異世界の叔父のところに就職します

まはぷる

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第一章

はじめてのお使い 3

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「これ頼むわ」

 手渡されたのは、小冊子ほどもある紙の束だった。
 紙にはびっちりと物品名らしきものが書き綴られており、これが全部買い物の中身らしい。

 日本語で書かれているので読むのには問題ないが、名前から物が想像できないのは困る。
 一応、『リンゴみたいなもの』『鉛筆ふうのもの』『金槌的なもの』等の注釈は隣に書かれているが、発音やアクセント含めて片言の外国人みたいになりそうだ。

(ってか、『みたいな』とか『ふうの』とか『的な』って……いい加減な)

 大雑把なのはいかにもあの叔父らしいが、反して書かれた文字が達筆なのがもやもやした。
 文字間隔やバランスも絶妙で、非の打ち所がない。
 やっぱりもやもやする。もやもや。

 渡されたものは、他には言われていた手紙が一通と、大八車とお金の入った皮袋。
 大八車を用意していた時点で、『ついでに買い物』ではなく『がっつり買い出し』であったことが確定した。
 お金は硬貨ばかりで、詰まった皮袋はバスケットボールほどもある。日本円にして3万円ほどらしい。
 重さが数キロはあるので、大八車に放ってある。

 叔父が外出した後、リィズさんとリオちゃんに見送られて、1時間余り。
 俺はなぜか、異世界の地を大八車を引きながら闊歩していましたとさ。まる。

 行程は半分ほど。
 魔石のおかげか疲労感はないが、日本より日差しが多少強くて暑い。
 懸念していた未知との遭遇もなく、ただひたすら自然あふれる中を突き進んだ。

 なにかあっては困るが、まったくないのもそれはそれで拍子抜けだ。
 暇つぶしにと、進行方向に鎮座する手頃な岩を前に、大八車を停めて構える。

「炎よ! (中略) ゴッドネス・ファイヤー!!」

 大仰に叫んでポーズを決める。
 岩は燃え上がり、すぐに鎮火した。

「いやー、気持ちいい! 人に見られさえしなければ、なんとかなるな!」

「にーたん、かっくいー! あいやー! あいやー! きゃは!」

 無邪気な笑い声と、拍手喝采。
 大八車に目を向けると、覆い布の下から飛び出したピンクの尻尾と、大きな帽子の下に、見知った幼女の顔があった。

「リオちゃん!?」

「あーい」

 手を挙げて元気よく返事する従姉妹を見て、頭が痛くなった。

 現状から察するに、見送りした後、追いかけてきて潜り込んだのだろう。
 お出かけ用らしき帽子まで持参しているところを見ると、最初からそのつもりだったらしい。
 今まで大人しかったのは、そのまま寝てしまってでもいたのか。

 とにかく、今頃リィズさんも心配しているかもしれない。
 それに、危険もある。叔父の耳に入ったときの、俺の命が。

「どうして来ちゃったの?」

「りおも、まちにいくー」

「行ったことあるの?」

「ないー。ぱぱ、だめっていうもん」

 うん、まずいこと決定。

 せっかくここまで来たが、戻るほかない。
 街は出直すか、日を改めるしかないだろう。

「パパがダメって言うなら仕方ないよ。今日は帰ろっか」

 ”帰る”の台詞を口にした途端、リオちゃんはひきつけを起こしたように息を呑んだ。

「う~~~~」

 大きな瞳いっぱいに涙が浮かぶ。
 格ゲーなら、必殺ゲージがぐんぐん溜まっていくのが目に見えるようだ。

「う~~~~~~~~」

 涙の表面張力が限界まで達する寸前――

「わかった、わかりました! 連れて行くから!」

 俺はあっさり白旗を揚げた。

 泣く子には敵わないとはよく言ったものだ。
 あと、愛娘を泣かしたと知られても、どのみち危機が訪れそうな。

「ほんと? やたー!」

 現金なもので、涙はきれいさっぱり消えていた。
 上機嫌に戻ったリオちゃんの頭を撫でてあげて、再び大八車を引きはじめる。

「ごどねすあいやー! ばぐーん! ぼーん! あいやー!」

「勘弁して」

 リオちゃんは先ほどのがよほど気に入ったようで、大八車に仁王立ちし、しきりにポーズを決めていた。
 誰もいないと思って、はっちゃけた自分が恨めしい。

 最終手段として、こっちに持参してきた飴玉(ロイヤルリッチみくる味)をリオちゃんの口に突っ込むと、必死な顔で舐めはじめて大人しくなった。
 リスが木の実を頬張っているかのような仕草が、かわいらしい。

 その後、駆けっこしたり、肩車したりと遊びながら進むと、体感としては半分ほどの時間で街に着いた。

 やはり、この異世界は世界観的に中世欧州に近く、街並みも石畳にレンガ、石造りの建築と雰囲気あるものだった。
 街の入り口を潜ると、すぐに商店が立ち並ぶ辺り、規模は大きいほうなのだろう。

 ファンタジー的に、異種族が入り乱れる様を期待していたが、通行人は普通っぽい人間ばかりだった。
 人間の街、という叔父の言葉を思い出した。
 この異世界では多種族が生活しているが、種族ごとに独自のコミュニティが形成されており、その棲息地から出てくることは稀らしい。

 リオちゃんも初めて見るという街並みと人の多さに、目を瞬かせて興奮気味だ。
 忙しなくきょろきょろするため、帽子が落ちそうになるのをキャッチして被り直させる。
 真昼は越えているとはいえ、まだ陽が高く日差しも強い。預かりものの子が、日射病でもなったら大事だ。

「ぱぱだー、ぱぱー」

 突然、リオちゃんが大八車から身を乗り出して手を振る。

 視線の先を追ってみるが、それらしき人はいない。
 同じ歳くらいの男性や背格好の似ている人も多い。さすがに気のせいだろう。

 リオちゃんの興味はすぐに別のものに移ったようで、今度は道端で戯れる小鳥に向かって『あいやー』を放っていた。
 道すがらの人たちが微笑ましく笑っていた。勘弁してほしい。

 街中の店をぐるぐると回り、なんだかんだで買い物リストはほとんど消化できた。
 売っている店がわからなかったりもしたが、なんとかゼスチャーやニュアンスで乗り越えた。異世界でもボディランゲージは有効らしい。

 まあ結局、書かれている物と現物が一致しているのか最後までわからない物もあったが、それくらいは許容範囲としてもらおう。

 渡されたお金も結構余った。
 同行するリオちゃんの舌足らずな物言いとあどけない仕草で、どうもだいぶ値引きしてもらえたらしい。
 皮袋いっぱいの硬貨は、まだ半分くらい残っている。

(お次は手紙か……)

 荷物山積みの大八車を引き、指定されたもうひとつの目的地へと向かうことにした。
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