!かかってこい!」

 冒険者が叫ぶ。
 あれは父さんに習ったことがある。
 鉄壁の呪文。
 皮膚を硬化させる魔法。
 自信満々に出てきたのにはちゃんと理由があったんだ。
 それでも――

 「ぐっ……」

 ぞぶり、と噛まれる冒険者。
 かろうじて腕と剣を挟み込んで、首を噛まれるのは避けているようだ。
 例え、硬化させても所詮肉と皮膚。
 持ち前の肉体を生かして僕の代わりに壁になる冒険者。
 その胆力に僕は泣きそうになる。

「ぼっちゃん、もう大丈夫だぞ」

 投げられた先で別の冒険者に受け止められた僕はそう言われ、こくこくと頷く。

「なに、心配することはない。今からおっちゃんたちがあいつを退治してやる」

 また別の、ローブを着た冒険者が言う。

「ちっ……弔い合戦だ」

 僕たちだけ逃げてきたことで、それとも魔物の姿を見て何かを察したのか、その瞳は松明に照らされ煌々と燃えていた。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

嘘つきな君の世界一優しい断罪計画

空色蜻蛉
ファンタジー
誰も傷つけないよう付いた嘘が暴かれる時、誰よりも優しい青年の真実が明らかになる。 悪逆非道な侯爵家に生まれたリトスは、王太子妃を狙っている妹の野望を阻止し、実家を良い感じに没落させて、自分は国外追放されたいな~と考えていた。 軟派で無能な侯爵令息を装い、妹の対抗馬である庶民出身のテレサ嬢を支援したり、裏でいろいろ画策していた。 しかし、リトスの完璧な計画は、国外から招聘された有名な魔術師レイヴンによって徐々に暴かれていく。 リトスとレイヴン、二人の【星瞳の魔術師】が織りなす、オリジナル世界観の異世界ファンタジー物語。 ※女性向けハイファンタジー&ブロマンス作品です  恋愛がメインではないので既存の女性向けカテゴリに分類できず・・主役二人の関係性はBLに近いです。  主人公最強、かつ相方も最強で、対等に戦うライバル&相棒です。  主役二人が水戸黄門よろしく事件を恰好よく解決していくお話になります。いっそ文芸の方がいいのかも? ※カクヨム、エブリスタ、Talesで連載中。掲載サイトによって進行がちがいます。  また、番外編の掲載の仕方も各サイトの仕様に合わせて変えています。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...