転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

幕間 レヴィ・マティウス1

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 世間のことなんてどうでもいい。
 私は研究に没頭さえできればなんでもいい。
 例えそれが悪魔に魂を売るような状況でも。
 私、レヴィ・マティウスはそう思って生きている。
 この世にはわからぬことがたくさんある。
 この世にはわかりたいことがたくさんある。
 そしてそれをこじつけや妄想ではなく、きちんとした観測を根拠に検証することを教えてくれた人がいた。
 だから私は研究さえできればそれでいい。

 そう思っていたからジェダの奴にも協力したし、王宮に取り入って莫大な予算も確保できた。
 それがなんだ?
 魔物討伐だ?
 人手が足りないから今すぐ行け、だ?
 
 答えはノーだ。
 まっぴらごめんだ。
 私は研究に忙しい。

 そう言ったら、予算を減らすって言ってきやがった。
 だから仕方なく出撃した。
 まあ、いい。
 そう決まったなら成るようにしか成らない。
 予算確保用にご機嫌伺いで作った新兵器の実験だと思えばいい。
 そんな気楽な気分で私は出撃した。
 
 しかし、私が辿り着いたのは「村が魔物に襲われた」という言葉通りの惨状真っ只中だった。
 食事時で火を扱っていたせいもあるのだろう。
 火の手は休むことなく広がり続け、そこかしこからうめき声が聞こえる。
 生きたまま肉を食われ、骨を砕かれる恐怖。
 目の前で毎日顔を合わせていた誰かが、無造作に爪で裂かれ、内臓を貪られ、助けを乞うこともできぬまま死んでいく。
 くちゃくちゃと肉を喰らう音と、ぱちぱちと火の粉が舞う音。
 身の毛もよだつ不協和音と光景を見ても、私はやるべきことを成さなければならない。

「歩兵隊、散開して生存者を探しつつ敵を殲滅。魔物は逃げるのであればよし。救助を優先しろ。中央付近に広場がある。そこに集合せよ。残りは直進して中央広場を確保、臨時拠点とする。出撃!」


 号令に答えるように動き出す。
 まったく、なんで私が軍人の真似事をせねばならぬのだ。
 私は研究がしたいのだ。
 それをこのような絶対に間に合いもしない村への増援の指揮など。
 もちろん私の研究成果を実験するにはちょうどいい。
 しかし、なんなのだ。この胸糞悪さは。
 この惨状は。
 私のせいではない。
 私のせいではないのだが。

「マティウス卿!」
「なんだ!」

 不機嫌を隠さずに返事をする。
 くそ。らしくない。
 私は――

「先に、生存者発見!魔物が多……」
「馬鹿野郎!総員抜剣!助けろ!後衛は陣地確保!」

 ああ、ほんとにらしくない。
 私は研究できればそれでいいのに。

 周りを押しのけ前に出る。
 この辺りは開けていて見通しがいい。
 走り出してすぐに何人か着いてきた。
 先を見ると魔狼が十、我先にと四人の村人を食い漁っている。
 暗くてよくわからないが、あれは子供じゃないのか。
 あの小さい手は、足は、子供なんじゃないのか。
 そらそうだ。
 魔物にとって大人も子供も関係ない。
 皆等しく餌でしかないのだ。
 そして、その牙はまた新たな贄を求める。
 魔物が振り向いた先、そこには尻餅をついたような体勢で、がちがちと震える子どもがいた。
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