転生勇者二世の苦悩

曇戸晴維

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第一章 少年は旅立つ

18.正気と狂気1

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 破裂音が鳴ると、魔物たちはばたばたと倒れていく。
 僕はそれをただ眺めている。
 
 あんなに怖くて強かったのに。
 強靭で凶悪で恐ろしかったのに。
 僕はたぶん、魔法っていうものに人より慣れているほうだし、父の言い分が正しければ相当な教育を受けているというのにその光景はまさに魔法というよりなかった。
 そうして夢中になっている間も僕はずるずると引きづられていく。

「やっほー!やっぱり開発して正解だったなー!元老院の爺どもにも見せてやりたいね!あンの老害どもが見たら心臓止まっちゃうか!ハッハー!!」

 僕の首根っこを両手で掴みながら言う。
 僕を助けてくれたあの温もりも香りも全部、幻だったんじゃないかと思うくらいのテンションだ。

「いやあ君も運が良かったね!どうだい!私が開発したマスケッティアは!いや、開発といっても発想は私が出したわけではないんだけどね!」
 
 その人の綺麗な白い髪が、いまだ燃え盛る炎が反射して橙色にも見える。

「苦労したよお。使えるものを作れ、なんてなにを言っているんだか。そもそも私の研究は魔法というものの原理を解明するためにあるわけでその知識こそが使えるものだと誰も理解できないのだから!」
 
 真っ黒のぶかぶかのローブの裾が地面をずりずりと這う。
 
「マティウス卿!さっさとこちらへ来てください!」
「うるさいな!こっちは子ども一人抱えているんだ!私は根暗な研究者だぞ!そんな力はないんだからそういうなら君が来たまえ!」

 その人は、一際大柄な兵士を叱りつけるように理不尽なことを言った。
 兵士たちは皆、儀仗のような杖を持っている。不思議な構えだった。
 大柄な兵士は言われ、近づいてくると僕を立たせる。

「君、怪我はないか?すまないね。彼女はいささか特殊で」
「こら!聞こえてるぞ!」

 大柄な兵士は苦虫を噛み潰したような顔でそっぽを向いた。
 そして僕は、僕を助けてくれた白髪のローブの人の顔をやっと見られたのだ。

 肩口で切りそろえられた白髪。
 前髪を鬱陶しそうにかき上げるその仕草。
 すると覗く、眉間の皺。
 切れ長な目の中に見える、強い意志を持った瞳。
 薄い唇。
 透き通るようなハスキーボイス。
 一見、美男子かと見紛うほどの中性的な顔。
 
 僕はその人を知っていた。

「……レヴィ……さん?」

 大柄な兵士と、その女性は驚いたように顔を見合わせ、僕をじっと見る。

「ん……んう?」
「卿、どこでこんな子引っ掛けたんですか……」

 女性は躊躇いのない蹴りで大柄な兵士を吹き飛ばした。
 そして、僕の顔を覗き込む。
 
「あー……ウェダ。ウェダなのかい?ウェダ・イスカリオテ」
「はい。レヴィさん、ですよね」
「ああ!なんということだ!大きくなったねえ!久しぶり!」

 レヴィさんは無邪気な笑顔を見せてくれる。
 そして仰々しく両腕を開いたと思ったら、思い切り抱きついてくる。
 ふわっと、柑橘が香った。
 レヴィさんは僕の耳元でこう言った。

「ウェダ、あとできちんと説明するけど、君の名前と立場を利用させてもらう。汚い大人だと罵ってくれていい。すまないが、私は君の父君――ジェダのように強くはないのでね。
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